この上期(2016年4-9月期)の主要SIerの動きをみると、「グローバル」「デジタル」「知財」の3つのキーワードが浮き彫りになってくる。堅調に推移しているようにみえる国内情報サービス市場だが、IT投資がデータセンター(DC)やクラウド周辺に偏り、それ以外の領域は伸び悩む“まだら模様”となっていることにも注意が必要だろう。SIerの中間決算を取材した。(取材・文/安藤章司、鄭 麗花)
主要SIerの海外M&Aが相次ぐ「存在感」と「付加価値」を高める
SIerが力を入れる「グローバル」「デジタル」「知財」――。グローバルではNTTデータが米デルのITサービス事業部門を傘下に収めたことで、海外売上高を一気に3000億円ほど上乗せする見通し。デジタルでは、顧客企業のビジネス革新や新規事業創出といった領域が活性化している。また、特色ある知財をもつ企業を傘下に収めたり、知財をテコに付加価値の高いSI(システム構築)ビジネスを伸ばす動きも活発化している。
●米デル・サービス部門を傘下に 今上期(2016年4-9月期)の大きなトピックの一つがNTTデータによる米デル・サービス事業部門のM&A(企業の合併と買収)だ。同事業部門の年商は約28億ドル(約3000億円)規模で、これを傘下に収めたことで、NTTデータの海外売上高は単純合算ベースで8000億円を超える規模になる。NTTデータにとっても過去最大の海外のM&A案件で、日本の情報サービス業界にとっても異例の大型M&Aとなった。
11月2日時点で、世界各地に展開している米デルの同サービス事業部門の譲渡手続きのうち98%が完了しており、今年度(17年3月期)末までにすべての手続きが完了する見込み。同事業部門は北米に主な拠点を置く海外法人となる見通しで、社名は「NTTデータサービス」とする予定だ。

NTTデータ
岩本敏男
社長 昨年度(16年3月期)のNTTデータの海外売上高構成比は32%ほどだが、デルのサービス部門が加わることで、当初は2020年頃にイメージしていた50%の目標値に大きく迫ることになる。実際には海外売上高構成比を50%にもっていくには、あと2000億円ほど海外ビジネスを伸ばす必要があるが、NTTデータでは19年3月期までに「できることなら、前倒しで達成したい」(NTTデータの岩本敏男社長)と鼻息が荒い。
デル・サービス部門の譲渡の実質完了のタイミングに合わせるかのように、11月4日付で発表した16~18年度の3か年中期経営計画では、連結売上高2兆円、営業利益を15年度(16年3月期)比で1.5倍に増やす数値目標を発表した。海外売上高は単純合算ベースで8000億円を超える規模になる見込みであることから、この2年あまりのうちに海外で2000億円ほど売り上げを伸ばせば、海外売上高50%達成の現実味がより増してくる。既存の海外事業の売上増に加えて、さらに追加で「海外M&Aをしなければ達成は難しい」と岩本社長はみている。
●欧米での地歩を着実に固める 既存顧客の海外サポートから始まったNTTデータの海外ビジネスは、この10年で大きく飛躍した。同社が「グローバル・ファーストステージ」と呼ぶ初期段階では、まずは主要国・地域に拠点をつくって現地でのサポートを充実する“面的なカバー率”の拡充に取り組んできた。そして、今の中期経営計画(2019年3月期まで)では「グローバル・セカンドステージ」と位置づけ、主要国・地域での“NTTデータブランドの確立”を旗印に揚げている。
図1は、調査会社ガートナーの資料をもとにNTTデータが作成した主要国・地域の情報サービスの市場規模と、NTTデータのポジション(ランキング)を示したものだ。NTTデータブランドの確立には、その国・地域の情報サービス業ランキングで上位に食い込む必要がある。足元をみると、スペインやドイツ、イタリアなどでは10位以内に食い込み始めており、徐々にではあるが存在感を高めている。欧州市場を巡っては、14年にバチカン教皇庁から受注した図書館デジタル保管事業が、欧州圏でのNTTデータの認知度を高める重要なきっかけになった。

