アベノミクスが及ぼす経済波及効果に大いなる期待を抱いて始まった2014年。前半は、Windows XPのサポート終了と消費税が8%になる前の駆け込み需要で沸いた。後半の急激な円安進行は不安要素となりつつあるが、株式市場の強気相場が続いていることもあって、多くの企業が積極的にITへの投資を続けている。一方で、「技術者が足りない」という状況は常態化していて、深刻な問題になりつつある。こうしたなかで、キーワードとしては横綱級の貫録さえ出てきた「クラウド」が健在。むしろ、クラウドの動向をみれば、ありのままのIT業界がわかるほど、“2014年はクラウドの年”だったのではないか。(構成・文/畔上文昭)
大手がクラウドに本腰
1月23日、米IBMはx86サーバー事業の売却でレノボと合意したと発表。それは、退路を断ち、クラウドに本腰を入れるというIBMの決意でもあった。また、日本IBMは12月に国内データセンター(DC)を稼働させた。IT業界の巨人が動いたことで、エンタープライズ分野におけるクラウドが活発化する。
次に動いたのは、日本マイクロソフトだ。2月25日、日本マイクロソフトは、国内DCの開設を発表した。続けて3月には、クラウドサービスの名称を「Windows Azure」から「Microsoft Azure」に変更すると発表し、Windowsに加え、幅広いプラットフォームに対応していることをアピールした。こうした動きから、日本においてもIT業界の二大ベンダーがクラウド市場で存在感を示すようになっていく。
価格で勝負に出たのは、米グーグルである。3月25日に開催した自社のイベントで大幅値下げを発表した。ただし、各社がすぐに追随したこともあり、価格だけを大きな差異化要因にするのは難しい分野だということもみえてきた。
こうした大手の動きがあるなかで、この1年も王者の風格をみせたのが、2006年にサービスを開始したAmazon Web Services(AWS)だ。エンジニアの「扱いやすい」という評判は健在で、次々と投入されるサービスの評価も高い。全国各地に支部があるユーザー会の盛り上がりからも、AWSの勢いをうかがい知ることができる。
クラウドの勢力図
こうしたなかで、IaaS/PaaS分野のグローバルシェアが変化したのも2014年であった。調査会社の米シナジーリサーチは、2014年の第2四半期では、マイクロソフトとIBM、グーグル、セールスフォース・ドットコムの4社を合算したシェアが、AWSのシェアを抜いたと発表した。なかでもマイクロソフトとIBMが急成長している。AWSにこの2社を加えて、「2014年はIaaSの三強時代が始まった年」ということになるのかもしれない。
国内クラウドベンダーは、日本企業のニーズに応えることで、確実に成長してきている。グローバル大手のクラウドベンダーのシェアには届かないが、多くの日本企業が進出しているASEANを足がかりにして、国際競争力がつくという展開を期待したい。
また、国内大手サーバーベンダーの方針も明確になってきた。日立製作所(日立)は、IaaS分野などをコモディティ化していると捉え、自前で用意するのではなく、協業していくというスタンスを明らかにしている。富士通も、グローバル大手と競合するのではなく、OEM提供も一つの選択肢とすることで、最適なサービスの提供に注力している。NECも、ユーザーニーズに応えることを重視していて、グローバル大手とは競合しない方針を掲げている。
転職もクラウドファースト
2014年は、多くの外資系ITベンダーで日本法人のトップが交代した。なかでも2014年を象徴するのが、4月にセールスフォース・ドットコム(セールスフォース)の日本法人の代表取締役会長兼CEOに就任した小出伸一氏の人事である。本紙では、5月5・12日号(vol.1529)において「IT業界は転職も『クラウドファースト』」という見出しで報じた。というのも、直前の3月まで小出氏は日本ヒューレット・パッカード(日本HP)の社長を務めていたからだ。
記者会見で小出氏は、セールスフォースのビジネスを「イノベーティブな企業」と表現していて、暗にハードウェア販売を中心とするHPのビジネスとの違いを示していたのが印象的だった。
セールスフォースのPaaS「Force.com」の対抗馬として2014年に大きく飛躍したのが、サイボウズの「kintone」だ。日本人好みといわれる使いやすさがウケて、独自の地位を確立した。ジョイゾーがkintoneをベースにシステムを税別39万円で開発する「システム39」を6月30日に開始したのも、大きな話題となった。
2015年も“雲活”は続く
大手クラウドベンダーの勢力図がみえてきたことで、今後はクラウド活用に向けた提案活動、名づけて「雲活」がますます活発になっていく。2015年は「雲活してますか」が合言葉になるだろう。
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