Rubyなど、全国に先駆けて最新テクノロジーを取り込んで市場を活性化することに積極的な福岡県。現在では、IoTやAIなど話題となっているテクノロジーを駆使して、“九州発”の製品・サービスを創造することに力を入れている。また、他の地域よりも一歩先を行くSIのあり方を模索・導入する傾向も高まっている。福岡県を本拠地に据えるSIerは今、どのようなビジネスを手がけているのか。その取り組みを追った。
九州経済産業局 「IoT推進ラボ」の立ち上げが相次ぐ
韓国のソウルやプサンに近く、中国の上海などが1000km圏内、アジアを中心として22の都市に定期便があることから、「アジアのゲートウェイ(玄関)」といわれる九州地区。熊本地震で、熊本県や大分県などを中心に大きな被害に遭った地域も多いが、震災の影響で悪化していた生産は回復の兆しが出ているほか、福岡など観光地への来訪客も持ち直しの傾向にある。
そんななか、九州のIT産業は動きが活発になっている。とくに経済産業省による、地域におけるIoTプロジェクト創出の取り組み「地方版IoT推進ラボ」の第一弾に選定された地域が多い。福岡県、熊本県、鹿児島県、福岡県北九州市、福岡県福岡市の5地域だ。九州経済産業局の秋吉英治・地域経済部情報政策課長は、「その地域ならではのIoT推進ラボが立ち上がった」と評価する。同課の中村誠・課長補佐は、「下請け構造からの脱却が実現できる」と捉える。

秋吉英治課長(写真右)と中村 誠課長補佐
具体的には、福岡県がロボット・半導体とRuby関連の技術を組み合わせたIoTプロジェクトの創出、熊本県が新規ビジネスの創出による震災からの創造的復興、鹿児島県が農林水産業や食品関連産業の競争力強化に向けたIoT関連の装置開発、北九州市が「北九州スタジアム」周辺の活性化を目的とした実証実験など。福岡市は、地方版IoT推進ラボの実現に向けて、今年8月下旬に「福岡市IoTコンソーシアム」への参加を募集したばかりで、具体的な内容はこれからとなる。ただ、九州地区でITベンダーが最も多く集積しているだけに、新しい取り組みに期待がかかっている。

博多駅は観光客や地元民など、さまざまな来訪者で賑わっている
福岡市 100社の参加が目標
福岡市IoTコンソーシアムへの参加募集を開始した福岡市では、具体的に地方版IoT推進ラボの可能性を検討している。石井隆之・経済観光文化局創業・立地推進部新産業振興課長は、「街がコンパクトという福岡市の特徴を生かし、さまざまな社会実験を行うための実証環境を用意したい」との考えを示している。

石井隆之課長(写真右)と古賀理恵係長
参加企業については、業界を絞らず、さまざまなプレイヤーがリソースを持ち寄り、製品・サービスを創出することを目指す。大手企業やベンチャー企業、インテグレータの連携なども想定。同課の古賀理恵・情報エレクトロニクス産業係長は、「100社が参加することを目標にしている」と意気込む。今年10月には、設立記念シンポジウムの開催を計画している。
今、福岡IT市場は拡大の傾向をたどりつつある。福岡県を本拠地とするSIerは、ソフトウェアの受託開発という旧態依然のビジネスモデルから脱却して、新しい製品・サービスを提供しているケースが多い。次ページでは、さまざまなSIerの取り組みについて紹介する。

福岡県情報サービス産業協会 3か年の中期事業計画が始動

秋山正博
専務理事 今年6月1日の時点で175社の会員企業が集まる福岡県情報サービス産業協会(FISA)では、今年度(2017年3月期)から始まる中期事業計画「第4期3ヶ年」が動いている。昨年度までの成果については、地域協力型ビジネスの確立を目指した「ふくおかクラウドアライアンス」が発足から3年を迎えて、IT技術者とユーザー企業のブリッジ組織として定着したほか、商工会議所や商工会連合会など地場中小企業へのクラウドサービス導入支援を入口とした「サービス提供型ビジネス」の足がかりをつくることができた。秋山正博・専務理事兼事務局長は、「この活動を継続して足がかりから具現化したものに育てていきたい」との考えを示す。
また、「IoT」をはじめ、「ロボット」「AI」などをテーマにしたセミナーも積極的に開催し、「最新テクノロジーを地元で聴講できると、毎回、満席になる。会員企業の新しい製品・サービスの創造につながる」と期待する。

FISAは開発地区として発展したシーサイドにオフィスを構える
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