とはいえ、市場規模が大きい北米では10位以下であるし、他の地域でも国内のように断トツのシェアを誇るようなところまでは至っていない。今回の米デルのサービス部門をグループに迎え入れることによって、とりわけ北米での成長の基盤となることが期待されている。同サービス部門は、BPO/ITOといったアウトソーシングサービス事業を強みとしており、顧客の多くが複数年度にわたって契約してくれている安定顧客が多くを占める。
今回のM&A前のNTTデータの北米での売上高のうち、BPO/ITO事業が占める比率は11%程度でしかなかったが、M&A後は一気に48%程度まで増える見込み。なかでもヘルスケア領域のBPO/ITOに強みをもっており、北米でのヘルスケア事業が占める売上高構成比は約13%から約33%へと大幅に高まる。これを北米での収益の基盤として、北米でもトップ10入りできるかがNTTデータの「グローバル・セカンドステージ」のカギを握るといえそうだ。
●知財系M&Aで競争力を高める 野村総合研究所(NRI)は、今年6月に資産運用で高い専門性とノウハウをもつ米カッター・アソシエイツをグループに迎え入れた。また、9月にはオンプレミス(客先設置)方式のシステムをクラウド環境へ移行させる包括的な知財をもつオーストラリアのASGグループを子会社化すると発表している。昨年はデジタルマーケティングに強みをもつ米ブライアリー・アンド・パートナーズをグループ化するなど、特定分野で専門的な知識とノウハウをもつベンダーに狙いを定めたM&Aを活発化させている。

NRI
此本臣吾
社長 米ブライアリーと米カッターは、デジタルマーケティングや資産運用といった専門性の極めて高い知財をもっており、NRIではこの知財をテコに、グローバルビジネスの足場固めを進めていく。一方、オーストラリアのASGグループは「クラウド移行支援」に強みをもちつつも、どちらかといえばSIer寄りの印象も受ける。売上規模も150億円ほどと中堅SIer以上の規模がある。この背景には、オーストラリアの情報サービス市場がアジア太平洋で第2位の大きさがあり、「クラウドへの移行は先進国のなかでも群を抜く早さで進んでいる」(NRIの此本臣吾社長)ことが挙げられる。
アジア太平洋では、中国やASEANに注目が集まるが、ソフトウェア/サービスだけを切り出してみると、オーストラリアが日本に次ぐ規模となり、潜在力や成長可能性が大きいというわけだ。
NRIは、「デジタル」領域でも着々とコマを進めている。同社は基幹業務システムに代表される「SoR(記録型のシステム)」を「コーポレートIT」と呼び、顧客企業のビジネス革新や新規事業創出といった売り上げや利益を伸ばすことに直結する「SoE(価値創出型のシステム)」を「ビジネスIT」と定義。「デジタル」領域では後者であり、SoEに主眼を置くNRIデジタルを今年8月に設立している。別会社にすることで、NRI本体よりも迅速にビジネスIT領域へ進出する役割を担っている。
●「デジタル」へのシフトを加速 情報サービス産業協会(JISA)の集計によれば、足元の国内情報サービス市場は堅調に推移している(図2参照)。だが、ビジネスの中身が大きく変わろうとしていることから、既存ビジネスだけで成長を持続させるのは、いささかハードルが高い。


日本ユニシス
平岡昭良
社長 日本ユニシスでは、新しい“デジタル領域”を「デジタルイノベーション」と「ライフイノベーション」の二つに分けて、重点的に伸ばそうとしている。前者は、決済サービスや顧客接点領域などで、今年度(17年3月期)は前年度比17.2%増の170億円に達する見込み。後者は社会的な課題解決を目指す価値創出型のビジネスで、前年度比でほぼ倍増となる30億円を見込んでいる。従来型のSIビジネスの「ビジネスICTプラットフォーム」事業セグメントは、前年度比1.1%増の2650億円の見通しだが、日本ユニシスの平岡昭良社長は「SEの稼働率を多少落としてでも、デジタルやライフ領域にシフトしていきたい」と、戦略的にデジタル領域を伸ばしていく構えだ。
実際、「ビジネスICTプラットフォーム」のSE稼働率は直近の96%から90%程度まで抑制しており、その分をデジタル領域に振り分けている。「デジタルイノベーション」の主要分野の一つの決済サービスでは、中国の電子マネー「Alipay(アリペイ=支付宝)」への対応や、プリペイドカードとクレジットカードの国際ブランド各社と連携させるなどの領域が有望だという。
また、「ライフイノベーション」では20年の東京五輪を見越した訪日外国人対応や地域防災。電気自動車向け充電スタンドや新電力向けのクラウドサービスといった次世代エネルギー領域、さらにはワークライフバランスなどの暮らしに焦点をあてたビジネスを、それぞれの領域の事業者と協業する「ビジネスエコシステム」を軸に拡大させていく。ビジネスエコシステムは、ある種のオープンイノベーションの手法とも通じるもので、当該事業を手がける事業者の売り上げや利益に直接的に関連する領域で、ともに成長していくことを念頭に置いている。
日本ユニシスの18年3月期までの中期経営計画では「デジタルイノベーション」を300億円、「ライフイノベーション」を100億円程度まで伸ばしていく方針だ。
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