景気の回復によって、企業のITへの投資意欲が活発化しているといわれるなか、都市部ではビジネスチャンスをつかもうとITベンダー各社が製品・サービスの提供に力を入れている。大阪でも、徐々にではあるが受注案件が増えており、新しい技術に関心を高めるユーザー企業が出てきている。今、大阪でビジネスを手がけるベンダーや協会・団体はどのような状況にあるのだろうか。動きを追った。(取材・文/佐相彰彦)
1.今だからこそ商機あり
新規顧客開拓の体制整備へ
ベンダーの動き
大阪のIT市場について、大手の電機メーカーやITベンダーに共通する意見は「今だからこそ商機がある」ということ。各社とも、得意の業界を攻めてビジネスを拡大することに強気な姿勢をみせている。また、パートナー企業や販社の支援強化など新規顧客を開拓する体制を整えている。
●パナソニック
「タフパッド」でワークスタイル変革へ 
落合為仁
主事 パナソニックは、法人事業でタブレット端末「タフパッド」シリーズやノートPC「タフブック」シリーズの販売が好調に推移している。特定用途での利用が進んでいる状況で、ワークスタイル変革を実現する端末として高い評価を受けている。
タフパッドとタフブックの一番の売りは、とにかく耐久性が高いこと。機械工場の粉じんや食品工場の水濡れなど、モバイル端末の利用が難しい場所でも故障を気にせずに使えることを評価するユーザー企業が多い。落合為仁・ITプロダクツ事業部国内営業グループ主事は、「工事現場や点検の作業などでも好評で、特定用途とはいえ、その活用方法は広がりをみせている」という。
タブレット端末といえば、以前はiPadを利用する傾向が強かったが、「(『タフパッド FZ-G1』など)Windowsを搭載したタフパッドが、社内システムと親和性が高いという点で導入を決めたというユーザーの事例もある」と、iPadから乗り換えるケースが出ていることもアピールしている。現在は直販と間接販売が半々だが、「当社が成功事例を増やして、販売パートナーに横展開するという取り組みも進めていきたい」との考えを示している。

パナソニックではWindows搭載のタフパッドが工事現場などで高い評価を受けている(写真は「FZ-G1」) ●富士通システムズ・ウエスト
統合から2年、成長軌道へ 
岡村宣和
取締役 2012年4月1日に西日本にあるSE会社の6社が統合して誕生した富士通システムズ・ウエスト。統合後の初年度(2013年3月期)は業績が下がったものの、13年度(14年3月期)には売り上げ・営業利益ともに増加。関西システムラボラトリに拠点を集約し、6社のさまざまな文化が融合。統合から2年が経過して、成長軌道に乗った。
実際の案件に関して、岡村宣和・取締役兼執行役員常務兼産業ビジネスグループ長兼経営推進本部長は、「大阪は、老舗企業の多い製薬と住宅の業界が強く、大手企業を中心に案件を獲得しやすい市場だ。加えて、最近では中堅企業のシステムリプレース案件も出てきている状況」という。とくに製造業では、大手企業が厳しい状況下でも、下請けの企業が独自に成長できるようにIT化によって「攻めの経営」に出る動きが現れているそうだ。例えば、海外ビジネスの拡大を目指す家庭用・業務用の手袋専業メーカーから、「GLOVIA smart PROFOURS」とSAPのERP(統合基幹業務システム)との連携稼働という案件を獲得した。このほかにも、同社が製造業向けに提供している製品・サービスの導入が増えているという。
加えて、最近では「初期コストを抑えることができるため、クラウドサービスへの導入ニーズが高まっている」とのことだ。このような状況から、今年度も増収増益になる見込みだ。
●NEC
自治体でマイナンバーのニーズ 
鈴木幸司
執行役員 NECは、近畿2府4県で40自治体にシステムを提供している。その自治体からマイナンバー(社会保障・税番号)制度の実施に伴うシステム増強のニーズが出ており、「SDN(Software-Defined Network)」などを切り口にリプレース案件に対応している。民間企業でも、社内でマイナンバーを管理するうえでセキュリティを強化しなければならないという意識が強くなっており、顔や指紋の認証に関連した製品・サービスの提供が拡大しているという。営業統括ユニット西日本担当の鈴木幸司・執行役員は、「大阪はマイナンバーに限らず、今後、システム案件が増える可能性がある」としている。
鈴木執行役員が大阪でのビジネスが広がりをみせると捉えているのは、「グランフロント大阪のオープンなど大阪駅前が再開発によって発展していること、テーマパークのUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の人気が高いことなどで観光客が増えているため」という。観光客の増加によって、ホテルの宿泊客が増えたり、百貨店で購入者が増えたりと、大阪で消費者向けに商品・サービスを提供する企業が成長すれば、「必ずシステム強化を図るようになる」としている。現段階では、リプレースを促しながら準備を進めている状況だ。
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