好業績が目立つ主要SIerだが、落とし穴はないのか。情報サービス業の景気の波は“上げ潮”ではあるものの、いずれ“引き潮”が来る可能性も否めない。こうしたなか、主要SIerはどの点に注意を払い、変化適応を見越した経営の舵を取ろうとしているのかをレポートする。(取材・文/安藤章司、日高彰、鄭麗花)
強気の中期見通し
具体化する“成長エンジン”
主要SIerが相次いで強気の中期見通しを打ち出している。だが、足下の業績を支えている現行のシステム構築(SI)需要が、無尽蔵に拡大し続け、売り上げを伸ばし続けるといった甘い考えはもっていない。では、SIerは何を根拠に伸びるとみているのだろうか。ポイントは「M&A/グローバル」「IoT/組み込み」「クラウド/業界プラットフォーム」の大きく三つ挙げられる。主要SIerの動きを追った。
●“海外1兆円”の大台へ 
NTTデータ
岩本敏男
社長 強気の見通しを示している主要SIerをみると、まず国内SIerトップのNTTデータは、岩本敏男社長の意気込みとして「海外売上高を倍増させたい」と話す。同社はM&A(企業の合併と買収)を原動力として、ほぼゼロに近かった海外売上高を、ここ10年で全体の約3割を占めるまでに拡大させてきた。これをさらに倍増にすることで「現在の国内売上高とほぼ同規模の1兆円規模」(岩本社長)までもっていく意欲を示す。
ただ、1ドル70円台の超円高ならともかく、120円前後の円安状態でのM&Aは、それだけ多くの買収費用がかかることを意味している。そこで同社が重視するのは国内ビジネスを失速させないこと。現段階で1兆円あまりを占める国内事業は、利益の主要部分を稼ぎ出すキャッシュ・カウ(稼ぎ頭のビジネス)。ここがぐらつくとM&Aにも深刻な影響が出かねない。NTTデータは国内事業を年率1~2%程度での成長堅持を掲げており、2014年3月期までややもすれば縮小傾向だった国内売上高を2015年3月期には前年度比1.7%増へ反転。今期以降も国内事業の1~2%成長の堅持を重視する。
●強みとM&Aの組み合わせ 
NRI
嶋本正
会長兼社長 M&Aをベースとしたグローバル事業の拡大にNTTデータほど積極的ではなかった野村総合研究所(NRI)も、2022年に向けた中長期ビジョンでグローバル関連の売上高「1000億円」を旗印に掲げる。2015年3月期のグローバル関連売上高は、全体の4%ほどを占める同社だが、これをさらに5~6倍へと増やしていくイメージだ。
直近でも中国の主要なオフショア開発パートナーである中訊軟件集団(サイノコムソフトウェアグループ)からNRI向けオフショア開発事業の譲り受けについて基本合意を発表したり、顧客ロイヤリティプログラムやCRMなどを強みとする米Brierley & Partners(ブライアリー・アンド・パートナーズ)社をグループに迎え入れるなどグローバル関連の動きを活発化させている。
国内で証券をはじめとする金融分野に強みをもつNRIだが、海外で国内と同じような金融の強みを生かしたビジネスが展開できているかといえば、そうではない。収益の多くを生み出すNRIの本業ともいうべき金融分野の強みを海外で生かさなければ、「1000億円というボリュームには到達しない」(嶋本正会長兼社長)との見通しを立てている。NRIでは2022年の営業利益1000億円、営業利益率14%以上を掲げていることから、ざっくり逆算すると売上高は、15年3月期の4059億円から大幅に増えて約7000億円規模に達している計算になる。つまり、国内においてもNRIならではの強みを生かしたビジネスを一段と伸ばすことを意味している。
●新事業に確かな手応え では、成熟の度合いを増す国内情報サービス市場で、いかにして売り上げを伸ばすのか。
SIerが着目しているのが「IoT/組み込み」や「クラウド/業界プラットフォーム」の分野だ。組み込みソフトは、かつて「ガラケー(従来型携帯電話機)、情報家電、カーナビ」を三種の神器として隆盛を極めたが、スマートフォンをはじめとするスマートデバイスの登場とともに、この三つの需要が大きく減退。なかには従来型携帯電話機のようにほぼ消滅した分野もある。組み込みソフトベンダー各社は“新しい三種の神器”を求めて、厳冬の荒野をさまよい歩くような苦難を味わってきたが、ここへきて「IoT、車載(制御系)、社会インフラ」の“新三種の神器”といえる有望市場を手にしようとしている。また、組み込みシステムに取り組んでこなかったSIerでも、IoT部門を創設するといった傾向がみられる。SIerがIoTに取り組む「SIoT(System Integration of Tings)」も今後は重要なキーワードとなりそうだ。
一方、SIerが言う「業界プラットフォーム」とは、Amazon Web Services(AWS)のようなIaaS/PaaSや、アプリケーション系のSaaSではなく、特定の業界・業種で欠かせない共同利用型、クラウド型のサービスを指すものだ。例えばNRIの証券会社向けバックオフィスシステムで過半のシェアを誇る「STAR」や、NTTデータが地方銀行向けでシェア3割のトップシェアを獲得している共同利用センターサービス、あるいはインテックの金融機関向けCRM(顧客管理)システム「F3(エフキューブ)」などをイメージするとわかりやすい。客先設置型(オンプレミス)のシステムからクラウドへ移行していく過程で、こうした業界プラットフォームの地歩を固めることで、景況感に左右されにくい、ストック型の安定収益が見込める点が大きな魅力である。以下、各社の取り組みを紹介する。
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