先駆者が描く次世代のHCI
ハイパーバイザーの重要度が増す
HCIの要は仮想化ソフト
SDSから統合管理ソフトへ
HCIを語るうえで要となるのがソフトウェアだ。HCIには2種類の仮想化ソフトウェアが搭載されている。それがコンピュータを仮想化するハイパーバイザーとストレージを仮想化するSDSだ。これまではVMware vSAN(ブイエムウェア)、HPE SimpliVity(HPE)、HyperFlex HX Data Platform (シスコ)など、SDSに注目が集まり、各社はSDSに磨きをかけた。これがHCIの第1世代の進化といえる。それではこの先、どこが進化を遂げるのか。
ニュータニックス・ジャパン
露峰光
Systems Engineering Director
ニュータニックス・ジャパンの露峰光Systems Engineering Directorは、「これまでハードウェアからハイパーバイザーまで一つの管理ツールで運用管理ができるようにしてきた。HCIの先駆者としてその先を見据えたとき、次世代のHCIとしてハイブリッドクラウド環境での運用管理の統一を、ビジョンとしてもっている」と話した。
今、クラウドへシフトする企業が増えているが、それでもすべてのアプリケーションがクラウドに移行するわけではない、という。すると、オンプレミスとクラウドのミックス構成、つまりハイブリッドクラウド構成が拡大していくと、オンプレミスもクラウドも管理できるツールが必要になる。
露峰氏は、「ハイブリッド環境では、クラウド、HCI、オンプレミスなど意識しないIT環境、アプリケーションをどこにリプライしてもどこでも動かせ、データを移動できる環境が必要だ。また、サーバー関連費用のなかで、運用管理コストが占める割合が多い。オンプレミス、クラウドにそれぞれ管理ツールを用意してはコストがかかる」と話し、ハイブリッド環境に適した管理ツールに注力していく、と話した。
同様の視点をもっているのが、ヴイエムウェアだ。ヴイエムウェアが目指している思想の一つに「ANY CLOUD」がある。プライベート、パブリック、ハイブリッドの違いを問わず、あらゆるクラウドに対応していく、というものだ。
ヴイエムウェア
高橋洋介
マーケティング本部
チーフストラテジスト プロダクト&
ソリューション-SDDC/Cloud
ヴイエムウェアの高橋洋介・マーケティング本部チーフストラテジスト プロダクト&ソリューション-SDDC/Cloudは「インフラ管理者にとってインフラの環境がオンプレミスかクラウドにあるかなど意識したくないところ。一元的に管理する機能を提供していきたい」と語る。
オンプレミスからクラウドへのシフトは進んでいるが、すべてがクラウドに切り替わるわけではない。それぞれ得手不得手がある。例えば、スマートフォンのアプリケーションを提供する場合、どれだけの利用者が集まるかわからないので増設しやすいクラウドでスタートし、安定して規模感がわかったらクラウドとオンプレミスとのコストを比較し、より安い方に移行する。そんな使い方が増えていくだろう。その際、オンプレミス、クラウドともに管理ができる統合型の管理ツールが次世代を担うカギとなるはずだ。
ストレージベンダーがHCI市場に参入
ストレージ専業ベンダーのネットアップが、HCI「NetApp HCI」をこの秋に市場に投入すると発表した。
中山泰宏
コーポレート営業本部
専務執行役員 本部長
同社が昨年2月に買収したオールフラッシュのスケールアウトストレージ「SolidFire」がベースで、ハイパーバイザーにはVMware vSphere ESXを採用した。もともと単体でスケールアウトストレージとして機能していたSolidFireをベースにしたため、オールフラッシュ最適化、重複排除、圧縮、自己回復機能、QoSといったSolidFireゆずりの高性能なストレージ機能を備えている。
また、コンピュートノードとストレージノードが独立しており、それぞれに依存することなく増減ができる。
「HCI、マルチクラウドハイブリッドクラウドでの相互連携などをすすめ、データの可搬性やバックアップを強化していきたい」と中山本部長は語る。
ハイブリットクラウド連携も視野に入れており、パブリッククラウド側で蓄積するデータと、HCIで利用するプライベートクラウドで蓄積するデータをネットアップの各種ソフトを併用することで簡単にデータ連携ができるという。受注開始は10月下旬の予定だ。
ソフトウェア重視のHCI
ハードベンダーはどう取り組むか
HPはデータ保護を重要視
ストレージ機能を前面に
ハイパーバイザーやSDSなど、ソフトウェアが重要となるHCI。今、ニュータニックスやヴイエムウェアといったソフトウェアベンダーが市場を握る。サーバーベンダーなどのハードウェアベンダーはどう取り組むのか。
ヒューレット・パッカードは、HCIベンダーのSimpliVityを今年4月に買収し、ソフトウェアを取り込んだ。SimpliVityは日本ではあまり馴じみがないが、ガートナーマジックックアドラントでは、ニュータニックスらと並び「リーダー」ポジションに入っている。
日本ヒューレット・パッカード
