ファイルシステムを利用するのではなく、HTTPベースのAPIを経由してアクセスするオブジェクトストレージは、ウェブアプリケーションやクラウドとの相性はよいものの、社員のクライアントPCから直接共有フォルダとして開くことはできない。このため、Amazon S3互換のアプリケーションを利用するのではなく、単にファイルを格納する目的では、やや取り扱いにくい部分のあるストレージだった。
これに対し、容量あたりのコストが安く、拡張が容易というメリットを提供しつつ、従来のNASとまったく同じ使い勝手を実現した製品も登場している。SCSKが今年1月から国内総代理店として販売を開始した米Exabloxの「OneBlox」は、ユーザーからはNASとしてみえるストレージ製品で、Windowsのエクスプローラなどから共有フォルダとしてアクセスできるが、中身はオブジェクトストレージ技術を用いて構成されている。

NASとまったく同じ構成で使用できる「OneBlox」
1ノード・6TB(論理容量)からのスモールスタートが可能で、容量が不足した場合は他のオブジェクトストレージ製品と同様、ノード内にHDDを追加するか新規ノードをネットワーク上に追加していくだけで記憶領域を拡張することができるのが特徴(最大7ノード・168TB)。書き込まれたデータは小さく分割されたうえで重複部分が排除され、3台の異なるHDDに複製が分散配置されるので、データ量を効率よく削減しつつ、可用性も高めている。

SCSK
原島 敦
副部長 SCSK ITエンジニアリング事業本部 ストレージネットワーク部の原島敦・副部長は「製品としてはあくまでNASなので、オブジェクトストレージに関する知識がなくても簡単に導入できる」と製品の特徴を説明。また、「アーカイブ用途でデータを貯めていく用途に適しているが、特定のユーザーやアプリケーションを参照する用途にも対応できる性能を有している」と強調。SANストレージと異なり、一般にオブジェクトストレージはパフォーマンスを追求しないバックアップやアーカイブ目的に適しているとされるが、OneBloxは性能も比較的すぐれているという。複数のアプリケーションサーバーが同時にアクセスしたり、数千人のユーザーがフォルダを共有するといった用途でなければ、参照系(アクティブ)ストレージとしても十分利用できるとしている。
最大のメリットはやはりコストだ。求めるパフォーマンスなどの要件にもよるが、従来のNASと比較した場合OneBloxは容量あたりのコストを半分から数分の1に抑えることができるという。また原島副部長は、「業務の拡大にあわせてNASを増設し続けてきたため、社内にNASが乱立している」といった企業でのNASの統合や、使用頻度の低いデータを待避させることで既存のファイルサーバーの空き容量や性能を維持する、といった用途でもOneBloxに需要があるとみて、販売パートナー網の拡大に着手している。
記者の眼
情報システムにおけるストレージの課題は大きくわけて二つあり、一つが性能、もう一つが容量だ。前者の性能問題に関しては、昨年来多くのストレージ製品ベンダーが「オールフラッシュストレージを導入することで、データベースや分析エンジン、VDI基盤などにおける性能のボトルネックを解消せよ」というメッセージを発信し、フラッシュ製品を処方箋として提案してきた。対して今回紹介したオブジェクトストレージは、後者の容量問題に対応するソリューションとなっている。
基幹系システムや、とくに高い性能が求められるアプリケーションのためのSANストレージがなくなることは考えられないが、一方でデータの保管場所として使われてきたNASは、特別な要件がないものについてはオブジェクトストレージへと置き換えられていく可能性がある。その理由として、一つは本文中でも触れた容量あたりのコストパフォーマンスの高さが挙げられるが、もう一つは、クラウドが普及したことで、オブジェクトストレージの利用を前提としたアプリケーションが増えているという背景がある。いわゆる「ビジネスのデジタルトランスフォーメーション」に積極的な企業では、エンジニアがAWSなどのクラウドを開発環境として次々アプリケーションを開発するため、それを展開する本番環境として、Amazon S3互換のストレージが必ず必要になっているという。
容量問題の解決策としてニーズが高まるオブジェクトストレージだが、“クラウドネイティブ”なITインフラを構成する要素としてもさらに注目を集めていくと考えられる。