急成長を続けるハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)。サーバーベンダーだけではなく、ストレージベンダーも注力しているのが、この市場の特徴だ。ストレージの専業ベンダーであるネットアップは、この秋、同社初のHCIを市場に投入する。成長しながら進化を続けるHCI。第2世代のHCIはいよいよクラウドと統合する。(取材・文/山下彰子)
ディストリビュータに聞くHCIの売り方
成長するHCIがやがて
ストレージ市場を脅かす
米国から一足遅れて、日本国内ではHCIの注目度が高まっている。今年はHCI元年と呼ばれ、今後ますます普及していくだろう。ディストリビュータからは、どこまで伸びるか想像もつかない、といわれるほど大きな期待が集まっている。
HCIとは、一般的なx86サーバーにコンピューティング機能とストレージ機能を統合し、シンプルな構成を実現した仮想化基盤(インフラ)だ。従来型のインフラは、サーバーとストレージ、サーバーとストレージを結ぶネットワークの3層構造だ。対して、HCIはサーバーのプラットフォームにストレージの機能を実装した1層構造。このシンプルな構造が、設定のしやすさにつながっている。
左からネットワールドの高田 悟ストラテジック プロダクツ営業部SP1課 課長、
小澤康弘ストラテジック プロダクツ営業部SP2課 課長
HCIで注目すべきは、そのシンプルな構造ではなく、組み込まれたストレージ機能だ。この1、2年でHCIが注目を集めるようになったのは、ソフトウェア・デファインド・ストレージ(SDS)の機能と信頼性が技術的に成熟し、物理ストレージのもつ機能に迫ってきたからだ。いち早く、HCIの販売を開始したネットワールドの高田悟・ストラテジック プロダクツ営業部 SP1課 課長は、「ソフトウェアで複数のシステムを束ねることで、外付けストレージ並みの可用性が実現できるようになった」と話す。サーバーでもあり、ストレージでもあるHCIだが、SDSの機能が向上したことで、ストレージ市場を脅かすのでは、ともいわれている。
実際、ネットワールドも大塚商会も、HCIの普及により、ストレージ市場の競争が激化すると予想している。また、すべてのサーバーがHCIに置き換わるわけではなく、ファイルサーバーのように、大容量のストレージを消費する用途には従来型インフラに一日の長があるという。
理由はバックアップ問題だ。大容量のデータのバックアップを行う際、SDSのバックアップ機能は物理ストレージにいまだ追いついていない。そのため、ファイルサーバーや災害対策といった用途ではまだ従来型インフラに強みがある。
左から大塚商会の仲本泰明技術本部 TCソリューション部門
テクニカルソリューションセンター 仮想・統合ソリューション課 テクニカルスペシャリスト、
野尻英明マーケティング本部 共通基盤ハード・ソフトプロモーション部
PC・サーバ・ストレージプロモーション課 課長
では、HCIの成長は、サーバー市場にまったく影響はないのだろうか。現在、HCIとして採用しているのは汎用サーバーのきょう体だ。それにコンピュータの仮想化ソフト・ハイパーバイザーやSDSを組み込んでいる。例えば、7月にNECはIAサーバー「Express5800」シリーズを発表したが、西村知泰執行役員は「HCIにも適したプラットフォーム」と説明し、HCIに最適化した汎用サーバー開発に力を入れていることがうかがえる。つまり、サーバーベンダーとしては同じきょう体をサーバーとして販売するか、HCIとして販売するかの違いしかなく、ストレージベンダーに比べてダメージは少ない。すると、ストレージベンダーがHCIに対してどのようにアプローチするかが今後の注目ポイントになる。ネットアップのようにHCIを販売する可能性もある。
IoTソリューションと
親和性が高いHCI
HCIの優位性としてよくあげられるのが、見積もり、設定の簡単さだ。すでに構成が決まっているパッケージ製品なので、短時間で見積もりを出すことができ、またソフトウェアがあらかじめキッティングされているので、現場での設定時間を大幅に短縮できる。
