変わらなければならない仕事
受託開発と保守サービスに打撃 IT基盤開発は乗っ取られる  |
システムコンサルタント 坪田竜一マネージャー |
さまざまな変化を求めるクラウド。とくに変化が要求されるITベンダーの仕事はどのような分野か。
まず、ITの基盤(プラットフォーム)を開発する分野だ。情報システムは、その基盤をつくるプラットフォーム層とユーザー企業が実際に端末で使うアプリケーション層に大きく区分けできる。クラウドで影響が出るのが、プラットフォーム層と呼ばれる分野だ。この分野が、クラウドに置き換わる可能性は高い。
ユーザー企業がITで差異化を図ろうとする分野は、実際に端末を使って操作するアプリケーションの場合が多い。それを動作させるプラットフォームは、極端にいえば、ユーザー企業にとっては何でもいい。ユーザー企業によっては、自社のシステムで、どのようなミドルウェアが動いているかさえ、知らないケースもある。
自動化・標準化技術を多用したクラウドを使うことで、これまで個別にプラットフォームを構築した場合に比べてコストを大幅に削減できる可能性がある。そうなれば、プラットフォーム開発という仕事が減少するのは間違いないだろう。
中堅SIerで、クラウド事業を09年から研究しているシステムコンサルタントの坪田竜一・第一営業部クラウドシステムインテグレートサービス担当マネージャーは、「われわれはプラットフォーム関連のシステム構築をあまり手がけていない。だから、クラウドの事業に踏み込みやすい。もし、プラットフォーム構築のボリュームが大きければ、既存ビジネスに悪影響が出ることを恐れて、なかなか踏み込めないだろう」と話している。
汎用アプリはクラウドに移行  |
東芝ITサービス 石橋英次社長 |
では、アプリケーション層に影響はないのかといえば、そんなことはない。顧客の要望に沿ってイチからシステムを開発する受託ソフトには、影響が及ぶ。ユーザー企業が、他社とは違うアプリケーションをもつことによって競争力を高められるケースは間違いなくある。だが、経理など、どの企業でも同じような業務のためのアプリケーションであっても、パッケージソフトを使うよりもITベンダーにイチからつくらせるユーザー企業は多い。
東洋ビジネスエンジニアリングの元社長で、今はアイティ・フロンティアの社長CEOを務める千田峰雄氏は、「日本はパッケージソフトを利用する企業が他の国に比べて少ない」と説明している。だが、クラウドの登場によって、「競争力アップにつながらないアプリケーションは、クラウドに移行しようとする動きもある」(ノークリサーチの岩上由高シニアアナリスト)。そうなれば、受託開発案件は自ずと減っていく。
もう一つ、打撃を受けそうな分野が、開発の後にある保守サービスだ。保守サービスとは、主にユーザー企業が保有するハードウェアに故障がないか、定期点検して、万一何かあった場合は数時間以内に駆けつけて修理するサービスだ。大手の国内コンピュータメーカーは、こうした保守サービス会社を子会社として必ず抱えている。全国津々浦々どこでも均質のサービスを提供するために、多くの拠点とCE(カスタマ・エンジニア)と呼ばれる膨大な人員を抱えている。
もし、クラウドでユーザー企業が情報システムをもたなくなれば、駆けつける必要がなくなり、均質のサービスを提供するために必要だった拠点も人員も不要になる。東芝グループの保守サービス会社である東芝ITサービスの石橋英次社長は、「すべてがクラウドに移行するとは思えない。端末はユーザーの手元に残るので、保守サービスのビジネスがなくなることは考えられない」と反論する。だが、「クラウドがもっと普及すれば、今のままの保守サービス体制を変更する可能性は当然ある。何らかの対策を講じる必要がある」と付け加える。東芝ITサービスは、3年ほど前からクラウドの影響などについて調査・研究する専門チームを立ち上げている。
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