米オラクルが9月にサンフランシスコで開いた年次イベント「Oracle Open World(OOW) 2016」では、創業者のラリー・エリソン会長兼CTOが、IaaSに注力する方針を明らかにするとともに、トップベンダーのAWSにライバル宣言をしたことで大きな話題を呼んだ。日本市場でも、オラクルならではのIaaSの価値を強く市場にアピールしていく考えだ。懸案だった国内DC稼働の計画も明確になり、攻めの体制を着々と整えている。(取材・文/本多和幸)
IaaSはグローバルよりも大きな成長が期待できる

石積尚幸
副社長 オラクルは、SaaSベンダーの買収やクラウドネイティブな自社アプリケーション開発への積極的な投資、さらには圧倒的な市場シェアを誇るデータベース(DB)ソフト周辺の技術を生かしたPaaSポートフォリオの充実などを推進力として、近年、クラウドの売上高が急成長している。直近の2017年度第1四半期(6月~8月)決算発表では、クラウドビジネスの売上高が全売上高の10%を超えたと発表している。同社は、このクラウドでの成長をさらにブーストさせるために、まだ売上高も成長率も小さいIaaSに大きな伸びしろを見出しているようだ。日本オラクルの石積尚幸・執行役副社長クラウド・テクノロジー事業統括は、「日本市場では、グローバルよりも大きな伸びが期待できる」と話す。
そうした見通しは、とくにSoR(Systems of Record)領域のクラウドに対する当面のニーズに、オラクルのサービスが先行するメガクラウドよりもマッチしているという自負にもとづいている。石積副社長は、次のように説明する。
「SoRのアーキテクチャを一気に刷新してクラウドトランスフォーメーションをしようというのは、非常にハードルが高い。実際には、ハードウェアの経年化、陳腐化への対応を迫られ、とりあえず既存のシステム、アプリケーションをまったくいじらずにリフト・アンド・シフトでインフラだけをIaaSにもっていき、ハードウェアの運用コストをセーブしたいというニーズが大きい。オラクルの製品・サービスは、オンプレミスで使っていただいているものをすべてクラウドでも使っていただけることを保証していて、そのニーズに簡単に応えられる。PaaSではこのオンプレミスとクラウドの行き来がさらに容易で、IaaSを使ってリフト・アンド・シフトした後に、データベースをマルチテナント化して一部を切り出して徐々にクラウドにシフトしていったりということも自在にできる。こうした強みもIaaSの成長を後押ししてくれると思っている」。

こうした特性は、とくに既存のSIパートナーにとって、先行するクラウドベンダーよりも大きなメリットをもたらすとも強調する。「オラクルのクラウドなら、オンプレミスで培ったSIerの技術を全部無駄にせずに対応でき、これまで蓄えた業務知識をフルに生かしてもらえる」(石積副社長)という。
サービス提供形態の多様さがさまざまな協業のかたちを支える
OOW 2016では、IaaSの強化にあたって、同社が「第2世代」と呼ぶデータセンターの整備を進めていることも明らかにしている。リージョン内で比較的近距離の複数のデータセンターを光ファイバーでつないで一つのクラスタにまとめ、同じデータを複製、共有する仕組みをつくり、フォールトトレラントなインフラを整備するとともに、リージョン間を超高速、低レイテンシの専用線で接続する仕組みも整えつつあるという。石積副社長は、「とくに米国のDCには非常に豊富なリソースがあり、日本からも非常に安全性、信頼性が高いクラウドサービスを手頃に使ってもらえるようになる。SoRのクラウド化は本来、どんなDCでも受け皿になり得るという性質のものではないが、オラクルはSoRで要求されることにきちんと応えられるDCをつくったということ。また、オラクルのクラウドインフラはネットワーク機器を除いてすべて自社製品を使っているため、圧倒的なコストメリットが出せる」と力を込める。
2017年1月~3月には、富士通のDCを使い、国内DCからIaaS、PaaS、SaaSのクラウドサービスの提供も始める(一部のSaaSはすでに国内DCを整備済み)。さらに同社はこのほかに、「Oracle Cloud@Customer Service」というクラウドサービス提供の形態も準備している。これは、オラクルの各種クラウドサービスと完全な互換性をもつ垂直統合型マシンを顧客のデータセンターに置き、管理運用はオラクルが行うサブスクリプションモデルのフルマネージドサービスだ。この専用マシンはパートナーのDCに設置してクラウドサービス再販のためのインフラとして活用できる可能性もある。石積副社長は、「お客様のニーズに応じて、これだけバラエティに富んだクラウド提供の方法を網羅できているのもオラクルの大きな強み。結果的に、パートナーともさまざまな協業の可能性が広がった」と説明する。
一方で、PaaSのビジネスに関しては、SoRはもちろん、SoE領域での成長も目指し、エンジニア向けのセミナーなどを全国で積極的に開催し、開発者コミュニティの育成に重きを置いた施策を展開していく方針だ。