2015年度政府予算が閣議決定され、IT関連施策の内容も確定した。昨年、政府のIT戦略「世界最先端IT国家創造宣言」が早くも改定されたが、これに合わせて、各府省庁が展開する個別の施策もアップデートしたかたちだ。政府はITを活用してどんな社会をつくろうとしているのか、2015年度の注目事業と合わせて展望する。キーワードは、「マイナンバー」「地方創生」、そして「おもてなし」である。(取材・文/本多和幸)
確定した2015年度IT関連予算
総額はほぼ横這いも、内訳に変化
●マイナンバー制度がいよいよスタート 
内閣官房IT総合戦略室
森山和浩
参事官補佐 1月14日に閣議決定した政府の2015年度予算案のうち、IT関連施策に関わるものは、9536.7億円が計上された。また、1月9日には2014年度の補正予算案も閣議決定しているが、こちらは684.2億円をIT関連施策に割り当てた。いずれも、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)が各府省庁のIT関連施策予算を集計した速報値だが、14年度当初予算のIT関連施策分が9752億円、13年度補正予算では472億円だったため、予算規模としては前年度比でほぼ横這いといっていい。
ただし、内訳(表参照)を細かくみると、状況の変化が如実に反映されていることがわかる。まず、今年10月からマイナンバー(社会保障・税番号)制度がいよいよスタートするが、これは予算の構成に非常に大きな影響を与えている。表をみると、15年度当初予算案では、「公共サービスがワンストップで誰でもどこでもいつでも受けられる社会の実現」という項目に6457.8億円と突出して多額の予算が計上されている。主に国の情報システム整備・運用に関する予算だが、現在、中央省庁が「政府共通プラットフォーム(PF)」という統合基盤を用意してシステムやネットワークの統廃合を進めていることを勘案すれば、本来ならこのコストは下がるはず。にもかかわらず、この項目に14年度を超える額を計上しているのは、マイナンバー対応の予算を盛り込んでいるからだ。内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室の森山和浩参事官補佐は、「マイナンバー対応のためのシステム改修もさることながら、10月には実際に仮カードの発行による番号通知、16年1月には希望者への個人番号カードの発行が始まる。それに向けての予算が必要になる」と説明する。マイナンバー制度の浸透を図るために、個人番号カードは無料で配布する方針で、489億円を用意して、「粛々と混乱なく進めたい」(森山参事官補佐)としている。
●「地方創生」関連事業を重視 
内閣官房IT総合戦略室
濱谷健太
参事官補佐 安倍政権が昨年取り組みを加速した「地方創生」に関わる事業も、重点的な予算配分がなされた。代表例として、「起業家精神の創発とオープンイノベーションの推進など」に、15年度当初予算案で前年度比約2倍の9.9億円、14年度補正予算案でも2.9億円を計上している。内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室の濱谷健太参事官補佐は、「地方の活性化には、産業、雇用の創出が不可欠。地方でITベンチャーなどを育ててそうした動きをリードしたい」と話す。具体的には、経済産業省が新規にベンチャー支援事業を立ち上げる。
このほか地方創生関連では、「雇用形態の多様化とワーク・ライフ・バランスの実現」にも、15年度当初予算案で前年度比約2倍の13.2億円、14年度補正予算案でも10億円を計上した。総務省が女性の活躍支援策としてテレワーク環境のすそ野拡大のための新規事業を始めるほか、厚生労働省もテレワークモデルの実証事業を行う。場所や時間にとらわれない働き方を実現できる環境を整備することで、地方在住者の仕事を確保する考えだ。
●「おもてなし」にも新規の予算 昨年6月には、政府のIT戦略「世界最先端IT国家創造宣言」が改定された。2013年6月の発表から1年での改定だったが、この間、東京五輪の開催が決定。ITを活用して国としてのホスピタリティを向上させることが、最重要施策の一つとして盛り込まれたかたちだ。表中では、「東京オリンピック・パラリンピック等の機会を捉えた最先端のIT利活用による『おもてなし』の発信」が関連施策に該当し、15年度当初予算案、14年度補正予算案で合計約30億円を新たに計上した。「地方創生と並び、東京五輪関連事業は15年度予算案、14年度補正予算案でひときわ重視している」(濱谷参事官補佐)という。
15年度、とくに重点を置いているのが、無料公衆無線LAN整備の推進と、多言語音声翻訳システムの社会実装だ。いずれも総務省が手がける。
総じて、キャッチーなテーマに重点配分した、“わかりやすい”予算案になったといえそうだ。次頁では、15年度のIT関連施策の重点分野といえる「マイナンバー」「地方創生」「おもてなし」に焦点を当てて、政府の基本戦略と15年度事業の具体的な内容を詳しくみていく。
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