このところ、中堅・中小企業(SMB)向けの基幹系業務システムをクラウドサービス化する動きが活発になっている。一方で、パッケージ販売に一層注力するメーカーも少なくない。メーカー間の戦略の違いが際立ってきた。2011年はクラウドサービスの“拡販期”になりそうだが、基幹系業務システムについては、販社もユーザー企業もクラウドかパッケージかの見定めが求められる。
一気にクラウド、とはいかない!?
メーカーに温度差 情報系システムに遅れて、基幹系業務システムに“クラウドの波”が押し寄せている。富士通の「GLOVIA smart きらら」やインフォベックの「GRANDIT for Cloud」、日本オラクルの「Oracle Fusion Applications」のほか、エス・エス・ジェイのSaaS対応版「SuperStream・NX」、NECの「EXPLANNER for SaaS」など、枚挙にいとまがない。
一方で、パッケージビジネスに注力するメーカーも少なくない。オービックビジネスコンサルタント(OBC)は自社主導ではなく、NECネクサなどの販売店が独自にSaaS提供するというかたちをとっている。「OBCやOSKは販売店やパートナーへの影響を懸念している」(調査会社・ノークリサーチの岩上由高シニアアナリスト)のが、実際のところだろう。パッケージ販売が好調であるということも、クラウドビジネスに踏み切らない理由の一つとして考えられる。
クラウドに慎重なSMB 年商5億円未満の小規模企業と中堅・中小企業とでは、IT活用の実態や抱えているニーズなどが大きく異なる。
小規模企業・SOHOの多くは、手書きや表計算で会計処理を行っている状況がある。つまり業務のIT化が進んでいないのだ。
メーカーはSaaSを訴求しているが、弥生の岡本浩一郎社長が「パッケージはオンラインアップデートをしているし、データバックアップサービスを提供している。クラウドでもローカルでそれなりにCPUを使う」というように、SaaSであることが企業にとってメリットとなるのかどうかは慎重に見定める必要がある。
ノークリサーチの調査によると、ASP/SaaS形態で会計システムを利用している年商5億円未満の企業は、0.7%にとどまる。認知度・理解度の低さという問題も考えられるが、岩上シニアアナリストは、「年商5億円未満の小規模企業ではSaaSのメリットを見出しにくい。だから、すそ野が広がるとは限らない」と説明する。
SMBは、クラウドに興味・関心を示し、主にコストメリットを享受したいという思いが強い。クラウドサービスの選択肢は増えてきているが、個別カスタマイズや他システムとの連携が施されたERPなどの基幹系業務システムをクラウド移行することは容易ではなく、足踏み状態にあるという指摘も聞こえる。
岩上シニアアナリストは、IaaSの視点によるクラウド移行を選択肢の一つとして示している。「ハードウェアの環境をサービス形態で提供して、ユーザー企業側でVPNで接続すれば、ユーザー企業は自社専用のサーバールームをクラウド上に実現できる」とする。
ただし新規導入の際は、SaaS/ASPも有力な選択肢となってくる可能性があるという。ノークリサーチの調査によると、2009年のSMB向けERP市場は、リーマン・ショック以降の経済環境悪化の影響を受け、2008年比9.8%減の3090.8億円だった。年商5億円以上500億円未満のSMBでは7.1%減少した。2010年も「更新需要が主体となる横ばい状態が続き、新規投資に向けての需要が本格的に回復し始めるのは2011年以降」と予想している。新規投資の回復を待って、基幹系業務システムのクラウド移行の動きが活発化するかもしれない。
小規模企業・SOHO市場
SaaSに本腰 小規模企業、SOHOに強い弥生は、SaaS型業務ソフトウェア「弥生オンライン」を2011年中に提供開始する。岡本社長は「マッシュアップが容易になる」と話す。
「弥生オンライン」の提供体制は現在のところ不明だが、会計事務所・税理士事務所の取り込みが普及に向けて重要になってくる。
将来的には、徐々にパッケージに見劣りしないサービス内容・機能にしていき、「最終的には何らかの形で融合させる」(岡本社長)ようだ。
「弥生オンライン」の第一弾は「初心者向けの統合型サービス」(岡本社長)の位置づけで、パッケージとは補完関係にある。手書きやPCの表計算ソフトウェアなどで会計処理を行っている膨大な数にのぼる企業の自計化率の向上が狙いだ。
すでに、マイクロソフトとの協業で自計化率の向上を大きく謳っているが、「弥生オンライン」はこれを後押しする。3年間で36万社の「業務IT化」(自計化率の向上)を掲げている。
弥生に先行する試みはすでにいくつかある。
ビジネスオンラインが提供する「ネットde会計」は、商工会議所などを通じて普及している。
会計事務所向けの会計専用機や財務・税務の業務ソフトに強みをもつ日本デジタル研究所(JDL)が提供する「JDL IBEX net」は月額350円からの料金で給与ソフトや会計ソフトを使うことができる。
また、会計事務所向けシステム市場に参入したアカウンティング・サース・ジャパン(A-SaaS)は、会員となる会計事務所と協力して会計事務所・顧問先企業向けシステムを開発しているのが特徴で、顧問先向けの財務会計システムは会計事務所に無償で提供している。
小規模事業市場は同社のほか、数多くの企業が攻略しようと躍起になっている、いわばホワイトスペース。中小企業のIT化促進という意味では弥生と目的を同じくする。
介護市場に切り込む SaaSに対して静観の構えをとるソリマチは、介護事業所向けの会計ソフトを投入し、「新しい市場づくり」(片原範之・SMB事業部取締役事業責任者)に乗り出した。片原取締役は「今後大きな市場の伸びが期待できる、数少ない分野」と話す。
特徴的な機能は、部門設定・勘定科目の設定だ。許認可を受けている介護サービスを選ぶだけで、会計の区分に必要な部門を自動設定する。介護事業所特有の勘定科目もあらかじめ設定されている。
「これまでなかった製品。それだけに、店頭に置けば売れていくとは考えていない」(片原取締役)。だが、予想に反して問い合わせが多いとホクホク顔だ。2010年11月に発売して以来、すでに70を数える会計事務所を通じて販売する体制が整っている。これを、まずは100事務所にまで拡大する考えを示している。
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