対話型ロボットは普及元年か
人とのコミュニケーション用途で、今年が普及元年になりそうなのが、対話型コミュニケーションロボットだ。ソフトバンクの「Pepper」が登場することで、注目度が高まるのは必至。実は、長期的にみれば、こうした対話型ロボットは、工場などで利用する産業系ロボットよりも成長率が高い。
●対話型ロボット続々登場 昨年6月、ソフトバンクは感情認識型ロボット、Pepperを発表した。Pepperで動くアプリケーションソフトを充実させることを優先して当初の予定を変更し、一般発売日は2015年2月を2015年6~8月に延期したが、話題性は抜群。ソフトバンクという大手企業がロボット事業に参入したことのインパクトは大きく、対話型ロボットの認知度は一気に高まるはずだ。この2月には、人工知能システム「IBM Watson」を採り入れることを発表。すでに研究開発が進んでいるという。PepperとWatsonという知名度の高い二つのロボット(テクノロジー)のタッグは、ロボット業界とIT業界を大いに刺激する。
一見すると、ロボットとは縁遠いエンタープライズIT系ベンダーも、こうした対話型ロボットをソフトバンクよりも先行して販売している。NECは「PaPeRo petit」を2013年11月に発表しているし(前身のPaPeRoの発売は2001年)、富士ソフトは2010年に「PALRO」を発売している。富士ソフトの坂下智保社長は「当社の強みである組み込みソフト開発の経験を生かして商品化した。ようやく(需要が高まってきた)という印象」と苦笑する。気長にビジネスを継続して様子をうかがい、やっとビジネスにつながり始めている感触を得ているようだ。
東芝は、2014年10月に開催されたIT・エレクトロニクスの総合展示会「CEATEC JAPAN 2014」で、人間のような容姿の対話型ロボットを参考出品した。現在は、挨拶や手話などの動作にとどまるが、研究開発を長期的に進めて、2020年にはセンサ技術、音声合成・認識技術、ロボットメカ制御技術などを搭載し、高齢者・認知症患者の話し相手や、遠隔カウンセラー、高齢者見守りロボットなどに進化させる計画。福祉・ヘルスケア分野での拡販を計画している。
●ロボットアプリのマーケットプレイス こうしたコミュニケーション型ロボットを開発するのはハードルが高いが、そこで動作するアプリを容易に開発できるような仕組みがあることが、対話型ロボット分野におけるIT業界のうれしいところだ。
例えば、NECはPaPeRo petitで動作するアプリを、ソフト開発企業が容易に開発できるようなプログラムを用意した。NECはAPIを提供し、ソフト開発の効率化を支援。最新情報や先端事例も共有できるので、ソフト開発企業はビジネスを展開しやすい。NECの仕組みは、ロボットビジネスに興味をもつソフト開発企業の多くに受け入れられ、問い合わせ殺到で現在は一時的に新規の申し込みを断っている状況だ。ソフトバンクがPepperの一般発売を延期したのも、開発者による購入の申し込みが予想以上に多かったため。対話型ロボットをビジネスに活用しようとする動きが活発な証といえる。
今後、ロボットが普及すれば、アップルの「App Store」のようにウェブ上からロボットのユーザーが、ロボットで動かしたいアプリケーションをダウンロード・決済して、ネットワークを介してロボットにインストールするといったかたちになってくるはず。スマートデバイス向けアプリや業務用SaaSのマーケットプレイスのような環境が対話型ロボット業界にも起きる可能性がある。
●将来は、ロボット産業の主役に 実は、こうした対話型ロボット(サービス系ロボット)分野は、現在は市場規模が小さいものの、成長率は工場などで用いられる産業系ロボット(製造分野)よりもはるかに高い。経済産業省のレポート(2013年7月発表)によれば、サービス系ロボット市場は、2035年に4兆9568億円に達する見通しで、2015年に比べて約13倍伸びる。一方、現在主役の製造系ロボットは、2035年は2兆7294億円で2015年に比べて約2.7倍。サービス系ロボットのなかでも、介護・福祉施設向けの需要が高まる見込み。高齢者向けサービス事業において、ロボットが入り込む余地が大きそうだ。
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