●JBCC-HDが抱える特殊要因 
JBCC-HD
山田隆司
社長 ここで1点気になるのが、情報系のみならず、基幹系システムまでクラウドへの移行が進むことで、SIerによるエンドユーザーへのハードウェア販売の頭打ちが、より鮮明になる可能性があることだ。日本IBMのトップソリューションプロバイダであるJBCCホールディングス(JBCC-HD)の上期(15年4~9月期)連結売上高は、前年同期比0.3%減の441億円と振るわなかった。通期(16年3月期)でも2.1%減を見込む。主要SIerが軒並み増収基調のなかでJBCC-HDの不振は悪目立ちしている印象すら受ける。
JBCC-HDの上期減収の要因の一つは、サーバーやパソコンなどの製品販売が、前年同期比で10%余りも減ってしまったことが大きい。SIは同4.5%の増収だったが、製品販売が足を引っ張った格好だ。ただ、大塚商会の上期(15年1~6月期)と比較すると、パソコンはWindows XPの駆け込み需要(いわゆるXP特需)の反動減の要因を除けば減少傾向にはなく、サーバー販売もWindows Server 2003のサポートが、今年7月に切れたことに伴うリプレース需要などといった追い風もあった。多少客層は異なるものの、CTCは相対的に粗利率の低い製品販売が好調過ぎたため、逆に上期の粗利率を押し下げる要因にもなったほどである。
IBMがパソコンやPC(IA)サーバーから相次いで撤退した特殊事情と、JBCC-HD自身の「利益重視」(JBCC-HDの山田隆司社長)の経営方針も相まって、あえて減収増益に舵を切っている可能性もある。JBCC-HDは製品販売が伸び悩んだことが、むしろ粗利率の上昇につながっているのだ。
●国産AUTOSARの開発が相次ぐ 
SCSK
中井戸信英
会長 もう一つ、組み込みソフト領域でも大きな動きがあった。SCSKが中心となって自動車を制御する車載ECU(電子制御ユニット)のベーシックソフトウェア(BSW、広義でのOS)「QINeS-BSW(クインズ ビーエスダブリュー)」を今年10月に開発。これは欧州発の車載ECU向けOS「AUTOSAR(オートザー)」の仕様に準拠したもので、欧米印の各ベンダーが開発しているAUTOSARに対抗していく。SCSKの中井戸信英会長は、「それほど遠くない将来、2015年が“日本の組み込みソフト産業の転換点だった”といわれるよう、社運をかけて取り組んでいく」と、AUTOSARビジネスに強い意欲を示す。
ほぼ同じタイミングで、名古屋大学の高田広章教授が中心になってAUTOSAR仕様をベースとしたソフトウェアプラットフォーム(SPF、BSWと同様、広義でのOS)を開発するAPTJを設立。APTJには富士ソフトも資本参加を決めている。これまでの名古屋大学やリアルタイムOSの研究プロジェクトTOPPERSでの研究成果などを踏まえて、商用AUTOSAR仕様のOS開発に取り組む。自動車のIT化が急速に進むなか、自動車向け組み込みソフトは最重要市場となっているが、その中核となる車載ECUの標準化は、現状、海外勢が圧倒的にリードしている。今後はSCSKやAPTJがどこまでシェアを獲っていけるかが勝負どころとなる。
車載ECUに詳しいあるSIer幹部は、「AUTOSARが標準プラットフォームになっていくとしても、恐らく自動車メーカーの系列によって、どの会社のAUTOSARを使うのか分かれる。SCSKやAPTJの各陣営は、特定の自動車メーカーから何らかの感触を得ている可能性が高い」と話す。いくらAUTOSARの仕様がすでに公開されているからといえ、その仕様にもとづいてゼロからOSを開発するのは容易なことではないし、カネもかかる。組み込みソフトを手がけるSIerの多くは、国内外の陣営が入り乱れての“AUTOSAR OSのシェア争い”の行く末を見極めたうえで、どの陣営のOSと協業するのか決めるものとみられる。
SCSKでは、現在設計中の新車の販売が始まる18年度には、「有意な売り上げを期待している」(中井戸会長)と、向こう3年程度でまとまった規模の売り上げを見込んでおり、この時期にはAUTOSAR OSを巡るシェア動向の流れがみえてくる可能性が高い。
困難を極める人材の確保
生産体制を刷新して競争力
ビジネスの拡大局面で顕在化するのが人手不足だ。SIを本業とするSIerの人手不足は、そのまま生産力の低下に結びつく。主要SIerは優秀な人材の確保に奔走するとともに、中国以外のオフショアソフト開発拠点を整備するなどして対応を急いでいる。ソフトウェアの生産体制を見直すことでコスト競争力を高める取り組みも着実に進行している。
