大手ITベンダーの文教市場ビジネス 富士通とNECの文教市場向けビジネスから教育現場のニーズや実情に迫るとともに、ICTが導く教育の未来を追う。
●タブレット端末は教育向けに特化 先述のように、教育現場に情報端末を配備するにあたって、人気が高いのがタブレット端末だ。持ち運びやすく直観的に操作できるほか、アクティブ・ラーニングに用いる端末としても汎用性が高いことなどが理由に挙げられる。実際に、端末の導入台数が増加傾向にあることや、教育機関向けにタブレット端末を提供している企業からも、「引き合いが多い」との声が聞こえてくる。
富士通でも、教育機関向けにタブレット端末を提供している。同社が手がける文教ソリューションのなかで引き合いが多く、学校側からの評価も高いという。
その理由は、教育現場からのニーズを徹底的に取り込んだ製品であるためだ。同社では、文教市場向けに「スクールタブレット」と呼称するWindows搭載10.1型教育用タブレットPC端末「ARROWS Tab Q506/ME」を提供している。オフィスや一般家庭とは異なり、学校ではタブレット端末を生徒・児童が授業中に机の上に置く、持ち運ぶ、屋外で利用するなど、さまざまな利用シーンが想定される。こうしたことを踏まえて、学校での利用を想定して設計しており、持ち運びがしやすいよう約685グラム(通常モデル)と軽量に、机の上から落ちない工夫としてキーボードの底面に滑り止めとなるゴム足をつけ、万が一落としても耐えられるように堅牢なつくりにし、校庭などでも安心して利用できるように防水・防塵設計をとるなど、細部にわたってこだわりがうかがえる。

富士通
纐纈芳彰
統括部長 富士通の纐纈芳彰・公共・地域営業グループ文教ビジネス推進統括部統括部長は、「学校特有の機能を盛り込んでいる点で、他社をリードしている。文教向けタブレット端末市場においてトップシェアをとっていると自負している」と、文教向けに特化した端末が自治体から評価されていると話す。
一方、NECでも文教向けタブレット端末の提供に動き出した。今年5月13日に発表した法人向けPC/タブレット端末のラインアップに、文教モデルのタブレットPC「Versa Pro タイプVT/VS」を追加。VTは10.1型で約597グラム、VSは11.6型で約782グラムと、生徒が使いやすいように画面の大きさと軽さの両立を目指した。きょう体全体を覆う透明なカバーを用意し、防塵・防滴、落下時の衝撃を吸収するほか、汚れや傷がついたときにもカバーを取り換えることで新品同様に使用できる。付属のペンについては、小さい文字でも書きやすい「デジタイザーペン」を採用した。NECでは、これまで企業向けと同じものを教育機関に提供してきたが、今回、文教向けモデルを新たに用意したことで、文教向けタブレット端末市場に改めて打って出ることになった。なお、同製品に関しては、小・中学校だけでなく高校も含め、幅広く展開することを想定している。
●授業前から後まで支援するツール 学校現場でICTを活用して学習指導するには、単に情報端末を導入するだけでは意味がない。何らかのデジタル教材や、効率的に授業を運営できるようなツールが求められる。
富士通では、生徒の学習をサポートする多彩なコンテンツを用意している。小・中・高校向けで代表的なものが、教材や授業の学習データを蓄積・共有できる「知恵たま」だ。纐纈統括部長は、知恵たまを「授業の前から後までを支援するツール」と説明する。具体的には、授業前に教員が「Microsoft Office」などのツールを使って作成した教材を、知恵たまの時間割にドラッグ&ドロップすることで、授業時に教員と生徒が端末から知恵たまにログインし、登録した教材を利用することができる。授業後には、学習したデータを知恵たまのデータベースに蓄積することで、後からデータを再活用できるほか、生徒や教員の間でデータを共有することもできる。さらに、一人ひとりにIDを付与することで、学年が上がっても学習履歴を引き継ぐことが可能だ。
大学向けには「CoursePower」を提供。授業単位で教員が教材を登録したり、学生がレポートを提出したりできる。また、学生の学習ログをとることも可能で、教員がログをもとに一人ひとりの生徒に適した指導方法を考えることができる。こちらも「授業の前から後までを支援するツール」だ。単に授業内での利用にとどまらせず、授業の前後で広く活用できることがポイントだ。
●教員がICTに慣れるような工夫を ICTを導入したからといって、教員がすぐ学習指導に役立てることができるとは限らない。ある文教ビジネスを手がける企業の関係者は、実際に「(自治体から)タブレット端末を導入しても使っていなかったり、先生が使い慣れていなかったりという声をよく聞く」と話す。教員のICT活用を支援するにあたって、ICT支援員を配置するというのも一つの方法としてあるが、昨今とくに言われているように教員が多忙なため、タブレット端末の活用法を習熟するために多くの時間を割くことは難しいと考えられる。

NEC
和田 聡
シニアマネージャー こうした背景を踏まえ、NECでは小・中学校向けのビジネスで校務支援システムの構築・運用に注力している。教員に、生徒の出席状況や成績管理などのバックオフィス業務でタブレット端末を活用し、使い慣れてもらうというアプローチだ。和田聡・第一官公ソリューション事業部シニアマネージャーは、「先生を支援すれば、ICTを活用した教育が進んでいく」と、教員をフォローすることの重要性を強調する。
また、和田シニアマネージャーは校務システムの構築運用を手がけるうえで、システムを安定稼働させることが重要だと説明する。成績処理など、一定の時期に処理が集中することで負荷がかかり、肝心なときにシステムが使えなくなってしまっては元も子もない。「NECはシステムの安定稼働を第一にしており、こうした取り組みは文部科学省からも評価をいただいている。一つの自治体で安定稼働した実績を、ほかの自治体にも横展開できている」と説明する。
●教育環境のクラウド化が進む 総務省は文部科学省と連携し、14年度から16年度の計画で、全国3地域の小・中・高・特別支援学校の計12校を実証校として「先導的教育システム実証事業」を開始。この実証事業では、クラウドを活用した新たな教育システムの実証研究によって、全国のどの地域どの学校でも格差なく最新の学習環境を享受できるしくみや、「学校と家庭がシームレスでつながる教育・学習環境」の実現を目指している。
実証研究はまだ続いているが、クラウドの導入を検討する自治体は増えつつある。NECでは、大阪市教育委員会が市内約460校の小・中・高・特別支援学校が推進する「校務支援ICT活用事業」で「校務支援サービスクラウド」を提供。出欠管理や通知表作成などの業務にかかる時間を短縮したほか、セキュリティの向上やテレワークの導入といったさまざまな効果を生み出している。
また、大学でもクラウド移行が進む。NECの岸克政・第一官公ソリューション事業部シニアマネージャーは、「バックエンドのクラウド化はあたりまえになっている」と話す。BCP/DR対策も一つの要因だが、それ以外に、大学は少子化などを背景に経営状況が厳しく、システムの運用をベンダーに任せ、大学職員の手間を減らそうとする傾向にあるという。
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