産業系ロボットは「Industry 4.0」の動向に注目
現在は最も市場規模が大きい産業系(工場用)ロボット。人口減少を補う役割としてロボットが製造現場で活躍するシーンは確実に増えるだろう。工場のロボット活用で今後、欠かせないキーワードになるのが「Industry 4.0」。発信地はものづくり大国、ドイツだ。工場での製造工程を限りなく自動化するコンセプトを指し、実現のポイントになるのがITの活用だ。
●ものづくり大国の先進プロジェクト Industry 4.0は、ドイツ政府が産官学連携でモノづくりの高度化を目指す国家プロジェクトだ。製造工程における「ムダを徹底的に省く=可能な限り自動化する」ことがコンセプトで、そのカギを握るのがIT。具体的にはM2Mのテクノロジーである。
M2Mは、機器同士がネットワークを通じてデータを受発信し、人を介さずに自動的に動作すること、またはそのテクノロジーのことを指す。Industry 4.0では、ロボットやFA(ファクトリー・オートメーション)機器だけでなく、生産管理システムなど情報システムと連動させる。
そのため、このプロジェクトを推進するメンバーとしては、経済界からはロバート・ボッシュやシーメンスといったドイツを代表する製造業のほか、ERP世界最大手のSAPも参画している。ITを重要視している証だろう。プロジェクトは、機器や情報システムが通信し合う通信手段や異なるジャンルやメーカーの製品でも連携動作がしやすいように調査研究を進めている。
●遅れている日本の取り組み 「Industry 4.0のような業界の垣根を越えた産官学の取り組みが日本にはないといっていい。次世代の工場のあり方を議論する仕組みが、日本はドイツや米国に比べて大幅に遅れている」。富士通のものづくり革新の担当者はこう嘆く。「Industry 4.0のような先進的なビッグプロジェクトが推進できていないだけでなく、日本はITとロボット業界の交流が薄い。これではロボットとITの融合なんて進まない」と声高に警鐘を鳴らす。確かに、日本のロボット産業界で最大規模の業界団体で、ファナックや安川電機といったロボット大手が参加する日本ロボット工業会の正会員に名を連ねているITベンダーは、富士通しかいない。このことからも交流がないことがわかる。
日本では、経済産業省が2014年からやっとIndustry 4.0の調査研究を始めたくらいのレベル。ドイツだけでなく、米国では、ゼネラル・エレクトリック(GE)が主導して、Industry 4.0と同様のコンセプトとして「Industrial Internet」を提唱。他企業との協業関係を築き始め、工場丸ごと自動化に向けてプロジェクトを走らせている。ものづくり立国として依然、世界では存在感を示している日本だが、ロボット×ITによるフルオートメーション工場の実現で遅れをとれば、その力が弱まるのは必至だろう。業界の垣根を越えたプロジェクトを動かすための政府の強力なリーダーシップが求められる。
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