IoT(モノのインターネット)の“売り方”がみえてきた。IoTを重要視するSIerは多いものの、全般的にビジネスとして成功しているとは言い難い。しかし一方で、SIerならではの強みを生かしたIoTビジネスを模索し、成果や実績に結びつける取り組みも活発化している。(取材・文/安藤章司)
●IoTは“デバイス”先行か IoT(モノのインターネット)は、自動車やスマートデバイス、電力システム改革に伴う全世帯・事業所およそ7750万個のスマートメーターの設置など着実に市場が拡大している。これらは自動車メーカーや電機メーカーが主導する分野であり、“SIerのIoTビジネス”では「立ち上がりはまだこれから」(SIer幹部)といった見方が大勢を占める。この特集では、成長するIoT市場でSIerがどのような役割を果たし、どのような“売り方”をすれば売り上げや利益につなげられるのかを検証する。
調査会社IDC Japanによれば2014年の国内IoT市場は9.4兆円、2019年には16.4兆円に拡大。年平均11.9%増で推移するとみられている。国内成熟市場にあって2ケタ兆円、2ケタ増と巨大市場であることに間違いはなさそうだ。とはいえ、自動車やスマートデバイス、スマート電力メーターなどIoT市場で存在感を示すのは、自動車や電機メーカーであり、SIerがこの市場でビジネスを伸ばすためには、別のアプローチが求められる。具体的には、ユーザー個別のシステム設計を行い、投資対効果を明示したうえで、SIerならではのきめ細かなサービスを提供していくことだ。
SIerが自動車や各種スマートデバイスをつくれるわけではないので、こうした最先端のデバイスを活用し、ユーザー企業の業務を改善したり、「これまでできなかったこと」をできるようにするなどのIoT活用型の提案やサービスが勝負どころになる。
かつてのガラケー(従来型携帯電話)メーカーと組み込みソフト開発ベンダーの関係のように、日本のメーカーがIoTで主導権をもつのであれば、その協力会社(下請け)となって稼ぐ手もあるかもしれない。だが、IoT時代において日本メーカーが必ずしも中心的な役割を果たすとは限らず、むしろそんな当てにならないものに頼っていては経営は成り立たない。であるならば、拡大基調にある今のタイミングで、SIerにしかできないIoTビジネスを創出したほうがメリットは大きい。
●移動機械やモバイルに商機 IoTビジネスで商談が活発化している分野は“移動機械”や“モバイル”だ。イタリアの電子機器開発を手がけるユーロテックグループのアドバネットでIoTビジネスを担当する井田亮太・IoT/M2Mソリューションセールスマネージャは「欧米先進国のビジネスを俯瞰すると、自動車や鉄道、バスなど移動機械の領域でIoTを活用したビジネスが盛り上がっている」と話す。スマートフォンの登場で「人がどこへ移動し、何をしたのか」といった“人の動き”がインターネットに直結するようになった。こうした人やモノを運搬する移動機械にも、もっとIoTを活用できるのではないかとの期待が高まっている。

コア
山本享弘・技術主任技師(左)と利根川昌弘主任
アドバネット
井田亮太
マネージャ 「これまでなかったもの」「これまでできなかったこと」を実現することがIoTが注目を集める理由であり、「従来のSIビジネスの延長線上」でIoTを捉えると失敗する。ユーザー側も、IoTをどのように活用すれば、どれだけの投資対効果を得られるのかの経験はほぼ皆無に等しく、これまでの経験則が通用しない。
このためベンダーとユーザーがお互いにもち出しで「実証実験」を行ったり、コンソーシアムを組んで複数社で投資対効果を検証するなどの取り組みが有効だ。すでに完成された商品を売ったり、御用聞き的な従来型の営業スタイルではなく、「β版をユーザーといっしょにつくるインターネット・サービス的な手法が有効」(IoTビジネスに詳しいコアの利根川昌弘・営業統括部ソリューション担当主任)だという。
つまり、IoTは名称の通りインターネットの技術であり、営業マンの根性や顧客の人情に頼る昭和型の営業スタイルは通用しないということだ。これから先は、クラウド型/インターネット型の営業スタイルが欠かせない。ネット業界ではGoogleやFacebookを例に挙げるまでもなく、強いベンダーが世界を席巻する“ワントップ”“勝者総取り”と言われる現象が起きやすい。
IoTの領域で日本の電機メーカーがいまいち頼りなくみえてしまうのは、やはりインターネットビジネスで強みを出せないからという側面は否めない。したがって、先の例に挙げた「電機メーカーと組み込みソフトベンダー」の従来の文脈だけでIoTを位置づけるのではなく、「電機メーカーとの関係は大切だが、これに加えてグローバルのIoTエコシステムのなかで存在感を出していく必要がある」(コアの山本享弘・先端応用技術担当技術主任技師)と、ネットビジネスのエコシステムのなかで生存空間を見つけていくのも一つのポイントだと指摘する。次ページ以下で詳報する。
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