クラウドに仕事を奪われるとか、何かと負の側面が強調されがちなシステムインテグレータ(SIer)。「SI崩壊」なんて刺激的な言葉も聞かれた。いくつかの特需があって、悪くはなかった2014年のSI業界。東京五輪の決定で「5年後までは大丈夫」という根拠のない楽観論も広がっている。だが、顧客の要望に合わせてウォーターフォール型でシステムをつくり、ユーザーのオフィスに納品するビジネスは減っていくとみられている。仕事がある今だからこそ、これまでとは異なる新たなビジネスに挑戦して、将来の柱を育てておきたい。『週刊BCN』編集部の編集会議で2014年にディスカッションしたネタから、SIerが新たに進む五つの道を提案させていただく。(取材・文/木村剛士)
Road 1
クラウドインテグレータになる
クラウドが、オンプレミス型システムに代わるIT基盤のデファクト・スタンダードになるのであれば、そのクラウド上でシステムをインテグレーションすればいい。ただし、それだけではクラウド化の流れをビジネスチャンスにすることはできない。
日系/外資系ベンダーを問わず、パブリッククラウドは増えている。特徴が異なるクラウドが、多く登場すればするほど、ユーザーは何を選べばいいかわからなくなる。複数あるクラウドの利点と弱点を把握し、最適なクラウドを組み合わせて提供したうえで、運用の面倒もみるITベンダー(クラウドインテグレータ=CIer)がいれば、ユーザーは重宝する。昨年8月に日立製作所が発表した「フェデレーテッド(連合された)クラウド」は、まさにこの実現を標榜している。自社/他社製、プライベート/パブリックを問わず、複数のクラウドを結びつけて一つのマネジメントツールで管理できる。あたかも一つのクラウドインフラのように利用できるわけだ。
パブリッククラウドの販売で目立つのは、アイレットやクリエーションライン、サーバーワークスなどITベンチャーの存在。大手SIerが守ろうとする人工(にんく)商売ではないから、クラウドをためらうことなく販売する。こうしたITベンチャーがクラウド市場を盛り上げた。信用力も資金も実績もないITベンチャーが頭角を現すことができたのは、CIerが不足しているという側面もあるはず。システムのオープン化が進んだ頃、SIerの存在価値が高まったときと同じような雰囲気が、今のクラウド市場にはある。
クリエーションラインは、「Amazon Web Services(AWS)」や「IBM SoftLayer」といったクラウドを活用したシステム構築のほか、SIer向けにクラウドビジネスを手がけるためのトレーニングサービスも提供している。CIer養成ビジネスだ。一見すると、ライバルを育成することにもなるビジネスだが、ニーズの高まりを感じて事業を開始している。安田忠弘社長は、「SIer向けにはクラウドに関する技術トレーニングに加え、ユーザー企業向けの販売促進イベントで講演するなど、営業面もサポートしている」という。
パブリッククラウドベンダーは、自社インフラをSIerに活用してもらおうと、さまざまな協業プランを打ち出している。そうした各社のプランに参加するだけでも価値はある。
Road 2
ニュープロダクトを生かす
ウェアラブル端末やロボットを有効活用するのも一つの手だろう。ウェアラブル端末やロボットがSIerと相性がいいと感じるポイントは、メーカーがパートナーとともにエコシステムを形成しようとしている点だ。メーカーの力を借りることができるので、新分野でも参入障壁を下げられる。
NECのコミュニケーションロボット「PaPeRo petit」。身長は24cm、体重は1.3kgの設置型卓上ロボットで、2013年11月に発売した。画像認識やセンサ、音声認識技術を搭載。一部の機能をクラウドに保管し、ネットワークを通じて呼び出して利用する方式を採用したことで、小型化を実現したという。NECは、PaPeRo petitの発売と同時に、PaPeRo petitで動作するアプリケーションソフトを開発する企業と、それらを販売する企業との協業を目指して、パートナープログラムを開始した。開始直後からソフト開発企業からの問い合わせが殺到。それを受けて、NECは14年8月に募集を中断した。体制が整い次第、再開するという。介護施設や公共施設などでの利用が見込め、こうした業種の顧客をもつSIerであれば、追加でロボットを提案できる。
一方、ウェアラブル端末では、エプソン販売が近く、NECと同様にウェアラブル端末で動作するアプリケーション開発者向けパートナープログラムを開始する。
メーカーは、ソフトウェアをスムーズに開発するための支援のほか、マーケティングや販売でもサポートする。新たな分野にチャレンジするには心強いパートナーであり、こうしたプログラムに乗ることは、ニュープロダクトを生かしたビジネスを始めるのに、有効に働くだろう。
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