大塚商会
3Dデータ関連ソリューション全体で販売
●3Dプリンタは商材の一部 
賀屋元男
課長 大塚商会では、およそ8年前に3Dプリンタの販売を始めている。3Dシステムズやストラタシスなど海外大手メーカーだけでなく、国産の3Dプリンタなども手広く揃えており、ユーザーに多様な選択肢を提示している。販売台数は順調に伸びて、マーケティング本部CADプロモーション部製造プロモーション2課の賀屋元男課長は、「前年比で約20%増の勢いで売れている」という。
大塚商会の戦略は、3Dプリンタだけでなく、3DCADやCAM(コンピュータ支援製造)、CAE(設計・開発工程支援システム)、3D金型専用設計システムなど含めた3Dデータ関連ソリューションをトータルで提供するというものだ。実は、3Dプリンタは装置だけ購入しても造形物を出力することはできない。出力するには、3DCADや3DCG、3Dスキャナによって作成した3Dデータが必要だからだ。従来から3Dデータ関連ソリューションを手がけてきた大塚商会は、「3Dプリンタが中心というよりも、むしろ3Dデータに着眼点を置き、企画から設計、加工、検査、保守などの製品展開のライフサイクル上で必要となるソリューションを提供している」(賀屋課長)。ユーザーは、3Dデータに関する必要な製品を大塚商会ですべて揃えることができるし、大塚商会にとっても案件単価を伸ばして、収益を拡大しやすくなるというわけだ。
しかし、3Dプリンタビジネスは順調に伸びているものの、課題もある。賀屋課長は、「問い合わせは増えているが、そのうちの3分の2は、3Dプリンタに詳しくないお客様で、なかには、3Dデータがなければ造形物を出力できないことすら知らない人もいる」という。
●ユーザーの理解不足 話題が先行している3Dプリンタだけに、「これを活用すれば、簡単に立体造形物がつくることができる」と安易に思い込んでしまうユーザーは少なくない。しかし、実際には3Dデータの作成が必要なだけでなく、造形するまでの工程で、3Dデータの検証や、プリンタ用に出力するためのツールパスデータへの変換などの作業が発生する。さらに造形工程でも、形を崩れないようにするために造形物を支えるサポート素材を出力する必要があり、3Dプリンタの機種によっては、その除去作業などの負担が大きかったりする。実際にユーザーが3Dプリンタを活用して造形物を作成するためには、高度なスキルとノウハウが求められるのだ。そのため、3Dプリンタに関する知識が浅い顧客に対しては、3DCADシステムの導入を提案するだけでなく、3Dデータの作成の仕方も教えていく必要がある。賀屋課長は、「IT企業にとって必要なのは、ユーザーの3Dプリンタへの理解を促進することだ。単純にコピー機や複合機の販売と同じと思ってはいけない。3Dデータの作成が肝になる」と指摘する。
DMM.com
ECサイトをものづくりのプラットフォームへ
●参入障壁が高い造形受託サービス 
岡本康広
プロデューサー 3Dプリンタを販売するのではなく、自社で導入して、ユーザーから立体物の造形を委託するサービスを提供する企業が増えている。DVD通販や動画配信を手がけるDMM.comもそのうちの一社だ。昨年7月に自前の「3Dプリンティングセンター」を設け、DMM.comのウェブサイトを通じて法人や個人から立体物の造形を受託して、完成品を郵送するサービスを展開している。DMM.comでは、従来からECサイトを展開していることもあって、決済や物流の仕組みを構築していることが、3Dプリンタビジネスへの早期参入を促す要因となった。3Dプリント事業部営業部長の岡本康広企画営業プロデューサーは、「すでに、月平均で約4000件の造形物を受託製造している」と好調をアピールする。
こうした造形受託サービスを展開する企業はほかにも富士通やNEC埼玉などがあるが、岡本プロデューサーは、「当社の強みは、11種類の素材を造形できることと、納期が短いこと、価格が安いこと」とアピールする。
DMM.comでは、3Dプリンタビジネスを開始するにあたって、数億円の投資をかけて装置を調達し、専門の人材を育成している。9台の3Dプリンタを保有しているが、どの機種もユーザーのニーズに応える高品質の高級機で、対応する素材や造形手法の範囲が広い。大規模な投資をかけて、競合他社に先行してスキル・ノウハウの向上に努めている。
しかし岡本プロデューサーは、「業界最安値で提供しているので、利益率は高くない。当社の真の狙いは、造形受託サービスではなく、ものづくりのプラットフォームをつくることを目標としているからだ」と語る。DMM.comでは、将来的に、DMM.comのウェブサイト上で、ユーザーの3Dプリンタの造形物を販売したり、ユーザー間で造形物のアイデア募集や3Dデータ作成を委託し合ったりできるようにして、ものづくりに関わる企業やクリエイターにとって欠かせないプラットフォームにすることを狙っているのだ。造形受託サービスは、ひとまず認知度を高めて、ユーザーを増やすためのトリガーに過ぎないというわけだ。
●API連携でIT企業にチャンス 岡本プロデューサーは、「製造受託サービスは、IT企業にとっては参入障壁が高い」とみている。なぜなら、多額の投資が必要になるからだ。法人向けに造形受託するためには、それなりに高機能な3Dプリンタを用意する必要があるが、IT企業が数千万円もする装置を購入することは容易ではない。それも、一台だけでは、造形方式や素材が限られてしまう。
そこで、DMM.comは、3Dプリンタビジネスを検討しているIT企業に対して、パートナーシップを提案している。「当社のウェブサイトと連携するためのAPIを提供している。パートナーに、自社で製造受託を請け負うためのウェブサイトを設けて集客をしてもらい、実際の受託は当社が行うなどのビジネス連携を模索している」(岡本プロデューサー)という。これならば、パートナー企業は、装置を購入しなくても3Dプリンタビジネスを開始することができる。DMM.comの造形受託サービスは、ユーザー側で3Dデータを作成することになっているので、現在の顧客は3Dデータの専門知識をもつ層に限られている。パートナー企業が、独自にユーザーの要望に合わせた3Dデータの作成・変換・検証サービスなどを行えば、DMM.comとしても、3Dデータ活用スキルをもたないユーザー層を取り込むことができるというわけだ。
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