市場環境が目まぐるしく変化する中国。この1年間、現地の日系ITベンダーのビジネスはどう進捗したのか。BCN上海支局は、中国の主要な日系ITベンダーを対象に、2017年通期(1月~12月)のビジネス動向に関するアンケート調査を実施した。この結果、前年から売上高・利益が伸びた企業が全体の約7割に達したことがわかった。近年陰りをみせていた日系ユーザー企業のIT投資が復調してきたことが、業績に好影響をもたらしている。独自調査と取材で得た情報をもとに、日系ITベンダーの現在地と今後の展望を考察する。(上海支局 真鍋武、齋藤秀平)
今回、BCN上海支局(商業計算機新聞社上海支局)では、上海と北京を中心に、中国本土で事業活動している日系ITベンダー45社(総合ICTベンダー、SIer、ISV)を対象として調査を行った。各社は総じてSI・ITサービスやプロダクト販売などの中国国内向けビジネスを手がけており、このうちの24社については、日本向けオフショア開発ビジネスも展開している。なお、BCN上海支局が通期のビジネス動向を調査したのは、今回で3回目となる。
売上高・利益
約7割が売上高・利益を拡大
まず、日系ITベンダーの業績はどう推移したのか。本調査の結果、2017年の売上高が前年比で増加した日系ITベンダーは、全体の7割弱だったことがわかった。「中国国内の案件によって売上高が拡大した」「ソリューション・サービスなどの販売がおおむね堅調だった」などの要因があげられた。
中国の日系ITベンダーは、本社と比べて事業規模が小さく、設立から多くの年月を経ていない企業が多いため、売上高の目標値に2ケタ成長を設定していることが多い。今回の調査でこの基準を達成したのは、全体の35.5%だった。一方、マイナス成長した企業は26.7%。要因はさまざまだが、「不採算事業からの撤退」、「事業構造の改革」など、事業の見直しを図った企業が多かった。
工業情報化部(工信部)によると、中国ソフトウェア・情報技術サービス産業の17年全体規模は前年比13.9%増の5兆374億元だった。これと単純比較した場合、日系ITベンダーの成長率は高い水準とはいえない。この状況は以前から変わっていない。
利益について、17年は大きく伸びた。経常利益が前年比で増加した日系ITベンダーは全体の7割を超えた。「30%以上の増加」と大幅に成長した企業も全体の24.4%を占める。粗利率の改善や生産性の向上に力を注いだことで利益を伸ばした企業が多い。売上高がマイナス成長した企業でも、半数が経常利益を増加させた。中国の人件費や不動産賃料の高騰を受けて、日系ITベンダーのコスト意識が高まっているようだ。
ISID上海
自社プロダクトの実績が拡大
上海電通信息服務
中川雅昭
総経理
上海電通信息服務(ISID上海)の自社プロダクト販売が好調だ。リース・ファイナンス業向けの基幹システム「Lamp」(Leasing & Finance Advanced Management Porta)では、中国に加えて、ASEAN地域の日系リース会社に販売先を広げている。今年1月時点で、導入実績は7か国・24社となった。中川雅昭総経理は、「ASEAN地域の経済が成長するなかで、日系のリース会社の進出が増えていて、ニーズが拡大してきた」と手ごたえを感じている。
Lampは、顧客管理・契約管理・債権回収管理・支払い管理などの機能を備え、ファイナンス業務に関するオペレーションを効率的に運用できる基幹業務システムで、ISID上海が現地開発した“中国発”のプロダクトだ。18年には、さらにグローバル展開を加速し、日本市場への展開も検討していく。中川総経理は、「すでに市場調査を開始しており、年内には実際に日本で何社かのお客様を獲得できると期待している」と意欲を示す。
一方、中国のローカル企業に対しては、地域金融機関向けソリューション「BANK・R」を販売。地方金融機関を対象として提案しており、「5年間ほどチャレンジしてきたこともあって、少しずつ芽が出てきた」と中川総経理。最近では、外資系のコンサルティングファームと手を組み、コンサルティングとITを組み合わせて提案することで、付加価値の高いサービスとして提供する取り組みも進めている。
