昨年、日本市場に投入されて以来、ベンダーやリセラーに多くの問い合わせが寄せられているというChromebook。企業への本格導入は始まったばかりだが、文教向けでは一定の市場が築かれつつある。低コストが売りとなっているこの商材のどこに商機を見出すことができるのか、各社の取り組みを探る。(取材・文/日高彰)
マーケットの動向
教育機関での需要が先行

ミカサ商事
畑中寿
マネージャー グーグルのChromeブラウザに特化した「Chrome OS」を搭載するノート型端末「Chromebook」。昨年7月に日本市場でも発売され、間もなく1年が経過しようとしているが、Chromebookを取り扱うメーカーやSIer、流通関係者にユーザー企業からの反応を聞くと、「引き合いの数は非常に多い。ただし、まだ評価・検討の段階」といった答えが返ってくることが多い。管理の手間が少なく、なおかつ安価な業務端末として活用できるのではないかという期待が寄せられているものの、現状ではまだ本格的な活用には至らず、Chromebookを小規模導入した企業も「この端末で何ができるのか」「ブラウザだけで本当に業務がこなせるのか」を見極めようとしている段階のようだ。
一方、Chromebookに関して、すでに一定の需要と実績があるのが文教市場だ。リセラーとして教育機関向けにChromebookを販売しているミカサ商事では、これまで高校・大学など70校以上への納入実績があり、さらなる需要の拡大を感じているという。
同社では従来より文教市場でグーグルのクラウドサービス「Google Apps」を取り扱っており、その利用に最適な端末として、昨年7月にグーグルが国内展開を発表すると同時に、Chromebookの販売を開始した。畑中寿・事業推進本部クラウド専売部マネージャーは「米国で発売されて以来、当社でも早く売りたいと待ちわびていた商品だった」と話し、戦略的に早くからChromebookに注目して手を伸ばしていたという。

日本エイサーの大野剛担当部長(左)と飯嶋章泰シニアマネージャー ●PCはもとよりiPadでも現場には重い作業負担 授業で生徒が一人1台の情報端末を使用できる中学・高校はごく少数に限られる。また、大学でもすべての学生がノートPCを所有しているわけではない。政府方針でもある「教育現場で一人1台の情報端末」を実現するには端末の支給や貸与が新たに必要となるが、専任のIT管理者を設置できる教育機関は少なく、現在でも多忙な教職員が端末の初期設定やセキュリティ対策といった作業に割ける時間はわずかしかない。
Chromebookならクラウドベースの管理コンソールを利用してインターネット越しに端末の管理が可能で、自動アップデートされるブラウザ専用端末なのでセキュリティリスクも限りなく小さい。このような特徴が文教市場にマッチした。
従来のPCに比べてセキュアで管理が容易という特徴は、すでに文教市場で多くの実績があるiPadなどのタブレット端末とも共通している。しかし、日本エイサーの大野剛・プロダクトセールス&マーケティング部コーポレートセールス担当部長は「iPadやAndroidタブレット端末は、外部のキッティングサービスなどを利用しなければ、初期設定だけでも現場の先生方には大変な作業。また、Chromebook以外の端末ではいずれもモバイルデバイス管理(MDM)ソリューションが必要になる」と指摘し、MDMに相当する機能が標準提供されており、端末と管理コンソールのライセンスをあわせて購入すれば納入時点ですでに遠隔管理可能な状態になっているChromebookの優位性を強調する。ここ数年で普及の進んだタブレット端末やスマートフォンと比べてもさらに管理しやすいデバイスであるとしている。
●教科書の置き換えではなくアウトプットの力を引き出す 日本エイサー同部門の飯嶋章泰シニアマネージャーによれば「当社製品では“7秒起動”と言っているが、起動の速さについても高い評価をいただいている。バッテリ駆動時間も8時間でタブレット端末並み」といい、入力作業に適したノートPC型の端末でありながら、タブレット端末感覚で使えるスピード感やスタミナを有している点も選定理由にあがりやすいとしている。生徒はスマートフォンで情報機器になじんだ世代なので、起動に時間がかかったり、バッテリが半日で切れてしまったりする端末ではストレスを感じ、利用が進まないといったことにもつながりかねない。
ミカサ商事の畑中マネージャーは、「あるテーマについてインターネットを使って調べて、プレゼンテーションツールを用いて発表するといった使い方にはとくに向いている」と話し、Chromebookは紙の教科書など従来の教材を置き換えるものではなく、アウトプットを伴う学習で大きな威力を発揮する道具だと特徴を説明する。「グループでスライドを共同編集するといったコラボレーション機能の活用は企業より盛んかもしれない。昨年、教育機関向けにはGoogleドライブの容量が無制限になったことで、写真や動画の活用もさらに進んでいると聞いている」(畑中マネージャー)ともいい、企業ではGmailとカレンダーの利用にとどまっていることが多いGoogle Appsも、学校ではさらに積極的に活用される傾向がみられるとしている。
[次のページ]