社会インフラ系も活発化 業界標準ビジネスプラットフォーム全体を見渡すと、さまざまなレイヤに分かれる。最も規模が大きいのはスマートコミュニティに代表される社会インフラ系だ。NEC、東芝、日立製作所、富士通といったメーカー系を中心とした巨大ITベンダーが虎視眈々と商機をうかがっている。スマートコミュニティは、地域医療ネットワークや電力向けのスマートグリッド(次世代送電網)をはじめ、交通、鉄道、家庭向けに至るまで社会全体を“つなぐ”役割を担う。広い意味での業界標準ビジネスプラットフォームと見なすことが可能だ。
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東芝ソリューション 河井信三社長 |
東芝ソリューションの河井信三社長は、「“つなぐ”ところを担うソリューションベンダーが最終的に勝ち残ることになる」と読む。それぞれの分野の中核となるネットワークは、おそらくクラウド的なものになるとみられ、ここを担うベンダーはユーザーの業務システムにも深く関わることになる。地域医療ネットワークを担うベンダーなら、医療機関で使う電子カルテやレセプトシステムの少なくない部分を担うことになり、スマートグリッドならば家庭や事業所に設置されるスマートメーターから発電所プラントに至るまでの総合力が求められる。こうした特性から、スマートグリッドのケースでは、東芝や日立など重電系が得意とする分野となるだろう。
だが、見方を変えれば、中核となる業界標準ビジネスプラットフォームから外れたベンダーは厳しい状況に立たされることとなる。先のNTTデータや野村総合研究所(NRI)の例をみても、地銀や証券会社が共同利用型システムへ移行すればするほど、基幹業務システムを個別に開発するビジネスチャンスは減っていく。野村證券のケースでみれば、同社の基幹業務システムを担っているNRIは、少なくとも共同利用型の「STAR-IV」サービスに吸収される分に関しては、手組みによる個別開発はなくなる。
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SCSK 中井戸信英社長 |
そしてまた、プラットフォームづくりをハードウェアの側面から支えるのは堅牢なDCである。中小規模のビジネスプラットフォームであるならば、DC専業ベンダーなどから借りるほうが効率的ではあるものの、大規模システムを運用するとなるとDCへの投資は避けられない。2012年だけをみてもNRI、新日鉄ソリューションズ、キヤノンMJ-ITHDがそれぞれ首都圏に大型DCを増設する予定だ。DCインフラが大きければ大きいほど、請け負うことができるシステムの許容量も大きくなる。
DC運営に長けたSIerとして、ITホールディングスや日立システムズが挙げられるが、SCSKも旧住商情報システムと旧CSKが経営統合したことで「全国屈指のDC規模に拡大した」と中井戸信英社長は胸を張る。昨年10月1日付で経営統合した同社だが、「旧住商情報のDCは、旧CSKとは比べものにならないくらいの小規模」(同)だったといい、統合後は首都圏と関西圏を合わせて10拠点に拡大。クラウドコンピューティングをはじめとするプラットフォームビジネスを伸ばしていく方針を示す。
epilogue
業界再編を後押しする可能性
本分である業務ノウハウで差異化を
情報サービス業は今、クラウド化やグローバル化の転換期にある。従来型の受託ソフト開発の伸びが見込めないなか、業界標準ビジネスプラットフォームは次世代を担うビジネスモデルとして期待が集まっている。データセンター(DC)や業界標準を狙える独自の業務アプリケーションの開発など先行投資的な設備負担が大きくなるため、これに見合う企業体力を身につけるための業界再編が加速する可能性が高い。
投資体力という側面では、中堅・中小SIerに不利ではあるものの、「DCだけでは差異化につながらない」(大手SIer幹部)のもまた事実だ。DCの場所を貸し出すハウジングならば、DC専業ベンダーに一日の長があり、価格競争にも巻き込まれやすい。
そうではなく、SIerの本分であり、強みでもある業務アプリケーションで真の差異化を図るべきだろう。対象とする業界が限定されていたとしても、その分野でトップになるオンリーワン戦略を進めることで業界標準ビジネスプラットフォームを手にすることは十分に可能だ。