●インド国内市場への進出 CAC Holdingsと前後して、日立システムズもインドのマイクロクリニック(現日立システムズマイクロクリニック)をグループに迎え入れている。インドに15か所の事業拠点と約150か所のサテライトオフィスをもつ有力SIerであり、日立システムズが属する日立製作所情報・通信システム社グループで「比較的手薄だった南アジア市場でのビジネスを補強する強力なパワーになる」(日立システムズの高橋社長)と話す。

日立システムズ
高橋直也
社長 日立システムズが目指すインドでのビジネスのあり方は、「1.5ティア(中堅・準大手)を目指す」というものだ。インドの情報サービス市場を分析するとタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)やウィプロ、インフォシスなど、ファーストティアの超大手が幅を利かす反面、それ以外は「中小SIerばかりで、中堅・準大手が非常に少ない」(高橋社長)という。これはインドの国内市場がまだ十分に成長しきっておらず、欧米向けのビジネスで伸びた大手と、国内ベンダーとの差が開いていることが理由として挙げられる。日立システムズは、この間隙に食い込もうというわけだ。
一人あたりのGDPでは、インドの水準はまだ不十分だが、2014年5月に就任したナレンドラ・モディ首相の経済政策は「国内外で高く評価されていて、今後の経済成長を期待できる」(高橋社長)という。また、インドと同じ英連邦に参加するマレーシアやシンガポールとの経済的な結びつきが強いため、マレーシアの大手ITベンダーのサンウェイテクノロジーグループと合弁会社を運営する日立システムズとしても、インドのマイクロクリニックとの相乗効果や補完関係の構築を狙っている。
かねてからマレーシアを同じイスラム文化圏である中東市場へのゲートウェイと位置づけている日立システムズにとって、ASEANと中東の間にあるインドは地政学的にも重要な位置にある。日立システムズは昨年10月下旬、マレーシア合弁会社の日立サンウェイインフォメーションシステムズと、インドの日立システムズマイクロクリニック、中国の日立系統(広州)、米国キュムラスシステムズの計5人の社長と第1回目の“社長会議”を東京都内で開催。成長市場をターゲットとする経営戦略について白熱した議論を交わした。「お互いが遠いので、2回目以降はビデオカンファレンスでもいい」と高橋社長は提案するものの、「熱血漢ばかりで、恐らく毎回、どこかに集まって、お互い膝を突き合わせながら、腹を割って議論することになるだろう」と話す。
日立グループは、社会イノベーションを軸にインドにおける事業規模を2015年度(16年3月期)までに2011年比で約3倍に相当する3000億円にすることを目指していて、このうち情報サービス領域では日立システムズグループが中核的役割を担っていく。
記者の眼
面的広がりの嚆矢 M&Aがカギ握る

日本タタ・
コンサルタンシー・
サービシズのアムル・
ラクシュミナラヤナン
社長 日本の情報サービス業界は、リーマン・ショック以降、アジア成長市場へ本格的に進出してきた。最初は対日オフショア拠点として、すでに太い結びつきがあった中国市場であり、次にASEAN市場へと広がりをみせた。そして、日立システムズやCAC Holdingsが相次いで大型M&Aを実施し、インド市場への本格参入を決めたのは、中国/ASEANからさらに一歩踏み出してインド、中東方面への面的な広がりの嚆矢として注目に値する。
ある日系SIer幹部はASEANに進出してから「マレーシア、シンガポールとインドITベンダーとの結びつきが予想以上に強くて驚いた」と話す。この背景には、ともに英連邦に加盟し、かつビジネスで英語が何不自由なく使えるという点も大きい。こうした歴史的背景が参入障壁となるため、日系ITベンダーがM&Aなしに、現地法人だけで非日系ユーザー企業の顧客を開拓するのは難しいといわざるを得ない。逆にいえば、インドのITベンダーが日本市場に参入するハードルも高い。だからこそ、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)は三菱商事との合弁というかたちで、旧アイ・ティ・フロンティア(旧ITF)を買収することで、日本での事業を一気に拡大させる手法に出た。
日本タタ・コンサルタンシー・サービシズのアムル・ラクシュミナラヤナン社長は「旧ITFは日本の顧客と太い信頼関係を築いてきた会社で、このコネクションを引き続き大切にして、一段と関係を強めていくことが日本でのビジネス拡大のカギを握る」と、旧タタ日本法人だけでは不十分だった日本とのコネクションを旧ITFと一緒になることで手に入れたと話す。
日本の情報サービス業においてインドとの接点が、中国などと比べて圧倒的に少なかっただけに、地場市場にすばやく根づくためには、やはりM&Aが重要なカギを握るといえそうだ。