大規模病院は需要一巡
中堅・中小の“旬”はしばらく継続か
大規模病院では電子カルテ需要が一巡、大手ITベンダーは地域包括がキーワードの連携ビジネスへとコマを進めている。一方、中堅・中小病院では電子カルテの普及はまだこれからが本番で、SIerを中心に受注争いが激しさを増している。ここからは各社それぞれの市場ターゲットに狙いを定めたビジネス戦略をレポートする。
三大ベンダーの動き
●NEC「6大商材へ拡大」 NECは、「地域医療連携」や「医療・介護連携」「在宅医療連携」といったネットワークに主戦場を移しつつも、ビジネス的なキーワードとしてAI(人工知能)とSDN(ソフトウェア制御方式のネットワーク技術)、セキュリティの三つを医療・介護の新しい重点商材に位置づけている。医療といえば、電子カルテ、オーダリング(検査や処方などの伝達システム)、レセコン(医事会計)の3大商材が伝統的だったが、NECではこれにAI、SDN、セキュリティを新しく加えて“6大商材”と位置づける。
地域の包括的な連携の進展は、病院や診療所、介護事業所、自治体、患者本人などの関係各所、業種・業務間のネットワーク化を意味しており、このネットワークにNECがSDNの主力製品として位置づけている「UNIVERGE PFシリーズ」を投入。さらにAIによって調剤や薬剤の取り違えを検知したり、BI(ビジネス・インテリジェンス)的な活用によって病院経営の効率化を支援することを想定している。セキュリティでは、例えばNECの看板商品ともいえる顔認証技術を活用し、病院内で徘徊してしまう患者を防犯カメラを通じて瞬時にみつけ出す仕組みなどを開発中だ。
●富士通「院内DWH」に注力 富士通も、大規模病院に向けた電子カルテ市場は「リプレース(置き換え、バージョンアップ)の段階に入っている」(藤岡学・第一ヘルスケアビジネス推進部部長)とし、今後、大きな成長は望めないことを認識している。そのうえで打ち出しているのが、医療・介護や在宅医療といった「包括的な医療・介護ネットワークサービスビジネス」(岩津聖二・第二ヘルスケアビジネス推進部部長)である。

写真左から富士通の藤岡 学部長、岩津聖二部長、小松清美シニアマネージャー
NECは明確にAIやSDNを前面に押し出す戦略を採るが、富士通は「地域の医療・介護ITインフラを補強する」(小松清美・第一ヘルスケアビジネス推進部シニアマネージャー)という意味で、ITインフラの再構築・増強を重視する点では共通するものの、AI活用については慎重であり、むしろ以前からあるデータウェアハウス(DWH)のほうが有用とみている。
医療におけるDWHは、これまで主に臨床医から集めたデータを分析する学会での利用が多くみられたが、病院内でもDWHの活用が進むと富士通ではみている。具体的には、電子カルテや病院内の臨床データなどに蓄積したデータを、病院自らが分析し、検索しやすくすることで、医療の質を高めたり、病院経営の可視化に役立てる。「学会と個々の病院とではDWHの活用方法も、その狙いも自ずと違ってくるはず」(同)とみている。電子カルテをはじめ、大規模病院を中心にデジタル化が進展し、DWHを活用する環境が整ってきたというのも、今のタイミングでDWHを打ち出す背景にある。
●日立は「フロント」重視 日立グループは、富士通やNECの2強ほど大規模病院に向けた電子カルテに強いわけではなかったが、介護領域では、日立システムズが開発した介護・福祉事業者向け基幹システム「福祉の森」をはじめ、ヒット商材を複数もっており、介護領域の重要な資金供給元となる自治体とのパイプも太い。先述した国の「地域包括ケア」の政策を「大きなビジネスチャンス」(日立製作所の香田克也・ヘルスケアソリューション事業部事業部長)とし、介護側から医療、在宅のそれぞれのネットワーク領域へのアプローチを強化していく。

写真左から日立製作所の吉岡正泰担当部長、香田克也事業部長
今年度から日立グループは営業体制を大きく変更しており、「フロント」と呼ばれる顧客の事業部門と協業を促進する組織を強化。医療・介護の領域にあてはめると、病院なら診療科や検査部門、介護なら介護事業者や自治体との協業によって、オープンイノベーションを起こしていくことを基本コンセプトとしている。従来の情報システム部門にIT機器やソフトウェアを販売するルートを残しつつも、「新たにフロントを強化することで顧客との関係を強化していく」(𠮷岡正泰・ヘルスケア事業開発担当部長)と話す。
日立製作所は、ライバル他社が手がけていないMRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピュータ断層撮影)、レントゲン診断などの医療機器を開発していることから、先進的な医師や学会との接点も多く、こうした「フロント」をテコに追い上げていく方針だ。
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