中川総経理は今後について、「利益率を上げたい。Lampなどの自社パッケージをうまく販売して、筋肉質な会社を目指していく」との方針を掲げている。
日系IT投資
息を吹き返す
17年は、多くのITベンダーが現地の日系ユーザー企業向けビジネスに力を注いだ。昨年に獲得した新規顧客に占める日系企業の割合では、「70%以上」と回答したベンダーが全体の57.8%ともっとも多く、前回調査から6.6ポイント増えた。一方、新規顧客の過半数を非日系企業で占めているベンダーは全体の24.5%で、前回調査と同等の水準。大部分のベンダーは、日系マーケットに集中しており、非日系の開拓を日系より重視しているのは一部にとどまるという状況は変わっていない。
新規顧客に占める日系企業の割合が大きくなった背景にあるのは、IT投資の復調だ。近年、日系企業は投資に消極的で、ベンダーにとっての大きな懸念材料となっていたが、17年は特定の業界や企業で投資が活発化。とくに、中国国内で製品・サービスを提供している日系ユーザー企業では、顕著に投資が増えているようだ。
これを受けて、日系企業のIT投資傾向に関する質問では、「増加傾向」の回答が33.3%、「減少傾向」が4.4%となり、前回調査から逆転した。ただし、ひと口に日系企業といっても、業種業態によって濃淡があるため、全体では「横ばいの傾向」との回答がもっとも多い。
「ユーザー企業から多く寄せられたニーズ」については、IoTなどの製造業向けソリューションの回答がもっとも多くを占めた。中国では、製造業の高度化を目指す「中国製造2025」などの政策が推し進められており、次世代ITを導入しようとする機運が高まっている。
また、AIやRPA、セキュリティ対策などのニーズも大きい。とくに17年は「中国サイバーセキュリティ法」が施行されたことを受けて、日系ユーザー企業の間でも対策に向けた検討の動きが出始めている。同法は広義な解釈が可能で、現時点では詳細が固まっていない内容もあることから賛否両論があるが、日系ITベンダーにとってはビジネスチャンスだ。実際、アンケート調査では、全体の37.8%が「自社のビジネスへの好影響を想定している」と回答した。
B-EN-G上海
設立以来の仕事あふれ
畢恩吉商務信息系統工程
孫強
総経理
製造業を中心に事業展開している日系ITベンダーは多く、顔色は明るい。畢恩吉商務信息系統工程(上海)(B-EN-G上海)の孫強総経理は、「2010年に現地法人を設立して以来、初めて仕事があふれている状況」とうれしい悲鳴をあげている。
同社の主力商材は、生産管理システム「MCFrame」。日系製造業の投資意欲の活発化を受けて、販売は好調だ。孫総経理は、「生産管理のシステムは、大企業ではほぼ導入済みだと思われていたが、実際はそうでもない」と現状を指摘。「まだExcelや部分的なソフトウェアパッケージに依存していて、全体を管理するシステムがなかったり、生産現場の部門間で情報連携ができていなかったりという声も聞く」と話し、今後も商機は大きいとみる。
MCFrameを採用した企業では、製造実行システム(MES)のニーズも増えているという。そこでB-EN-G上海では、パートナーと連携して、新たにMES関連のソリューションの導入拡大にも力を入れる方針だ。
さらに、この3月には新たに「I-IoT」(インダストリアルインターネット)の事業部も新設した。IoTを活用した製造現場の設備管理ソリューション「MCFrame SIGNAL CHAIN」の販売を強化するほか、周辺モジュールの開発にも着手。18年内には、生産設備の予防保全に関するAIソリューションを完成させる計画だ。
「ずっと製造業向けのシステムを手がけてきたが、ようやく新しい展開に向かう時がきた。18年は、きちんと組織の体質を強化する」と孫総経理。協力会社を含めて、人員は現在の約30人から約45人に増員する。
[次のページ]ターゲット層 意識に変化