多くのIT関連企業で好業績が続くなか、徐々に将来に対する不安の声が聞こえ始めた。話題の一つは、東京五輪以降にくるとされる経済不況の影響。公共投資が落ち着くことで日本経済全体が落ち込み、その影響がIT業界にも及ぶというわけだ。とはいえ、経済不況がくるとわかっているなら、今から対策を練ればいい。好業績が続く今こそ、その好機といえよう。2020年までに残された時間は決して多くない。果たして、「安心してください!」となるかどうか。2015年の動きから“5年後”という近未来についても考えてみたい。(構成・文/畔上文昭)
編集部が選ぶ今年の漢字
相
相oT(IoT:Internet of Things)
相(AI:Artificial Intelligence)
あらゆるモノがネットワークにつながったとしても、データをやり取りする“相手”がいなければ何も始まらない。AIは新たな文明社会を切り開くにあたって欠かせない、人類の大切な“相棒”である。そこで、編集部が選ぶ今年の漢字を「相」とした。ビジネスに“相”をこめて。IoTやAIがIT業界の飛躍につながると期待したい。●トップ交代と近未来 IT関連企業の業績は、おおむね好調だった2015年。余裕があるうちに先を見越した人事に取り組もうとしたのかどうかはともかく、年表の通り、今年は大手企業の多くでトップが交代した。次の一手を担う面々である。
というのも、東京五輪後には経済不況がくるとされ、IT業界では一足先の18年に危機が訪れるとの見方もあるからだ。リーマン・ショックの経験を生かすべく、先手を打って危機を乗り切る。トップの交代は、そこを見越した人事という側面があるというわけだ。
IT関連企業の決算発表においても、“20年以降”を意識した発言が出るようになってきた。ポイントは、三つ。一つはクラウドを中心としたストックビジネスの強化。浮き沈みの激しいシステム開発よりも、月額利用料などを得るサービスにシフトすることで、売り上げが小さくても安定した収益を得ることを目指す。システム開発との両輪とすることで、経済不況にも耐え得る体力をつけようというわけだ。
二つ目は、ASEANを中心とした海外進出。日本の市場が小さくなるなら海外へ。それも、親日のムードがあり、政治的なリスクの少ないASEANで市場を開拓しようというわけだ。問題は、日本のソリューションはコスト高なこと。いくら日本品質が評価されているとしても、IT投資の体力がなければ日本企業にとって魅力的な市場とはならない。現地法人をうまく生かすことがカギとなろう。
三つ目がIoTだ。IoTにはさまざまな可能性を感じるものの、センサなどの電子部品を扱っていないITベンダーには、ハードルが高い分野だった。IoT事業部をつくるも、当初は「何をやるべきか」という声が聞こえてきたが、モノとの情報のやり取り、集めたデータの処理などはまさにSIの世界であることから、徐々に取り組みがみえてきている。
●SIoT:SIerのIoT 「SIoT」(System Integration of Things)。SIerにとってのIoTである。IoTは、センサによってデータを集めることがすべてではない。データを収集したら、それを企業システムに生かしたい。入力作業が必要な部分をセンサから得たデータで代替できないか。こうした発想はSIerの得意分野であり、SIoTの一つの側面である。
もう一つは、モノにBeaconデバイスなどのチップを埋め込み、スマートフォンとの会話によって、IoT化するという事例(図)。モノは直接インターネットにつなぐのではなく、チップを積むのみで、スマートフォンのネットワークを使う。スマートフォンのユーザーは、あたかもチップを積んだモノと情報をやり取りしていると感じるが、実際には、スマートフォン経由でサーバーにアクセスし、情報をやり取りしているのである。サーバー側の処理はSIerの得意分野であり、モノには最低限のチップを積むのみであることから、SIoTの取り組み事例の一つということができる。
いずれにせよ、IoTでは情報システムの活用が不可欠となる。上記のほかにも、さまざまな事例が今後登場することが期待される。
●Enterprise AI 15年の前半は、IoTの話題でもちきりだった。扱いやすいチップが普及し、MVNO(仮想移動体通信事業者)などの低価格な通信手段が登場するといった背景から、IoTに対する認識が広がってきたからだ。
ところが、15年の後半から風向きが少し変わってきた。AI(人工知能)が、にわかに台頭してきたのである。音声認識や画像認識を活用した自動応答システム、そして、それを活用したロボットの登場により、AIや人工知能という言葉が身近になったためだ。以前であれば、機械学習やディープラーニングなどとしていたが、今ではAIが使われるようになっている。
ただ、AIを搭載したロボットが人間を超えるのは、ずいぶんと先の話。注目するには早いということになるが、ポイントはそこではない。重要なのは企業システムとAIの関係、つまり「Enterprise AI」の領域である。
企業システムは、一般的にユーザーに入力を求める入力画面がある。コンピュータによる処理がどんなに速くても、入力作業には人としての限界がある。このボトルネックを解消するのが、一つのAI活用例であり、ITの本来の役割である“究極の効率化”が実現することになる。また、AIのエンジンを開発する必要はない。オープンソースやクラウドサービスとして提供されているので、それを活用すればいいのである。SIerはAIerへ。Enterprise AIはすでに現実的なソリューションである。
ちなみに、ドイツ政府が国策として推進している「インダストリー4.0」では、ITの視点ではIoTとAIが重要なキーワードとなることも覚えておいていただきたい。インダストリー4.0もプロトタイプができるのは15年の5年後、東京五輪が開催される20年頃とされている。
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