政府は21世紀にふさわしい学校教育の実現に向けて、教育現場でのICT活用を推進している。3月31日に次期「学習指導要領」を告示。2020年を目標に小学校の英語教育の教科化、プログラミング教育必修化などが盛り込まれ、教育の現場が大きく変わろうとしている。文教ICT市場では、導入が進む教育用のPC/タブレット端末を始め、デジタル教科書や教材、校内のIT環境整備など、ITベンダーにとってビジネスチャンスは数多い。各社は現場の課題をどう捉え、商機を見出しているのだろうか。(取材・文/山下彰子)
今年度内の目標は3.6人に1台の端末
2013年に閣議決定された高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)が掲げる「世界最先端IT国家創造宣言」では、IoT、ビッグデータ、AIなどを業務やビジネスに生かすことができる人材を育成するため、教育環境自体のIT化が提唱されている。初等中等教育段階からIT化に取り組み、学校の高速ブロードバンド接続、一人1台の教育用の情報端末配備、電子黒板や無線LAN環境の整備、デジタル教科書・教材の活用などを推進し、児童/生徒の学力の向上とITリテラシーの向上を図る方針だ。
13年度から17年度の具体的な作業計画としてまとめた「第2期教育振興基本計画」では、児童/生徒3.6人に対し教育用コンピュータを1台、電子黒板・実物投影機を1学級あたり1台を配備すること、超高速インターネットおよび無線LANを100%整備することなどが目標として示されている。
第2期教育振興基本計画は今年度で終了するが、16年3月時点の整備状況では、教育用コンピュータの配備は1台あたり6.2人と目標の約半分で、30Mbps以上の高速インターネット接続率は84.2%、普通教室の無線LAN整備率は26.1%とまだまだ課題が残る。なお、第3期教育振興基本計画は現在検討されているところだ。
山積みの課題がITベンダーのチャンスに
3月31日に次期学習指導要領が告示された。大きなポイントは、小学校で文字入力などを指導すること、プログラミング教育が必修になること、高校でのプログラミング教育が選択履修から必修になることなどが盛り込まれた。
まず、教育用コンピュータについて着目していこう。先述した通り、教育用コンピュータの配備は計画よりやや遅れている。09年3月時点では1台あたり7.2人の配備だったが、10年に6.8人と7人を切った。しかしそれからは6人台と横ばいで推移している。児童/生徒一人1台の教育用コンピュータがある環境で授業を行えないのが全国の平均的な状況だ。
さらに教育用コンピュータのうち、タブレット端末が占める割合が増えている。実台数でみると14年3月時点で7万2678台だったタブレット端末の導入台数が、16年3月に25万3755台と3.5倍に伸びた。順調に推移しているようにみえるが、次期学習指導要領で文字入力の指導が追加されたことを考えると、キーボードが必要になる。
文部科学省
梅村 研
生涯学習政策局
情報教育課
課長
文部科学省生涯学習政策局情報教育課の梅村研課長は「学習指導要領の改訂に向けて一昨年、昨年と議論を重ねてきたが、そのなかで当面はキーボードが必要である、学習の妨げにならない程度の入力スピードが求められる、という意見が出た。またファイル操作など基本操作の習得についても取り上げられた」と説明した。
無線LAN環境の整備 教員のICT活用指導力が課題
30Mbps以上の高速インターネット接続率は84.2%(16年3月時点)と順調に進んでいる。とはいえ、今後クラウドを利用した教務/校務ソリューションや教材の提供などが増えていくので、より速い100Mbps以上の超高速インターネット接続環境が順次整備されていくだろう。むしろ課題となるのは無線LAN環境の整備だ。
これまではコンピュータ教室へのコンピュータ導入が進んでいたため、有線LANによる接続でも問題はなかったが、今後普通教室でのコンピュータ利用が増えていくと、無線LAN環境が必須になる。しかし、マイクロソフトが16年1月~4月に実施した「教育ICTリサーチ2016」で、コンピュータと無線LANの整備の目標調査を実施したところ、無線LANの整備未検討が30%にも上り、現場での意識の低さが浮き彫りになった。
さらに、クラス全員が一斉に同じコンテンツにアクセスしたり、ダウンロード/アップロードするためには、1台のAPで40台近くの端末が接続できなくてはならない。また、ネットワークを教員が利用する校務系情報と、児童/生徒も利用する学習系情報とに分離するなどのネットワークシステムの構築も必要になる。教員、児童/生徒が利用するネットワークだけではなく、総務省が進めている「防災等に資するWi-Fi環境の整備計画」に沿った住民に開放するネットワークも必要だ。
課題は残るものの、20年に向けてICT導入は進んでいる。そのなかで、現場や販売店から聞こえてくるのはICTを活用した指導に対する不安の声だ。教員の校務用コンピュータの整備率は116.1%と高く、日常的にICT機器を使っているので、機器操作に対する能力は十分ある。それに対して授業中にICTを活用して指導する能力は73.5%、児童のICT活用を指導する能力は66.2%とやや低い。教員の端末から児童/生徒の端末に教材を送るなどの簡単な使い方はできるが、ICTを活用した効果的な授業を行ったり、適切なデジタル教材を作成・活用したりといった児童/生徒の情報活用能力を育成する点で課題があるということだ。
これに対し、文部科学省ではICT活用に関する実践事例集、映像集などを用意するとともに、授業におけるICT支援など教員のICT活用に関するさまざまなサポートを行う「ICT支援員」の配置を促している。また、ICT環境の整備を図ろうとする自治体に対して、ICTを活用した教育の推進計画やICT機器整備計画の策定などのあり方について助言を行い、マニュアルの作成などを行う「ICT活用教育アドバイザー」の派遣事業も設け、予算も確保した。学校におけるICT環境整備のさらなる推進に向けてITベンダーの積極的な取り組みも期待されている。
拡大する教育ICT市場 20年には795億円に
シード・プランニング
原 健二
リサーチ&コンサルティング部
エレクトロニクス・ITチーム2Gリーダ
主任研究員
今後、教育現場でのコンピュータや電子黒板、デジタル教科書、教育用ソリューションはどれだけ普及するのだろうか。調査会社シード・プランニングのリサーチ&コンサルティング部 エレクトロニクス・ITチーム、原健二主任研究員は、「文科省は20年に一人1台のタブレット配備よりも、教育とAIに注力しており、教育用タブレットの出荷台数の予測は15年時点より下方修正した」としつつも、「教育ICT市場は右肩上がりで伸びており、20年には795億円になる」という見解を明らかにした。
同社が集計しているのは、教育用タブレット端末、電子黒板、デジタル教科書、教育用ソリューションの4項目。現在普及の進み具合に関心が集まっている教育用タブレット端末は、15年から20年には2.46倍に拡大し、128億円になる見込み。電子黒板はタブレット端末よりもやや鈍化し、2.28倍の105億円になる見通しだ。この二つのICT機器よりも今後成長が見込まれるのが、教育用ソリューションだ。15年には42億円だったが、20年には260億円と、6.19倍も拡大すると予測している。
原主任研究員は、「今後はソリューション、とくにクラウドを利用したものが伸びていく。すでに70~80社が参入しており、今後2~3年でさらに増加するだろう」と話した。さらにその内容では、クラウドを活用して教材を配信するものだけではなく、企業向けに開発したWeb会議システムを利用した、別の学校の教員同士、もしくは児童/生徒同士の情報共有ツール、校内すべての照明を管理する照明制御システムなども登場している。つまり文教専用のソリューションだけではなく、企業向けに開発したソリューションをスライド展開することもあり得るということだ。
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