マイナンバー特集第二弾。番号収集に伴う本人確認や個人情報の保管、運用までを担う「マイナンバーBPO」サービスが本格的に立ち上がり始めている。番号の事務処理件数は、実に延べ4億5000万件。BPOを強みとするSIerが中心となって、意欲的に受注獲得の動きをみせている。(取材・文/安藤章司)
●マイナンバーは民間で管理 マイナンバー(社会保障・税番号)が今年10月以降、全国民に通知されるタイミングで、マイナンバー制度は実質的にスタートを切る。特集では、このマイナンバー(個人番号)を、収集して管理するBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)に焦点を当て、SIerやITベンダーにとってのビジネスの可能性を追った。
個人番号を割り当てる制度は、2000年代に導入された「住民基本台帳ネットワークシステム」の「住民票コード」が記憶に新しい。原則としてすべての住民に番号を割り当てるという意味で、今回のマイナンバーに通じるところがあるが、実は根本的に大きく異なる部分がある。それは番号を管理する当事者が、住基ネットの場合は自治体、マイナンバー制度の場合は民間事業者、すなわち一般の会社も含むという点である。
民間事業者は規模もまちまちで、多くの個人情報に紐づくマイナンバーを管理する意思や能力の差についてもバラツキが大きい。このため、作業負担やコスト、情報漏えいのリスクを少しでも減らしたいという民間事業者のニーズに対応するサービスが、この特集のテーマである「マイナンバーBPO」である。
厳密にいえば、住基ネットを運用する自治体も、コスト削減のために住民情報を扱う基幹システムを共同利用化したり、こうした共同利用システムを運用するSIerにアウトソーシングするケースも多いが、責任者が自治体であることに変わりない。
一方で、マイナンバーは責任の所在が民間にあって、なおかつ今後はマイナンバーの商用利用、医療・介護での活用を視野に入れた制度設計になっていることから、マイナンバーBPOを手がけることで、将来、マイナンバーを利用したビジネスに「一枚かめる可能性」(SIer幹部)が高まる。閉じた住基ネットと異なり、マイナンバーは目論み通り発展すれば、SIerのビジネスの幅も広がるという“期待”が高まっているのだ。
●「給与分野」と「金融分野」 マイナンバーの管理責任を負う事業者は大きく二つのグループに分けられる。そのうちの一つは「給与分野」、もう一つは「金融分野」だ。マイナンバー制度の研究に熱心な野村総合研究所(NRI)の推計によれば、番号の事務処理件数は、「給与分野」は給与所得者と扶養家族を合わせた約1億1000万件、「金融分野」は証券や生損保に銀行口座などを加えた総数で約3億4000万件の延べ4億5000万件にのぼる。
マイナンバーは、住民票に登録されている住所宛に送られるので、マイナンバーを必要としている事業所は、個人からマイナンバーを集めなければならない。厄介なのは、マイナンバーは一生使うもので、容易には変更できず、もし番号が漏えいすれば、不正利用される恐れもある。さらに、番号を集めるときに「その番号が、本当にその本人のものなのか」という“本人確認”も、番号を預かる事業者が行わなければならない。
従業員全員が顔見知りで、家族ぐるみの交流がある中小・零細企業ならとくに問題にならない本人確認だが、従業員数が1000人を超えてくると、本人確認だけで相当な労力がかかることは容易に想像できる。さらに時間も限られる。
「給与分野」は、従業員の健康保険や厚生年金保険の加入手続き、源泉徴収票の作成などでマイナンバーが必要となり、「金融分野」は、配当金や保険金にかかわる税務処理でマイナンバーが不可欠となる。2016年1月からマイナンバー制度の運用が正式にスタートするので、年度末/年度始めの退職/採用には早くもマイナンバーが必要となり、遅くとも源泉徴収票の作成までには、すべての従業員のマイナンバーを揃える必要がある。
「金融分野」は、個々人が損保や生保、銀行口座など複数契約していることから、件数は多いものの、向こうおよそ3年間の準備期間が設けられている。保険金の支払いなどが発生した場合は、年明け早々にマイナンバーが必要になるといったケースはあるものの、給与ほど時間的に差し迫ってはいない。
だが、主要SIerに取材してみると、「金融分野」にマイナンバーBPOサービスのビジネス的な焦点を当てているケースが多い。端的にいえば、比較的予算が潤沢で利益が見込みやすいからだ。マイナンバーの商用利用や医療・介護への活用が視野に入っているとはいえ、SIerにとって中長期のビジネスモデルの構築までには至っておらず、収益が見込みやすい領域に焦点を当てざるを得ないという事情も垣間見える。次ページで詳報する。
[次のページ]