オブジェクトストレージで解決する企業の課題
数と容量が膨大なデータを低コストで保存できるのがオブジェクトストレージのメリットだが、その特性は、企業のストレージが現在抱えている課題や、市場のニーズにはどのようにあてはまるのか。オブジェクトストレージ技術をベースとした商品・サービスの例をみてみよう。
●スケールアウト型製品でデータ移行の手間から解放 現在、企業のストレージを食いつぶそうとしているデータの多くは、メールや各種文書ファイル、画像や音声、あるいは動画といったいわゆる非構造化データで、データの個数、1データあたりのサイズがともに増大している。大量のデータがストレージを圧迫すると、コストの増大やパフォーマンスの低下のほか、データの管理に関するさまざまな不都合が発生する。その最たるものが、ストレージ機器が寿命を迎えた際の、新しいハードウェアへのデータ移行作業だ。

コアマイクロシステムズ
高橋晶三
社長 ストレージシステムの専門ベンダー・コアマイクロシステムズの高橋晶三社長は「数年ごとにやってくるストレージの保守期限のたびに行っていたデータ移行は、データサイズが小さかった昔だから許された作業」と指摘する。一般企業でも数十テラバイトのデータを保有するのが珍しくない現在、データ移行作業に伴うシステムの停止時間も拡大している。今後IoTが普及し、各企業が大量のセンサデータをため込むようになると、すべてのデータを継承していくこと自体が困難になる可能性もある。
この問題に対処するため、同社では動的な容量の拡張や、データ移行作業なしでのハードウェアのリプレースに対応したスケールアウト型ストレージ「vNAS Scaler」シリーズを提供しており、この製品のベースとなる技術として、データの数や容量に関して実質的に限界がないオブジェクトストレージを採用している。vNAS Scalerシリーズは、スウェーデンのCompuverdeが開発したストレージソフトウェア「vNAS」と、汎用のx86サーバーを組み合わせたもので、Amazon S3互換のAPIを提供するのはもちろん、iSCSI、SMB、NFSでのアクセスも可能となっており、従来型のブロック/ファイルストレージと変わらない構成で使用できるのも特徴だ。容量を拡張する際は動作状態のままノードを追加していけばよく、データは各ノード間で自動的に分散配置される。また、WANを介して多拠点でクラスタを構成するのにも適している。

vNAS Scalerシリーズの1機種で、最大8TB×12台のHDDを搭載できる
「vNS-R2000GX」
高橋社長は「ユーザーが求めるのは『データの永遠性』。ビッグデータ、IoTでデータ量が爆発する時代にそれを現実的なコストで実現するには、ソフトウェア定義型ストレージとオブジェクトストレージの技術が必ず必要になる」と述べ、今はストレージのアーキテクチャが大きく変わる節目の時期にあるとの見方を示している。
●アプライアンス製品とIoTで新規市場を開拓 前出のクラウディアンは、オブジェクトストレージを実現するソフトウェア「Cloudian HyperStore」の販売を主力としており、これまでNTTコミュニケーションズやニフティが提供するクラウドストレージサービスの基盤として採用されるなど、サービス事業者向けに豊富な実績を有している。
ただ、従来のユーザー層の中心だったクラウド事業者やデータセンター、ウェブサービス事業者では、顧客が自らハードウェアを選定しストレージシステムを構築できるのに対し、現在需要が増えている一般企業には、必ずしもそのようなスキルをもった技術者がいるわけではない。このため、ユーザーのもとに届いた時点ですぐに使える、アプライアンス製品のニーズが最近は増しているという。
一般企業でクラウディアン製品の採用が拡大するうえで追い風となりそうなのが、今年5月に発表されたレノボとの協業だ。レノボが同社製x86サーバーに、工場出荷段階でクラウディアンのソフトウェアをインストールし、「Lenovo Storage DX8200C powered by Cloudian」の製品名で販売するというもので、製品に加えてサポートもレノボが提供する。ユーザーは製品をネットワークに接続するだけで、すぐにストレージとして利用でき、何かあったときも日本はもちろんのこと、グローバルに展開するレノボのサポート網を通じて保守サービスを受けることができる。

Lenovo Storage DX8200C powered by Cloudian
また、オブジェクトストレージの特徴が生きる用途とされるビッグデータ、IoTの領域では、他社と連携してユースケースづくりにも力を入れており、今年4月には電通など4社と共同で「屋外広告実証実験プロジェクト」を立ち上げた。このプロジェクトは屋外のデジタルサイネージにターゲティング広告を配信することが目的。第一弾として、道路沿いに設置したカメラ映像をもとに、ディープラーニング技術によって走行中の自動車の車種を判定し、車の所有者が関心をもつと考えられる広告を最適なタイミングで屋外ビジョンに表示するシステムの開発に着手した。ディープラーニングでは学習のために大量の“教師データ”を取り込む必要があり、大容量のデータを蓄積できるオブジェクトストレージの利用が適している。
クラウディアンでは、道路映像の分析技術をソリューションとして商品化することも視野に入れており、IoT普及の波に乗る形でオブジェクトストレージ製品の拡販をねらっている。
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