●WatsonをPaaS上で提供 IBMは、同社のPaaS「Bluemix」上でWatsonを提供していて、さまざまな機能を順次追加している。クラウドサービスであるため、システム開発者は手軽に検証できることが大きなメリットだ。すでに「米国では、200以上のパートナーがWatsonを活用したアプリケーションを開発している」と日本IBMのワトソン事業部マーケティング担当の中野氏は語る。
大量の非構造化データを理解して学習するWatsonは、適用範囲が広い。なかでもIBMは「エンゲージメント」「ディスカバリー」「ディシジョン」としての活用を提案する。
「エンゲージメントは、問いに対して答えを出すというケース。Watsonが確信度の高い答えを提示する。ディスカバリーは正解がない問いに対して、答えの候補を提示する。サポートセンターで障害が発生した場合、ハードやソフト、ネットワーク、ウイルスなどから何を調べるべきか、原因を突き止めることに役立つ情報を提示する。ディシジョンは、保険の支払いがOKかどうかなどの材料を提示し、判断を支援する」(中野氏)。これらを実現するための機能が、クラウドサービスとして利用できる。どう活用するかは、システム構築担当者のアイデアが問われることになる。
●ディープラーニング最前線 人工知能の第三次ブームを支えている「ディープラーニング」。NECは、そのディープラーニングのエンジンを活用した“王道”の人工知能に取り組んでいる。
「現在の人工知能ブームは、2012年くらいからディープラーニングの精度が高くなったことが大きく寄与している。また、クラウドやビッグデータなど、ディープラーニングを活用するための環境が整ったことも大きい」と、NECの中村シニアエキスパートは考えている。
NECは、ディープラーニングを活用した人工知能のエンジンを北米の拠点で開発している。NECの得意分野は視覚。つまり、画像認識である。「当社の画像認識は、人間の神経をまねているので目に近い。例えば、ひよこの雄と雌を見極めは専門家が必要だった。人工知能は、そういった専門家の代わりになるため、専門家が不要になる。専門家を不要にする人工知能は普及しやすい」と中村シニアエキスパートは考えている。各分野の専門家を不要にする人工知能へと発達すれば、いずれ人間に追いつくのかもしれない。その点で、NECは2045年問題の当事者に近い存在なのかもしれない。
ちなみに、NECが製品として提供している人工知能ソフトウェア「NEC Advanced Analytics ・ RAPID機械学習 V1.1」は、画像解析版と人材マッチング版がある。人材マッチング版は、求職者の適性にあった求人企業の紹介などのマッチングで活用できる。また、RAPID機械学習は、省リソースで高速処理を実現することから、オンプレミスのサーバー上で活用できる。中村シニアエキスパートによると、「ディープラーニング技術を採用したソフトウェアで、動作保証をしているケースはほとんどない」とのこと。その点では、人工知能ソフトウェアでNECが最前線に立っているということができる。
●人間を超える人工知能へ 
SPACEBOY
渡久地 択
代表取締役CEO 人工知能をうたうサービスが次々と登場するも、人間を超える人工知能を開発すると公言する企業は皆無に等しい。“人間の仕事を奪うのでは?”という声に配慮してなのか、あくまでも人間をサポートするというのが、現時点では一般的な人工知能だ。
そうしたなかで、堂々と「人間を超える人工知能、つまり人間をつくる」と公言するのが、SPACEBOYの渡久地択・代表取締役CEOだ。「2045年に人工知能が人間を超えるとされるが、何度計算しても2036年になる」と渡久地CEOは語る。2036年に向けて、人間を超える人工知能を開発していくことを目指している。
SPACEBOYが現時点で得意とする分野は、OCRを活用した画像認識である。人工知能を用いた同社のサービス「AI Inside」は、手書きの文字の認識率において、99.8%の精度があるという。「手書きの書類を見ながら、画面で入力するといった業務の代替になる。人間が入力するよりも精度が高い」と、渡久地CEOは自信をもっている。例えば「東京市」とOCRで読み取ったとしても、前後関係から東京都か西東京市かを人工知能が判断する。これにより、データ入力のオペレーターが不要になったケースもあるという。
現在では、インターネット上にさまざまなデータがある。人工知能を完成させるにあたって必要となりそうな有益な情報も、数多くあると思われる。だが、渡久地CEOは手書きの情報に価値を見出している。「ウェブはお遊び。そこじゃないところに重要なデータがある。アナログが最強の情報源。だから、そこをサポートしたい」。手書きの書類を日常的に扱う企業は多く、SPACEBOYではそうした企業と協業するケースが増えてきている。
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