ワークスアプリケーションズが新型ERP「HUE(ヒュー)」を発表した。衝撃的だったのは、「圧倒的なユーザビリティ」「圧倒的な高速処理」を掲げ、データベースに分散キーバリューストア(KVS)を採用して、リレーショナルデータベース(RDB)からの脱却を打ち出したことだ。ユーザーの支持を得られれば、RDBの使用を前提としてきたERP、ひいては基幹システムの領域そのものに、パラダイムシフトを起こす可能性がある。HUEのイノベーションのポイントと、ワークスアプリケーションズのビジネス展望、ERP市場に与える影響を探った。(取材・文/本多和幸)
ワークスアプリケーションズ
新たなエンタープライズITのあり方を問う
HUEでグーグルに並ぶ使い勝手を
入力業務の最小化を目指す

牧野正幸CEO HUEが提示する価値は、最終的には「圧倒的なユーザビリティ」に集約される。それを支えるための重要なファクターとして「圧倒的な高速処理」を実現したという。
「圧倒的なユーザビリティの向上」とは、何を指すのか。ベンチマークとしているのは、グーグルだ。牧野正幸CEOは、「エンタープライズITは30年間、根本的な進化はしていない。ERPも、いってみれば1ミリずつしか進歩してこなかった。結果として、コンシューマ向けのITにユーザビリティ、そしてテクノロジーの先進性で完全に追い越された」と指摘する。ユーザビリティとエンジニアリングの先進性の両面で、グーグルに追いつき、追い越すERPを目指す。それが、ワークスアプリケーションズがHUEに込めた思いだという。
HUEの特徴1
サジェスト機能
具体的に、HUEで実現できることを検証してみよう。牧野CEOが最大の特徴だと語るのが、入力業務の最小化だ。HUEは、Google検索が提供しているようなさまざまなサポート機能を備えている。一番わかりやすいのは、サジェスト機能だ。システム内を検索する際のキーワード入力はもちろん、各種のデータ入力時に、値のサジェストや補完を行う。さらには各業務シーンに最適化されたIMEも搭載し、キー操作を最大限減らすことで、ERPの入力業務を、「入力」ではなく「選択」にするのだという。
この機能は、モバイル端末で操作しやすくなるというメリットもある。また、入力時のタイプミスも自動補完するなど、「曖昧さ」も許容するとともに、外国語の固有名詞を扱う際も、カタカナ、英語の両方を関連づけて入力候補をサジェストしてくれる。
HUEは自己学習をして、ユーザーが使うにつれ、サジェストの精度をどんどん高めていく。こうした機能はまさに、グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックなどがコンシューマ向けアプリやサービスで実現しているものに近い。

サジェスト機能のイメージHUEの特徴2
DBと連動したスプレッドシード
もう一つ、HUEの注目機能を紹介しよう。各業務システムのデータとExcelのような表計算ツールが融合したスプレッドシート「Enterprise Spreadsheet」だ。「これが、私の大のお気に入り機能」と、牧野CEOは太鼓判を押す。Enterprise Spreadsheetの項目や値は、データベース(DB)から一瞬で引き出すことができ、自由に編集して、そのままDB内に格納するデータをアップデートできる。この操作感も、ERPのDBと連動しているにもかかわらず、クライアント上でExcelを操作するのと同じレベルの軽快さを保っている。
牧野CEOは、「これがあると、データをダウンロードしてExcelに展開して入力・編集し、アップロードして、ほかの人にチェックしてもらうなどの作業が全部不要になる。われわれがHUEで重要視しているのは、オペレーショナルコストの削減だ。情報システム部門はもちろん、担当業務部門のITのオペレーションもどんどん複雑化していて、その負担がバカにならないレベルになってきているが、人員は増やせないので相当大変な状況になっている。HUEはここのオペレーション効率を大幅に改善できる」と説明する。

ExcelやPDFファイルのレイアウト情報をもとに項目が自動的にマッピングされるHUEの特徴3
外部データの柔軟な取り込み・活用
DBのデータ活用だけでなく、外部データの取り込みやコピー&ペーストなども飛躍的にユーザビリティを高めた。
例えば、各種台帳や帳票、レポート類は、最初からテンプレートが用意されているが、社内でこれまで使ってきた雛形に当てはめたいというユーザーも多いだろう。HUEは、ExcelやPDFでつくった既存のデータをサンプルとして取り込むと、レイアウト情報を読み取り、ファイル内のどの情報がDB上のどの項目・情報とリンクするのか自動で解析してレポート上にマッピングする。この機能を「マジックインポート」と呼んでいる。
もちろん、自動解析の結果は個別に修正できるし、レポートの種類によって、どんな項目・情報同士がリンクするのかなども学習していく。レポート類のレイアウトとテンプレート化をスピーディに行うことができ、システム移行や部署間の台帳の統一などで威力を発揮するだろう。
また、「マジックペースト」という機能もあり、例えば取引先の登録をするときに、取引先の会社概要ウェブページなどをページごとコピー&ペーストすると、これもHUEが自動解析して適当な項目に適当な情報を入力する。
牧野CEOは、こうした機能すべてを、「これまでのERPでは実現し得なかった優位点」と語る。まさに、入力業務の省力化をさまざまな角度から追求したといえそうだ。
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