SIerの動き
●日本事務器は2割近い増加 NECのビジネスパートナーの日本事務器は、全国約8600施設ある病院のうち規模が小さい順から約5000施設、ベット数でいえば100~300床規模を主なビジネスターゲットに位置づけいる。この領域の電子カルテの普及率は、まだ半分にも達しておらず、電子カルテの導入意欲が高いのが特徴だ。日本事務器は昨年度(2016年3月期)は電子カルテを中心とする医療・介護関連ビジネスで前年度比2割近い売り上げの伸びを記録しており、「今年度もほぼ同じ伸び率を見込む」(青木高宏・営業統括部医療・公共ソリューション販売推進部部長)と鼻息が荒い。

写真左から日本事務器の青木高宏部長、徳永勝哉シニアマーケッター
病院経営は全体的に厳しいといわれるものの、若手の医師を招き入れ、定着してもらうには「電子カルテはもはや必須」(日本事務器の徳永勝哉・ヘルスケア統括担当シニアマーケッター)との事情もある。若手医師は大学病院で電子カルテを日常的に使いこなしており、赴任先の地方病院で電子カルテがない状況に馴じみにくい環境が生まれているのだ。民間の一般企業で例えれば、新卒社員が配属された部門に、パソコンがなく、WordやExcelも使えない状況と相通ずるものがある。さすがに今の若手に「紙とペンで仕事をしろ」というのは難しい。
●JB×亀田連合で新カルテを投入 JBCCホールディングス(JBグループ)は、亀田医療情報と協業して電子カルテの新商品「AoLani(アオラニ)」を2017年から順次納入を始める。まずは千葉県の地域医療を支える亀田総合病院を中核とする亀田グループの施設にAoLaniを納入し、早ければ年内の本稼働を目指すのと並行して、外販に向けたプレセールスもスタート。JBグループと亀田医療情報の協業によって、これまで約200病院に電子カルテを納入してきた実績をもとに、向こう3年で新規顧客と既存顧客のバージョンアップの合計で100病院へのAoLani納入を目指す。
全国の病院のなかでも、ITを活用した先進的な取り組みを実践していることで有名な亀田病院グループ。「電子カルテを使う医師の立場にたった使い勝手と、最新のITを融合させた自信作」(JBCCの山本陽次・取締役常務執行役員医療ソリューション事業部長)と胸を張る。

写真左からJBCCの山本陽次常務、岡田英樹担当部長
この春から亀田医療情報の営業部門の主要メンバーがJBCCに出向し、JBグループの全国の営業部門と一緒になってAoLaniのプレセールスを推進。その出向組の中心人物である岡田英樹氏(JBCC医療ソリューション事業部営業本部事業企画担当部長)は、「房総半島の地域医療を支えてきた実績と最新のノウハウを反映した」とし、電子カルテ単体ではなく、地域医療全体の設計を強みと位置づけている。
●キヤノンはプライム案件に自信
キヤノンITSメディカル
宮里博史
取締役 富士通の電子カルテ販売で実績を積んできたキヤノンITSメディカルは、大型のプライム(元請け)案件の比率の拡大を推し進めている。中小病院向けはもともとプライムを基本としてきたが、大型案件については大手ベンダーと協業するケースが多かった。今年に入って、ベッド数400床規模の大規模病院の電子カルテ案件をプライム受注で本稼働させるなど、「大規模病院向けのSI技術、導入品質の向上がプライム比率を押し上げる原動力になっている」(キヤノンITSメディカルの宮里博史取締役)と自信を示す。
キヤノンITSメディカルは、キヤノンが強みとしてきたハンディーターミナルやOCR、画像処理を強みとして、健康診断の業務効率化に長年の実績を誇る。健康診断は大人数の受診者を滞留させず、すみやかかつ的確に健診する、まさに一分一秒の効率化が求められる“流れ作業”であり、ここで培った業務効率化のノウハウが同社の強みの根底にある。大手ベンダーがポスト・電子カルテに意識を向けるなか、SIerの本分である“SI力”を前面に押し出すことで、収益性が高いプライム案件を中心に、向こう5年で20病院からの受注を目指している。
診療所向け電子カルテに新風
月額“無料”から利用可能に

クリニカル・
プラットフォーム
鐘江康一郎
代表取締役 本稿では病院の電子カルテを中心にレポートしたが、全国約10万施設ある診療所の電子カルテ市場も新しい動きがみられる。クリニカル・プラットフォームが今年1月、診療所向けのクラウド/SaaS型の電子カルテ「Clipla(クリプラ)」を投入。これまでパッケージソフトの買い取りが中心だった診療所向け電子カルテを、月額課金方式で提供するとともに、最大2か月間の無料の試用期間を設けて、「診療所の医師がいつでも、自由に利用できる」(クリニカル・プラットフォームの鐘江康一郎代表取締役)ようにした。
さらに、価格体系はカルテ登録患者数100人までは無料、101人以上は月額9800円(税別)からに設定。オプションで日本医師会のレセコン「ORCA」との連携も可能だ。
地域医療連携では、中核病院の電子カルテは参照できるが、中核病院側から診療所の電子カルテは参照しにくい状態が続いている。まずもって診療所の電子カルテの普及率が低いうえに、外部から電子カルテのデータを参照できる仕組みがなかったりすることが背景に挙げられる。Cliplaのような低料金、月額で利用できるクラウド/SaaS型のサービスが登場したことによって、普及率の向上が見込めると同時に、セキュリティや閲覧権限を設定し確保したうえで、外部からも参照しやすくなる。診療所の医師や看護師による訪問医療のときも、手元の端末から患者のカルテを参照することも容易だ。
クリニカル・プラットフォームは、2020年までに診療所全体の5%に相当する5000施設の利用を見込んでおり、新興勢力の一翼を担うポジションを狙う。