記者の眼
Watsonをきっかけに活性化
世界各地でAI活用の模索が進む

TIS
油谷実紀
センター長 企業向けのシステム構築(SI)ビジネスにおけるAI活用は、IBMが本腰を据えるコグニティブ技術の「Watson」によって、一気に注目を集め、活性化してきた感がある。世界各地でAI活用の事業化を見越した実証実験や、AIを活用したSIが行われている。本文で触れたようにTCSは本国インドでEMS(エネルギー管理システム)やシンガポールで高齢者見守り、オーストラリアでIT資産管理に応用。また、NTTデータはスペインで集中治療室(ICU)での医療データ分析、NECはシンガポールのバス運転手の事故予防プログラムなどにAIを適用して、それぞれ成果を挙げている。
ただ、現時点でのAIの技術的限界も厳然と存在する。SFの世界で語られるようなAIの完成度には到底至っておらず、企業の業務として使うにしても「用途をかなり限定していかないとうまくいかない」と、AI研究に詳しいTISの油谷実紀・戦略技術センター長は述べている。むしろどう用途を明確化させられるかが、SIerやITベンダー側の腕の見せ所といえる。
今のAIをみると、テキストや音声認識、非構造化データを含む膨大なデータからの検索、関連づけの完成度は、ビッグデータ/IoTの技術進展も相まって飛躍的に高まっている。それだけでも、Enterprise AIとしては十分である。ただ、一般的なAIには、人間と同等の能力が求められる。「人間の感情を読み取ったり、自律的に行動するにはまだ不十分」(油谷センター長)と分析。声の抑揚や表情から感情や意図するところを読み取ったり、人混みのなかで人にぶつからないよう工夫しながら目的地に到達するような自律性は、改良の余地が大きい。逆の見方をすれば、こうした点が改善できれば、企業システムを新たなステージへと上げる可能性がある。
振り返ればAIブームは1980年代にも起こったが、あのときはビッグデータもなければ、IoT基盤もなかった。今回はAIが学習するために必要なデータは、むしろ多すぎるほどある。効率的な学習アルゴリズムによって、業務での実用に耐え得るレベルに達するのはもはや時間の問題。SIビジネスにとって欠かせない技術要素になっていくのは間違いないだろう。