日系SIerの狙いは主に三つ
多様なアプローチを展開
ここではNTTデータやCAC Holdings、日立システムズといったインド市場へ積極的に進出している日系SIerの取り組みをレポートする。グローバルデリバリ体制の構築や、ASEANや中東市場との相互補完の関係、インド国内市場への進出──。それぞれの狙いに合わせて、多様なアプローチを展開している。
●グローバルデリバリの拠点 日本の情報サービス業とインドとの本格的な関係拡大は、まず大手から始まった。NTTデータはM&A(企業の合併と買収)をテコに2007年頃から世界進出を急拡大させてきたが、M&Aに際しては、いくつかのポイントがあった。「グローバルスタンダードであるSAPのERP(統合基幹業務システム)を扱えるかどうか」や、「自身のキャッシュフロー内でM&Aができるかどうか」、そして「インドでの開発体制をもっているかどうか」という点も重視してきた。
世界進出を進めるまでは、NTTデータはインドに開発人員をほとんど擁しておらず、海外オフショアソフト開発といえば、対日オフショアソフト開発をメインとする中国だけであった。中国の開発力はすばらしいものがあるのだが、いかんせん対日メインで構築していたこともあって、日本語による日本式のソフト開発が中心。対欧米市場も含めたグローバルデリバリの拠点とするにはやや無理がある。そこで欧米のSIerをM&Aするとき、インドでの開発人員をどれだけもっているかにも着目し、欧米SIerのM&Aを通じて間接的にインドの技術者を1万人規模で獲得してきた。
NTTデータの岩本敏男社長は、「グローバルトップ5入り」を目指すとしている。そのライバルとなるIBMやアクセンチュアは、インドの充実したオフショア開発やアウトソーシング拠点を生かして生産力やコスト競争力を得ている。欧米でのビジネスを成功させるには、トップベンダーがインドで展開しているような体制を、NTTデータも手に入れなければならない。それなしでは、ライバルに追いつけないというわけだ。
●周辺市場と相互補完 
NTTデータ
岩本敏男
社長 現時点でグローバルトップ5を目指す規模ではないSIerでも、インドは縁遠い国ではない。CAC Holdingsは、グローバルデリバリ体制を構築するにあたり、とりわけ欧米向けのビジネスではインドへの進出が欠かせないと判断。インド地場の有力SIerで日本円換算の年商約80億円のアクセルフロントライン(アクセル)を2014年3月にグループに迎え入れた。だが、アクセルが純粋にオフショア開発会社かといえば、実はそうではなく、「インドや中東、ASEAN、米国などで優良顧客を多数抱えている」(CAC Holdingsの酒匂社長)というSIerであった。
つまり、結果的にはCACが欧米/アジアで営業をして、アクセルがソフトを開発するという関係ではなく、CACとアクセルがそれぞれで営業も開発も担う関係になる。そこでアクセルをグループに迎え入れたタイミングの2014年4月に、従来のCACは持ち株会社CAC Holdingsの体制へ移行し、この持ち株会社の傘下に事業会社として、CACとアクセルが横並びになるよう配置し直した。以来、1年近くアクセルと二人三脚でやってきた率直な感想として、酒匂社長は「事業会社同士、お互いにどうメリットを共有するかが、協力関係を強化するうえで非常に重要」と語っている。

CAC Holdings
酒匂明彦
社長 アクセルはインドに複数拠点、海外では英国、ドバイ(UAE)、シンガポール、米カリフォルニアなどに拠点を展開していて、CACも米国や英国、中国、そしてインドに独自の拠点をもっている。それぞれの社歴や顧客が異なるため、そのままでは相乗効果を得にくい。そこでまず始めたのが、インドでの日本のODA(政府開発援助)関連事業や日系企業の案件受注に向けた営業支援だ。アクセルがCAC Holdingsグループに入ったことで、日本の政府や企業絡みの受注は格段に有利になる。これまで受注できていなかった領域だけに「アクセルにとってプラスになりやすい」(酒匂社長)という部分である。
一方、CACからみれば、これまで十分にカバーできていなかったASEANや中東市場に足がかりが得られた点が大きなアドバンテージとなる。年商500億円クラスのフットワークのいい準大手SIerのなかで、英国から中東、インド、ASEAN、中国、米国までのネットワークをもつSIerはそうはいない。グローバル企業へと成長しつつあるCACをみる日本の顧客の目も変わりつつあり、アジア/中東地域へ進出しようとする顧客からの引き合いも着実に増え始めた。と、同時に社内のグローバルに対する意識も大きく変わったという。アクセルがグループに加わったことで、国内と海外に勤務する社員数はほぼ半々となり、「一気にグローバル色が濃くなった」(酒匂社長)という。日本語、英語、中国語などが飛び交い、多様な価値観をもったグループ社員が、それぞれの視点でグローバルビジネスを語り始めていると話す。
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