遼寧省
対日アウトソーシングの聖地 ビジネスモデルの転換急ぐ
対日業務を手がける企業が豊富なDLSP
遼寧省の大連といえば、対日アウトソーシングの聖地として名高い。沿岸部の主要都市と比べて人件費が安く、日本語を操る人材が豊富な優位性を背景に、2000年代からアウトソーシング拠点を設立する企業が相次いだ。とくに大連ソフトウェアパーク(DLSP)は、入居企業約300社のうち8割が対日事業を手がける集積地となっている。
ただし、市場環境は厳しい。人件費高騰や為替変動を背景に、内陸地域やベトナムなどのアジアにアウトソーシング先を移す企業が増えている。実際、DLSPではここ数年、日系IT企業の新規進出が目にみえて減少。担当者は、「年に1件あるかないかという程度」と漏らす。大連最大の年次ITイベント「中国国際ソフトウェア&情報サービス交易会(CISIS)」でも、近年は閑散ぶりが目立つ。展示会場では、人員を配置せず資料だけおいて放置状態の企業ブースも少なくない。
対日アウトソーシング自体がなくなることはないが、既存のビジネスモデルでは先行きが不透明。そこで、大連では新たな付加価値をつけて成長を図ろうとする動きが顕著だ。東軟集団(Neusoft)、大連華信計算機技術(DHC)、文思海輝技術(Pactera)など、大連に大規模拠点をもつIT企業は、コンサルティングを含む上流工程の開発や、国内向けのITサービスビジネスを拡大。単純なアウトソーシング事業から脱却し、新技術の開発やソリューションの提供、新たな日中連携のモデル構築に力を注いでいる。
例えば、DHCは今年3月にNECとSDN事業で手を組んだ。SDN事業で手を組んだ。「DHC-NEC SDN連合イノベーションセンター」を新設し、両社で中国市場向けにSDN製品を拡販するという。
河北省
千年の大計 大化けの可能性あり
雄安新区は習指導部肝いりの国家プロジェクト
今年4月、中国全土に激震が走った。中国共産党と国務院が、河北省に新たな国家級新区を設立すると発表したからだ。その名も「雄安新区」。新華社通信は「習近平同志を『核心』とする党中央が打ち出した重大な歴史的・戦略的な選択で、深セン経済特区と上海浦東新区に続く全国的意義をもつ新区であり、千年の大計、国家の大事だ」と強調した。新区は北京から南西へ100km、天津から西へ100kmに位置する河北省の雄県・容城県・安新県とその周辺地域に設立。北京に集中する都市機能や環境問題の緩和に向けた「京津冀一体化」構想の一環として発展させる。大学、金融機関、国有企業などの「非首都機能」を移転する方針を掲げている。
正直、河北省の3県といわれても、外国人にとってはピンとこない無名の地。そんな地域を、深センや上海と同等の新区に築き上げることはなかなか想像できない。国内外でさまざまな観測が飛び交うが、調査会社IDC中国によれば、深セン経済特区と上海浦東新区をモデルケースとした場合、今後10年間の雄安新区への投資総額は5兆元で、27年の人口は16年比2倍弱の200万人、GDPは同約20倍の4000億元強になるという。
実際にどこまで発展するかは未知数だが、IT業界にとって新たな商機となることは間違いない。雄安新区は次世代スマートシティの実験場となるからだ。中国メディアによれば、今年9月時点で雄安新区に48社が登記し営業許可を取得したが、このなかには百度、アリババ、テンセント、京東などのインターネット大手も名を連ねる。11月8日には、アリババが雄安新区と正式に提携。ビッグデータやAIを活用したスマートシティ「数字雄安」の建設を進めることで合意した。
河北省のIT産業規模は全体の0.5%に満たないが、10年先には大化けしている可能性がある。IDC中国では、今後10年間の雄安新区におけるICT総支出は1000億元を超えると予測している。
江蘇省
スマート製造の取り組み盛ん 外資ベンダーもIoTで商機つかむ
常熟の製造イノベーションセンター
中国第二位のGDPを誇る江蘇省は、その約半分を第二次産業が占める国内屈指の製造エリア。そこで近年、同省の各都市でスマート製造の取り組みが盛んだ。中国では、「中国製造2025(中国製造業10か年計画)」で次世代情報技術が重要項目に指定されており、とくにIoTへの注目度は高い。例えば無錫市は、「世界大会」と謳ったIoT関連イベントを開催し、国内外へアピールしている。
無錫は09年、国務院の批准を受けて全国初の「国家センサネットワーク創新示范区」となった。以来、IoT産業のモデル都市として発展を進め、現在は約2000社の関連企業が進出。15万人の雇用を生み出しているという。市内の新吴区では新たに面積3.6k㎡のIoT集積エリア「無錫鴻山IoT小鎮」を建設中で、アリババやファーウェイ、中軟国際、シーメンス、中国移動通信などが、研究開発拠点を設けることを明らかにしている。
「中国製造2025」では、製造業に対して補助金などの優遇策を設けているが、中国工業和信息化部(工信部)の苗圩部長は、「関連政策の措置を中国国内のすべての企業に適応し、外資企業も平等にみる」と説明しており、日系を含む外資企業にも商機が広がっている。これを受けて、江蘇省を中心に、関連需要を獲得しようとするITベンダーの動きもみられる。例えば、上海凱迪迪愛通信技術(KDDI上海)は、「常熟グリーン智能製造技術イノベーションセンター」を運営する政府系の菱創智能科技(常熟)と協業。常熟市をはじめとする江蘇省全域の製造業に対して、IoTソリューションの提案を開始した。「中国製造2025」では、工場スマート化のモデル構築を推進する「製造業イノベーションセンター」の建設を5大重要プロジェクトの一つに指定しており、常熟のセンターはその一環となる。KDDI上海は、従来より効率的に顧客を獲得できる可能性がある。
