成長と停滞が背中合わせ 国内市場全体では堅調に推移
国内情報サービス市場は、堅調に推移しているように感じるが、その中身をみるとIT投資に偏りが目立ち始めている。クラウド周辺は活性化しているが、それ以外の、例えばクライアント/サーバー(C/S)型のシステム需要は伸び悩む、あるいは縮小が顕在化している。SIerがグローバルやデジタル領域に力を入れる背景には、足元の国内市場の変化が挙げられる。
●中堅企業向け新施策を続々と 「20年までは底堅いものがあるのではないか」と、主要SIerの幹部は国内情報サービス市場の推移について異口同音に話す。しかし、中身をみるとクラウド/SaaS周辺のニーズが高まる一方で、従来のクライアント/サーバー(C/S)型のシステムは市場が縮小傾向にある。それでも情報サービス市場全体が縮小しないのは、クラウド/SaaSを収容するデータセンター(DC)が必要とするハードウェアやソフトウェアの販売やSI(システム構築)が好調で、C/S型の落ち込み分を吸収してなお余りあるからだと推測される。

JBグループ
山田隆司
社長 C/S型を多く導入していた中堅・中小企業向けのビジネスは苦戦する傾向にあるといい、「中堅・中小企業領域のITビジネスは別の尺度でみていく必要がある」と、JBCCホールディングス(JBグループ)の山田隆司社長は話す。同社は同領域に強みをもつSIerだが、15年3月期以降、連結売上高の減少傾向が続いている。そこで、クラウド移行の加速やSIビジネスの改革、医療をはじめとする業種戦略の深掘りなどの施策を矢継ぎ早に打っている。
とりわけ、SIビジネス改革は非常に有効に作用し、上期(16年4~9月期)のSIビジネスの売上総利益率(粗利率)は過去最高水準の34.3%に達している。システムの上流設計ツール「Xupper(クロスアッパー)」や、開発自動化ツール「GeneXus(ジェネクサス)」を積極的に活用。各種ツールによるSI開発の標準化、自動化を推進することで開発の効率化、高速化を実現するとともに、アジャイル開発の手法も採り入れて顧客が求めるシステムを的確に構築するよう努めている。
こうした取り組みによってシステム開発の手戻りが減り、結果的に粗利率の向上につなげている。今年度(17年3月期)通期のSIビジネスの粗利率は35%を見込む。主力のSIビジネスの粗利率改善が後押しするかたちで、JBグループ全体の営業利益も4期連続での増益達成を目指す。
●デジタル三種の神器が伸びる 売り上げが伸び悩むなか、粗利率の改善へと舵を切るのも一つの手だが、粗利率の改善もいずれ限界がくる。どこかのタイミングで売り上げを伸ばす方向へと転じなければならない。主要SIerが「グローバル」「デジタル」「知財」を重視するのは、既存ビジネスのなかに、伸び悩む要因を抱えている危険性があるからだろう。先述のJBグループの場合は、中堅・中小企業向けのC/S型システムの落ち込みだったが、他のSIerの場合は従来型の受託ソフト開発が潜在的なリスク要因になることも考えられる。

日本TCS
アムル・
ラクシュミナラヤナン
社長 インド系大手SIerの日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)の上期(16年4~9月期)の売り上げは、前年同期比でほぼ横ばいで推移している。グローバルでの第2四半期(7~9月期)の売上高が前年同期比で5.2%増の43億ドルだったのに比較すれば、日本法人の伸び悩みが逆に目立ってしまうかたちだ。それでも「IoT/ビッグデータ、AI(人工知能)などを活用したデジタル領域は、力強く伸びている」(日本TCSのアムル・ラクシュミナラヤナン社長)と話す。
IoT/ビッグデータ、AIは、いわゆる「デジタル三種の神器」と呼ばれる分野で、顧客の売り上げや利益を伸ばすことに直結する「SoE」に欠かせない新技術と位置づけられている。日本TCSでは、グローバルで培った知見を強みとして、ユーザー企業とともに積極的にデジタル新技術を活用した実証実験に取り組んでいる。まだ売り上げ全体に占める割合は少ないが、それだけに伸びしろは大きく、近い将来、売り上げを牽引する役割を担っていくことが期待されている。
●メーカーは構造改革が続く富士通は1兆円規模を「独立/分散」か 富士通はITサービスやSIを中核事業と位置づけ、パソコンや携帯電話、カーナビなどの端末系や、個人向けのインターネット接続プロバイダサービスを独立/分散させる方向で検討を進めている。今年2月にはパソコンや携帯電話は子会社で独立した事業体とした。また、カーナビを手がける富士通テンは、富士通の連結から外し、デンソーの51%出資に資本構成を組み替えることを視野に入れている。パソコン事業では世界最大手のパソコンメーカーの中国レノボから助力を得る方向で検討を進めている。

富士通
田中達也
社長 これら端末系の事業セグメントは「ユビキタスソリューション事業」と呼ばれ、およそ1兆円規模の売り上げがある。仮に連結から外れることになれば、大幅な売り上げダウンは避けられないが、富士通の田中達也社長は、「売り上げありきではない」とし、直近の連結営業利益率の水準2~3%ゾーンから、5%ゾーンへの道筋を早期につけて、最終的に10%を成し遂げていきたいとしている。
国内コンピュータメーカーは、サーバーやストレージ、ネットワーク機器といった企業向けビジネスの主力となるハードウェア製品も、中国や米国などの海外勢に押され気味。状況次第では構造改革が今後もしばらく続く可能性がある。
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