●大学で「ビッグデータ分析」が活発に?
NEC
岸 克政
シニアマネージャー そうしたなかで今、大学では学内の教育や事務などのさまざまなデータを統合し、データを分析する基盤をつくる動きが活発化しつつあるのだという。これまで大学では、学部や研究室といったセグメントごとにシステム基盤が分かれており、学内にデータが散在している状況にあることが多かった。NECの岸シニアマネージャーは、各所にあるデータを集約して全学的なデータ統合基盤をつくることによって得た知見を、「より学生一人ひとりに適した学習(アダプティブ・ラーニング)や大学の経営戦略などに活用することで、教育・研究の質の向上や優秀な人材の輩出、大学競争力を高めることにつながる」と説明する。このような取り組みとして、NECでは早稲田大学の学内データを活用してデータ分析を行う大学IRシステムを構築した事例がある。
とはいえ、大学での「ビッグデータ分析」は先進的で、実際に取り組んでいる大学としてはまだ一部にとどまっている。しかし、「こうした考え方に賛同いただいている大学がいくつもある」(富士通の纐纈統括部長)といい、今後、こうした動きが加速することが予測される。
●生徒一人ひとりの「学びカルテ」へ また、富士通では生徒が身につけるべき力として、基礎力・思考力・実践力をあげている。それらの力を育むよりよい学びのために、生徒一人ひとりの学びを記録する、いわば「学びのカルテ」をつくることを目指している。纐纈統括部長は、「例えば、中学から高校へ進学する際、調査書などが引き継がれるだけで、その生徒がこれまでどのような学びをしてきたかについては、高校にほとんど何も伝わらない」と指摘。学習や活動のログを蓄積することによって、「一人ひとりに対して、より正しい指導ができるのではないか」と分析する。富士通のさまざまな文教ソリューションで学習の記録を残すことができるのも、こうした考えが根底にある。
実際に、文部科学省では高校大学接続に関する議論のなかで、学生が高校以前まで積み重ねてきた学習や活動の履歴を、大学の学びの履歴ともつなげ、大学卒業後のキャリアや生涯にわたる学習活動で有効活用できるようなツールとするための仕組みづくりや、調査書などの電子化について検討するとの方向性について言及している。纐纈統括部長は、こうした学びの記録について「2020年の少し先にはそうした仕組みができ始めるのではないか」と予測している。
記者の眼
以前、「自治体は教育現場でICTを活用することに積極的な姿勢をみせていない」との話を聞いたことがあった。それは予算上の問題や、そもそも教育現場でICTを活用することに対する意識が高まっていないのが理由だ。
しかし、今回取材した2社に関していえば、両社とも小・中・高校向けのビジネスは公立が中心。当然というべきか、先に述べたような声を耳にすることはなかった。しかも、「(ICTの利活用に関して)私立が先行しているとは思わない」という意見だ。「ある自治体を、ほかの自治体が参考にして提案依頼がくる」との声も。教員がICTを使いこなせるかという問題はあるにしろ、自治体が一概に教育現場へのICT導入に消極的だといえないことがわかった。
少し先の未来として、「学びのカルテ」は興味深かった。学習のログを蓄積することで、その人がこれまで何を学んできたのかがわかるようになる。ICTを活用してこそ実現するツールだ。
今、最も注目度の高い学習法といえばアクティブ・ラーニングなのだろうが、今後、学習履歴をもとにして、一人ひとりの習熟度に学習内容を合わせるアダプティブ・ラーニングも流行りそうだ。実現すれば、「学びのカルテ」もアダプティブ・ラーニングに活用できるツールの一つとなる。これからの教育には、ICTが重要な役割を果たし続けるだろう。