貴州省
全国初のビッグデータ試験区 脱貧困のモデル地域目指す
急速に都市化が進む貴陽
中国西南部の貴州省は、中国のなかでも貧しい省のイメージが強い。実際、月額最低賃金は、4年前まで全国最下位だった。しかし、近年はビッグデータ産業の振興によって、国内外のIT企業が高い関心を寄せる地域へと変貌を遂げている。
同省がビッグデータ産業に力を注ぎ始めた背景には、先天的な地理優位性がある。貴州は年間を通して気温差が少なく、気候に恵まれているほか、資源が豊富で電気価格も安い。地盤も安定し、自然災害のリスクが小さい。つまり、データセンター(DC)の設置に適した環境なのだ。そこで、省政府はビッグデータを最重要産業に位置づけ、データ保管・収集・応用の先進地を目指し産業振興。中国の省政府で初となる政務サービスプラットフォーム「雲上貴州」を構築したほか、データ売買の仲介を行うビッグデータ取引所も全国に先駆け営業を開始した。省政府は、20年までのビッグデータ関連産業規模を5000億元に引き上げる目標を掲げている。
中国国務院は、15年9月に「ビッグデータ発展促進行動要綱」を公表し、全国レベルでビッグデータ活用を進める方針を示したが、貴州は正式に中国初の「国家ビッグデータ総合試験区」にも認定されている。14年に新設した国家級新区の「貴安新区」では、すでに3大通信キャリアやアリババ、ファーウェイ、浪潮集団などが大規模DCを建設している。政府からの優遇策や補助金も手厚いため、外資系のIT大手も続々と進出。マイクロソフトやクアルコムは大型投資を進めている。米アップルは10億米ドルを投じ、このほど貴州に中国初のDCを設立した。
今後も、貴州省のビッグデータ産業は急速に発展する可能性が高い。中国が貴州を「脱貧困」のモデル地域に位置づけているからだ。10月に開催された共産党大会の政治報告で、習近平国家主席は「20年までに、わが国の現行基準での農村貧困人口の貧困脱却を実現する」と意気込んだが、各省市が開催した討論会のなかで、唯一出席したのは貴州省代表団の討論会だった。貴州の重要度を明確に示したことになる。
NTTデータ
貴陽にビッグデータ先進技術研究院 市政府、ISCASと共同で
ビッグデータ産業の振興に力を注ぐ貴州省。外資IT大手の進出が増える一方で、日系ITベンダーは様子見の姿勢を示している企業が多い。そんななか、NTTデータは今年9月、貴陽市政府および中国科学院ソフトウェア研究所(ISCAS)と共同で「貴陽科恩ビッグデータ先進技術研究院」を設立した。ビッグデータやIoTを活用した技術・ソリューションの研究開発を進めていく。
貴陽市は貴州省の省都で、ISCASは最新のコンピュータ科学、ソフトウェアを研究する中国国務院直属の研究所だ。NTTデータは14年にISCASとの共同研究を開始し、16年には貴陽市政府および交通管理局の協力を得て、同市で2度の渋滞緩和の実証実験を行った。過去の実績を受けて、貴陽市から声がかかり、今回の研究院の設立に至った。
まずは20人程度の構成人数で活動を開始し、3者共同で年間1000万元の研究予算を捻出。貴陽市がもつビッグデータの収集・利用環境をもとに、ISCASのハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)技術やソフトウェア技術、NTTデータ技術開発本部のITS(高度道路交通システム)関連のシミュレーション技術やIoT技術を組み合わせる。
第一弾では、「次世代スマート交通」「環境系IoT」の二つを中心テーマに設定した。次世代スマート交通では、ディープラーニングなどのAI技術を活用した高度な複合ビッグデータ解析によって、交通状況のリアルタイム可視化、信号制御の最適化による渋滞発生の抑止などの実現を目指す。環境系IoTでは、低消費エネルギーのセンサを活用した大気環境や水資源のリアルタイム計測・予測などを推進する。
技術開発本部エボリューショナルITセンタの津田博史部長(右)と
中国・APAC事業推進部企画部の湯浅宏介部長
とくに次世代スマート交通は、NTTデータにとってメリットが大きい取り組みだ。技術開発本部エボリューショナルITセンタの津田博史部長は、「日本や他の海外を含め、交通管制の中枢に触れる許可を得ることは簡単ではない。今回、市政府から実環境の提供を受けたことは、技術開発の面でも、ソリューション化の面でも意義が大きい」と説明。同社は、欧州などでもITSの取り組みを推進しているが、「貴陽ではもっとも先端的な研究開発を行える」(同)という。
研究院では、20年までに中国・APAC地域に向けたソリューションを開発する計画。実用化後は、貴陽市での導入を推進するとともに、他地域への横展開を目指す。津田部長は、「中国のローカルマーケットでプレゼンスを高めるためのトリガーにしたい」と意欲をみせる。
また、中国国内でのビジネス展開に向けて、現地のグループ会社と連携し、AIやIoTなどの先進技術を扱う人材の育成にも力を注ぐ。中国・APAC事業推進部企画部の湯浅宏介部長は、「20年に向けて先進技術人材を中国で100人超の規模にしたい」と構想を示した。