SIerのアジアビジネスが面的な広がりをみせている。その最前線が南アジア──インドだ。ビジネス領域をASEANまで広げてきた日系SIerは、ASEANとインドの接点の多さに着目。インドに進出することで、ASEANとの相乗効果を狙う動きに出ている。それだけではない。欧米や中東などとも多くの接点をもつインドは、SIerが世界に進出するにあたって重要な拠点となる。(取材・文/安藤章司)
●低水準の一人あたりGDP 主要SIerが相次いでインドとの関わりを深めている。NTTデータは、主に欧米向けのオフショアソフトウェア開発拠点としてインドに約1万人の開発人員を抱えていて、この数は中国の開発人員約4000人の2倍を超えている。日立システムズは、インドの有力SIerであるマイクロクリニック(従業員数約650人)を2014年3月にグループに迎え入れ、インド市場への進出に本腰を入れている。また、CAC Holdingsも、インドのAccel Frontline(アクセルフロントライン)をグループ化して、南アジアや中東での営業/開発拠点数を大幅に増やした。
インドは紛れもなく成長市場である。しかし、中国やASEAN主要国のような消費市場を形成しているかといえば、必ずしもそうではない。日本貿易振興機構(JETRO)の調査によると、インドの2013年の一人あたりのGDP(名目)はドル換算で1505ドル。GDP(名目)が3000ドルを超えると消費市場が急速に拡大するという定説を踏まえれば、まだまだという印象は拭えない。隣のASEANをみると、同地域最大国のインドネシアが同3510ドルで存在感を急速に増している。ASEAN主要国を構成するタイが同5000ドル超え、マレーシアが同1万ドル超えである。
●多面的な関係づくり では、日系主要SIerはどのような動きをみせているのか。端的にいえば、インドとの多面的な関係づくりを目指している。まず一つ目として「グローバルデリバリ体制の構築」がある。インドは世界トップクラスのオフショアソフト開発国であり、とりわけ欧米向けのオフショアソフト開発では断トツの強さを誇る。タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)やウィプロ、インフォシスなど、知名度の高い有力SIerを輩出できたのも、インドの情報サービス業が欧米市場の開拓を成功させたことによるところが大きい。
日系SIerが欧米市場向けのグローバルデリバリ体制を構築するには、インドでの開発体制の整備が近道であり、NTTデータとCAC Holdingsは、おおむねこの考えに沿ってインドとの関係強化を進めている。CAC Holdingsの酒匂明彦社長は「対日オフショアソフト開発を中国、対欧米オフショアをインドとするのは、ごく自然な流れ」と、むしろ欧米向けのビジネスでインドを活用しないという選択肢こそ不自然だといわんばかりだ。IBMやアクセンチュアなどの世界大手ITベンダーがインドを活用して開発力やコスト競争力を高めていることを考えると、「まずは同じスタートラインに立つところから始めるという考え方は納得できる」(大手SIer幹部)と同調する声も多い。
●ASEANや中東との接点 二つ目は「ASEANや中東との相互補完の関係」である。イギリス連邦(英連邦)に加盟するインドは、同じく同連邦のメンバー、ASEAN主要国でもあるマレーシアやシンガポールと関係が深い。実際、マレーシアやシンガポールで活躍するインド系ITベンダーは多く、日立システムズの高橋直也社長も「インドとASEANの関わりは深い」と認めるところだ。さらに、日系ITベンダーがほとんど進出できていない中東市場との接点が多いのもインドの特徴である。インドの主要な貿易輸出入国をみるとアラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアなどの中東国が上位に名を連ねていて、インドとの関わりの深さがうかがえる。CAC Holdingsグループのアクセルフロントラインも、ドバイ(UAE)に主要拠点を置いている。
三つ目は「インド市場そのものをターゲットとしている」ケースだ。先述の通りインド国内の消費市場は小さいといわざるを得ず、一人あたりのGDP(名目)での比較ではベトナムとミャンマーの中間くらいで、中国やタイには遠く及ばずといった状況である。だが、そうしたなかでも「中長期の視野では有望」(日立システムズの高橋社長)という声や、「アジア成長市場は中国とASEAN、インドの三本柱」(野村総合研究所の嶋本正社長)と考える日系SIerトップは少なくない。以下、個別にみていく。
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