富士通 目的に合わせ最適なデバイスを提供 顧客とともに価値づくりを行う
●目的に合わせ最適な端末を用意
福井大介氏 VRといえば、大きなゴーグルのような形をしたHMDを装着して利用するイメージだが、富士通ではHMDとは異なるVR端末を「VRソリューション」として提供している。米zSpaceの開発する24インチ型VRディスプレイ「zSpace」、専用のメガネ型端末「zSpaceグラス」、スタイラスだ。スタイラスを用いて直観的な操作が可能なことや、視界がVR空間で覆われるHMDと比べ、周囲とのコミュニケーションがとりやすく、没入感がないことから“VR酔い”が起こりにくいこと、ディスプレイに映し出された画面から周囲と体験をシェアできる点などがユーザーへの訴求ポイント。これまでに、設備のメンテナンスや医療、教育分野などのトレーニングやシミュレーション用途で導入実績をもっている。流通・小売向けの販促ツールや、建設/住宅業向けのインテリアシミュレーター用途も検討中だ。
とはいえ、富士通はHMDをまったく扱っていないわけではない。統合商品戦略本部ソフトウェア推進統括部VR/ARソリューション推進部の福井大介氏は、「目的に合わせて必要なデバイスを使い分けること」を重視していると説明する。例えばスポーツなど、没入感が求められるような場合などHMDの方がよいと判断すれば、HMDを提案する。
●顧客とともに、価値を創り出す 富士通のVR部門は、昨年10月に新設され、現時点で1年が経過したばかりだが、畠中靖浩・統合商品戦略本部ソフトウェアビジネス推進統括部VR/ARソリューション推進部部長は「顧客へ紹介したりデモを行った回数は、当社のなかでもずば抜けて多いのでは」とアピールする。とくに「PlayStation VR」の発売と前後するタイミングで顧客から問い合わせを受けるケースが増加したといい、ユーザーが積極的にVRの検討を進めているようすがうかがえる。

畠中靖浩部長(左)と宮隆一氏
ただし、顧客側で明確な目的をもって富士通に相談に来ることはごく稀なこと。大部分は「何をしたらいいかわからないが、VRで何かしたい」といった人たちだという。統合商品戦略本部ソフトウェアビジネス推進統括部VR/ARソリューション推進部の宮隆一氏は、「VR自体、市場はこれからで、まだまだイノベーション領域の商品。当社でも確立したソリューションができておらず、お客様とともに探しているというのが実情。一緒にVRを使って価値のあるものをつくっていく」ことに取り組んでいると話す。
●パートナーとの連携を求める 顧客起点での引き合いは多いものの、導入まで至るのはそう簡単ではない。「(お客様自身は導入に意欲をもっていても)お客様のほうで周囲を説得できず、導入に至らないケースもある」と、宮氏は打ち明ける。VRは市場自体がまだ黎明期にあるため導入事例が少なく、導入後の効果をはっきりと明示できないことが理由の一つと考えられる。「(VRは)、ふだん体験できないことを体験できるということが付加価値となる。将来的に会社の利益につながることは間違いないが、具体的なレベニューを出せない。ここをブレイクスルーするのが難しい」と課題を語る。
そうした背景から、畠中部長は、すでに組んでいる富士通デザインをキーとしつつ、事例創出に向けてコンテンツ制作会社など、「今までおつき合いがあまりなかったようなところを含め、さまざまな企業と積極的にパートナーシップを組んでいく必要がある」と強調。実際に、いくつかの企業とは話が進んでいるということだ。
今後については、「VRデバイスはもっと増えてくる。VRの可能性を具現化できるデバイスをポートフォリオとしてもてるようにしたい」と語る。また、「ゆくゆくはサービス化やAI連携など、一般的なITビジネスで利用されているテクノロジーはすべて関連してくると思う。富士通が得意な領域だ。将来はこういうところと連携しながら、柱となるようなことをやっていきたい」と思いを語った。
記者の眼
ソニーのVRゲーム機「PlayStation VR」は販売開始後まもなく完売し、品切れする店舗が続出するほどの人気ぶりをみせている。国内ではとくにこのPlayStation VRがVR認知の広まりに拍車をかけ、その影響は法人向けVRにも及んでいる。「今年に入って引き合いが増加した」と、各社が口を揃えて話すなど、VRを業務に利用しようとする動きが活発化してきているのは間違いないようだ。

zSpaceを使った心臓シミュレーション。スタイラスを使い360度の回転が可能。心臓の鼓動がバイブレーションで伝わる。AR技術を使い、画面から飛び出してみることもできる
一方で、市場自体が立ち上がったばかりで、まだまだ課題があるのも事実。先に述べたように、VR導入後の効果がみえづらい点がその一つだ。導入効果が明確にでている事例はあるとのことだが、「企業秘密とかかわってくるものもあり、オープンにできない」ことが現状としてあるという。とはいえ、NECが語るように、来年以降は、さらにVR検討の動きが加速していくようになれば、公開できる導入事例が増えることが期待される。

また、Facebookやグーグルをはじめ、多くの企業がVRに対して積極的な投資を行っている。VRではないが、11月には、マイクロソフトがWindows 10搭載のMR HMD「Microsoft HoloLens」の国内販売を来年1月に開始すると発表し、注目を集めている。VRに用いるデバイスやソフトウェアはこの先さらに増加していくだろう。「VR元年」に端を発する今回のVRの波は、今後しばらく続きそうだ。