●過去最高水準の人手不足感 人手不足が続くなか、直近の情報サービス産業協会(JISA)のDI値(将来見通し,雇用判断)によれば、従業員の不足感が過去最高水準の状態にある(図3参照)。ソフトウェア開発を含むエンジニア派遣を手がけるメイテックは、本体の上期(15年4月~9月期)エンジニア稼働率が96%と高水準が続いている。優秀な人材の確保も困難な状態で、とりわけ即戦力になる「中途の採用環境は過熱状態」(メイテックの國分秀世社長)が続いていると話す。
フリーのITエンジニア(個人事業主)ら約2600人が参加するPE-BANK(旧首都圏コンピュータ技術者)では、直近で稼働中の人員は約2000人で、顧客との契約期間が終了しても、「またすぐ別のクライアントから注文がくる」(齋藤光仁会長=MCEAホールディングス代表取締役)と途切れなく仕事が回ってくる状況だ。個人事業主の場合、ある一定期間集中的に稼いで、まとまった休暇をとるなど正社員や派遣社員とは働き方が大きく異なるため、稼働率はエンジニア派遣のメイテックほど高くはない。だが、PE・BANKの過去の稼働水準から比べると「極めて高い稼働率」(同)である。
エンジニア派遣や個人事業主の稼働率は、情報サービス業界の人材需給を端的に示しており、先のJISAのDI値とも合致している。国内の人員を総動員してもなお人材が不足したり、コスト的な要請から、海外でのオフショアソフト開発も盛んに行われている。しかし、対日オフショア開発の中心的存在であった中国でのオフショア開発の現状は、中国の人件費の高騰、円安/人民元高、中国のITエンジニアが成長著しい中国国内のSI案件に引き抜かれるなどの影響があり深刻化している。中国での対日オフショアは、「よほど特殊で高度な技術やノウハウを用いたものでないと間尺に合わない」(SIer幹部)状態との声も聞こえてくる。
●ASEAN・インド活用が本格化 
NTTデータ
岩本敏男
社長 国内最大手SIerのNTTデータは、中国での対日オフショア開発要員を抑制する一方、ベトナムやミャンマー、インドでの人員増に力を入れている。足下の対日オフショアだけに限ってみても、中国約2700人に対して、ベトナム約180人、ミャンマー約180人、インド約300人と中国一辺倒から徐々にASEAN/インド地域へ分散しつつある(図4参照)。NTTデータは「直近で42か国、およそ180都市に拠点を展開」(NTTデータの岩本敏男社長)し、社員数は約8万人、うち海外社員が過半数に達している。拡大基調にある欧米向けのオフショア開発の人員拡充を進めつつ、同時に対日オフショアも中国以外の地域で充実させなければならないなど、開発人員の確保に神経を尖らせている。
売上規模がNTTデータとほぼ同じで、世界46か国に拠点を展開するインドのタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)は、本国インドでの対日オフショアソフト開発の体制を大幅に強化。TCS日本法人の国内社員数約2400人に匹敵する2000人規模の人員を、インドで確保した。欧米のITベンダーは、商慣習や言語的な障壁が少ないことから、早くからインドでのオフショア開発を行ってきたが、日本は文化的共通点が多い中国への依存度が高く、インドでの対日オフショア開発は、NTTデータやCAC Holdingsなど一部のSIerに限られていたのが実情だ。

日本TCS
アムル・
ラクシュミナラヤナン
社長 TCS日本法人のアムル・ラクシュミナラヤナン社長は、「対日オフショアソフト開発を専門とし、日本の商慣習や言語、業務アプリケーションの組み方に精通した人材を2000人規模で確保したのは、当社が初めて」と胸を張る。三菱商事系のSIerである旧アイ・ティ・フロンティアと経営統合してから1年半近くがたち、新体制での本格的な事業拡大のフェーズに入りつつある。インドでの対日オフショア開発人員も、もしキャパシティを超えるようなら協力会社に依頼するかたちで、「追加でさらに2000人ほど動員することも可能」(ラクシュミナラヤナン社長)とし、日本での受注増に迅速かつ柔軟に対応していく構えである。
良好な景況感は、20年東京五輪まで続くとみるSIer経営者も多く、ソフト開発の生産力を高めつつ、コストを抑制する手立てが一段と切実さを増しているといえそうだ。
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