ネットワールドの小澤康弘・ストラテジック プロダクツ営業部 SP2課 課長は「従来型インフラは、サーバー、ストレージ、ネットワークの各専門スタッフにそれぞれ見積もりを出してもらうため、お客様からリクエストをもらって見積もりを出すまで、大きめの案件の場合、2週間前後、待たせしてしまった。それがHCIだと半日から2日程度でお渡しできる」と語る。この時間の短縮は顧客にとってもディストリビュータにとっても効率がいい。
また、保守、サポートを一本化できる点も大きなメリットだ。問い合わせ先が統合されることで、導入後の煩わしさが軽減する。
販売する側のメリットとしては、工数の削減や作業の効率化がある。これまでエンジニアや営業は、サーバー、ストレージ、ネットワークそれぞれの知識を蓄える必要があった。HCIはプラットフォームが一つだけなので、教育費、維持費を抑えることができる。設定が簡単になり、時間を短縮できるようになれば、より複数の案件をこなせるようにもなる。
従来型インフラに比べ、「売り物が減る」という意見もあるが、こうした設定効率の向上により一人がこなせる案件数が増え、またサービスやサポートをベンダーではなくディストリビュータが加えることで、売り上げを伸ばすことができる。
顧客側、販売側の両方に優位性のあるHCIだが、すべての顧客、案件にHCIが適しているわけではない。サーバー仮想化では、1台の物理マシン上で複数の仮想マシン(VM)が稼働する。そのため、一つひとつの負荷は少ないが、同時に複数処理するような使い方にHCIは向いている。ネットワールドの小澤課長は「最近はIoTの処理にNoSQLのような分散DBが採用されている。このようなシーンにHCIは向いている。つまり、スケールアウト型のアプリケーションを動かすのであれば、HCIは適している」と説明する。こうした使い方は業種問わず増えているので、大塚商会も「業種、規模を問わず引き合いがある」(野尻英明マーケティング本部 共通基盤ハード・ソフトプロモーション部 PC・サーバ・ストレージプロモーション課 課長)という。
指名率が高いニュータニックス
大塚商会はスターターキットを販売
ネットワールドによると、顧客からの指名が最も多いのが、HCIのパイオニア、ニュータニックスだ。次いでヴイエムウェアのアプライアンス製品であるDell EMCの「Dell EMC VxRail」も人気が高いという。
ネットワールドはまた、ヴイエムウェアにも注力している。国内総代理店を務めた強みがあり、これまでヴイエムウェア製品を販売した顧客を多く抱えるので、非常に提案しやすいという。製品面でも小澤課長は「管理ソフト・VxRail Managerの完成度が高く、ハードウェアもvSAN、vSphereなどを統合管理できる。ユーザーインターフェースがシンプルで日本語対応している点も高評価だ」と話す。
一方、ニュータニックスは2016年10月から取り扱いを開始し、すでに2000ノードを超える販売実績を有する。「ニュータニックスは独自のハイパーバイザーをもっているが、vSphereやマイクロソフトのHyper-Vなどを選択できる点が特徴。また、ハードウェアにとらわれない選択肢をもっている」(小澤課長)と説明する。
大塚商会は、ニュータニックスの提案、販売を進めながらも、間口を広げるため、NECと独自開発した「HCIスターターキット」を今年5月から販売。NECのx86サーバー「Express5800シリーズ」を採用し、ヴイエムウェアとOEM契約を結び、開発した専用の仮想化ソフトをNECの工場であらかじめ組み込んで出荷する。「ホストサーバー2台と管理サーバー1台からの最小構成で提供できるので、小規模の顧客向けに提案できる」(大塚商会の仲本泰明技術本部 TCソリューション部門 テクニカルソリューションセンター 仮想・統合ソリューション課 テクニカルスペシャリスト)点が強みだ。さらに、システムの設計、構築、サポートは大塚商会がワンストップで提供するほか、稼働後も障害監視や通報サービスによって業務システムの保守を支援。障害時はリモート接続で対応し、物理的な障害にはオンサイトでも復旧支援を行うとしている。
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