竹中俊雄
ソフトウェアデファインド
データセンターグループ
戦略製品推進チーム 担当部長
今年6月に発売したHCI「SimpliVity 380」の特徴は、ストレージ高速化装置やバックアップ装置、BCP/DRソフトウェアなど、豊富なストレージ機能が標準で搭載されている点だ。ここまでストレージ機能を重視する理由について、日本ヒューレット・パッカード(日本HPE)の竹中俊雄・ソフトウェアデファインド データセンターグループ戦略製品推進チーム 担当部長は、「人為的なミスでデータを消してしまったり、防災によりデータが壊れたり、こうした対策を取ることは今やあたりまえになっている。これからは外部の攻撃、マルウェアやランサムウェアからデータを守らなければいけない」と外的脅威が増えていることを指摘する。そのうえで、「HCIをさらに成長させようとしたときに取り組むべき課題がバックアップだ」とした。
これを実現するのがSimpliVityの「瞬間的にバックアップができ、またリストアできる」(竹中担当部長)点だ。ハードウェアアクセラレーターカードを搭載することで、稼働中のアプリケーションパフォーマンスに影響を与えることなく、リアルタイムでデータ処理を実行できる。
サーバーの性能を高めることで
差異化を図るDell EMC
EMCジャパン
三邉祥一
コンバージドプラットフォーム&
ソリューション事業本部
vArchitect シニアマネージャー
HCIの2大ベンダーの一つであるヴイエムウェアをグループにもつDell EMC。ともに開発したアプライアンス製品が強みだ。EMCジャパンの三邉祥一・コンバージドプラットフォーム&ソリューション事業本部 vArchitect シニアマネージャーは、「新しい世代のサーバーは、HCIのインフラとして使う上でより使い勝手がいいように開発していく」と話した。こうしてこの夏リリースしたのが第14世代「PowerEdge」だ。
最新のインテル Xeonを搭載し、あらゆるワークロードに合わせて最適化できる動的なサーバーポートフォリオを実現。NVDIMM対応やNVMeの集積率アップなど、メモリのスケーラビリティが飛躍的に向上した。また、25GbE対応により、仮想マシンのマイグレーションも高速にできる。こうしてハードウェアの性能を上げることで、他社との差異化を進める。
豊富なラインアップも同社の強みだ。ヴイエムウェアの製品群として、アプライアンス製品「VxRail」「XC series」、ラックスケールに対応する「VxRack SDDC」「VxRack FLEX」のほか、SDSとして、VMWare vSAN、ニュータニックス、ScaleIOを用意。顧客の要望に合わせて提案できる体制をとる。
このほか、販売パートナー向けの戦略として、定期的にHCI製品のトレーニングを実施する「DELL EMC エデュケーション・サービス」を用意している。
信頼性、サポートに自信
小規模からカバーするラインアップ
純粋なハードウェアベンダーとしてHCI市場に参入したのがレノボだ。2015年11月にニュータニックスと提携を結び、16年1月にニュータニックスのソフトウェアを搭載した第一弾のHCI「HX3500/HX5500/HX7500」を市場に投入した。顧客が要望する規模に適したHCIを提供できるよう、最小構成1Uのリモートオフィス向け「HX1000」から大規模ハイパフォーマンスモデル「HX7000」まで、五つのシリーズを用意した。発売から約1年半の間に約300台の販売実績をもつ。
左からレノボ・エンタープライズ・ソリューションズの
星 雅貴アライアンス&マーケティング本部 ビジネス開発部 部長、
光本恵介エンタープライズ・アカウント営業本部 第三営業部 SDIセールスリーダー
レノボの強みとなるのは、レノボが引きついだNECPCやIBMの資産を活用した信頼性とサポート体制だ。例えば、サーバーのキッティングはNECPC米沢ファクトリーサービスで行っている。保守面では全国に72か所あるIBMの保守拠点を利用できる。レノボ・エンタープライズ・ソリューションズの星雅貴・アライアンス&マーケティング本部 ビジネス開発部 部長は、「ニュータニックスのアプライアンス製品は3社のハードベンダーから出ている。そのなかで、保守網が充実している点が差異化ポイントになる」と話す。
また、メンテナンスのしやすさも特徴だという。星部長は、「ニュータニックスの概念として、例えば3ノードのうち一つが止まっても、全体のシステムは動き続けるので、海外の顧客はあまり気にせず使い続ける。ところが、日本の顧客は故障に対して敏感で、すぐ直してほしいという要望が強い」と話す。その際のメンテナンスや修理を効率よく行えるよう、故障した箇所をLEDで表示して知らせる「Light Path」を搭載。複数のCPU、メモリ、ファンのなかから故障診断箇所を表示する他、コイン電池や診断プロセッサIMM2.1自身の障害検知までをLEDで表示する。「技術スタッフが交換する際、誤った操作や交換の発生を未然に防ぐだけではなく、問題個所の特定を早めることができる。付加的な機能だが重要な機能だ」と星部長は説明する。