ターゲット層
意識に変化
IT投資の傾向を受けて、日系企業マーケットの今後に関するITベンダーの認識も変容した。「開拓余地は小さく、ITベンダー間の競争は激しい」との回答が全体の42.2%を占め、最も多かったが、細かくみると、「開拓余地が小さい」の回答の合計よりも、「開拓余地が大きい」の合計が多く、前回調査と逆転するかたちとなった。
ただし、「ITベンダー間の競争が激しい」の回答の合計は、全体の8割を占めている。非日系マーケットと比べてビジネスをやりやすく、IT投資も復調の兆しがみられる日系企業マーケットだが、今後も熾烈な競争を強いられることは間違いなさそうだ。また、「現在の状況は特需」との声もあがっている。中長期的にみれば、日系企業の数が大幅に増える可能性は低く、日系ITベンダーには、活性化するIT投資が落ち着いた後も持続的な成長を図るための戦略が求められる。
一方、多くのベンダーが将来的な目標に掲げる非日系企業の開拓の進捗については、「現状を維持した」の回答が最多で約3割を占めた。17年は、日系マーケットが盛り上がったこともあり、ベンダーの優先度もそちらに傾いた。「日系企業で手一杯だった」との声もあがっている。
ただし、決して非日系ビジネスに進捗がみられないわけではない。実は、多くの日系ITベンダーが17年の非日系ビジネスに手ごたえを感じており、全体の31.1%が「一定の成果を収めた」、13.3%が「大きな成果を収めた」と回答した。中国独自の商慣習や文化、法規制、パートナー開拓など、幾多もの壁がある非日系ビジネスだが、少しずつ実績をあげ、着実に前進しているのだ。「大きな成果を収めた」と回答した企業のなかには、「業界特化型のビジネスモデルを構築することができた」との声もある。
サイボウズ中国
ローカル開拓に向け体制強化
才望子信息技術(上海)
増田導彦
副総経理/COO
中国の日系ISVのなかでも、有数の実績をあげている才望子信息技術(上海)(サイボウズ中国)。グループウェア「Garoon on Cybozu.cn」と業務アプリ構築の「kintone」をクラウド型のサービスとして提供しており、ユーザー数は日系企業を中心に約880社に拡大した。当面の目標に掲げていたユーザー1000社越えは、18年内にも達成する勢いだ。これを受けて、同社は次段階として、kintoneのローカル企業向け販売の本格化を検討。そのための営業体制の強化を進めている。
日系ITベンダーでは、一般的に日系向けとローカル企業向けで営業組織を分けることが多いが、増田導彦副総経理/COOは、「一つの営業部のなかで、強いチームをつくっていく」との方針を示す。これは、中国の日系企業で培ってきた実績やノウハウをうまく横展開していくため。日系向けで成果を収めた人材の一部を、ローカル企業の開拓に挑戦させていく。
ローカル企業の開拓にあたっては、人脈をもつ優秀な人材を好待遇で引き入れるケースが多いが、サイボウズ中国では、これもやらない。手離れよく拡販しようとしても、簡単に成果はあげられないと考えているからだ。とくにkintoneは、多様な活用法が可能なため、営業担当も提案の幅が広く、それゆえに教育に時間がかかる。体制強化にあたっては、10人程度を新たに採用する予定だが、まずは日系向けで実績を積ませてからローカル向けにシフトさせる。そのため、あえて日本語能力は必須条件とした。
18年は準備期間。まずは月に数社と着実に実績を積みあげ、サイボウズ中国なりのローカル企業での勝ちパターンを地道に探る。その後、一定の成果を得た段階で本格開拓に舵を切る方針。2~3年後には、ローカル企業のユーザーの割合を大幅に増やすフェーズに移していく。
オフショア
根強いニーズ変わらず
日系ユーザー企業の積極投資を受けて活性化している中国国内ビジネス。一方で、ITベンダーのもう一つの屋台骨である日本向けオフショア開発はどう進捗したのか。調査の結果、17年通期の受注量(開発量)が増加した企業は、62.5%に達したことがわかった。10%以上拡大したベンダーも32.5%と、昨年調査から14.7ポイント増加。人件費高騰を受けて、市場環境は年々厳しくなっているものの、日本国内のIT技術者の不足が慢性化していることなどから、安定した品質でリソースを確保できる中国の魅力は健在のようだ。
ただし、開発量が減少したベンダーも37.5%と一定数を占める。東南アジアへの移行を進めるなど、中国のオフショア開発の位置づけを見直す企業が多いのも事実。すでに中国からは撤退済みの企業も相当数あり、本アンケート調査の対象のなかでも、オフショア事業を展開している企業の数は回を追うごとに減っている。
また、17年のコスト上昇率に関しては、「前年とほぼ同じ」が41.7%と最多だった。次いで「5%程度の上昇」が33.3%、「10%程度の上昇」が16.7%。17年は大幅な為替レートの変動が起きなかったため、想定以上のコスト負担増を強いられることはなかった。
18年の日本向けオフショア事業については、「拡大していく」が45.8%と最多。「縮小していく」の25.0%を大幅に上回った。開発リソースの量やこれまでに蓄積してきた技術力などの観点から、他地域では中国を代替できないという状況に変わりはない。拡大していくと回答したベンダーのなかには、「中国人エンジニアの生産性が高く、今後はAIの研究開発センターとしても期待している」との声もあった。
NRI北京
オフショア開発の新形態創出
野村総研(北京)系統集成
郡山幸治
総経理
日本向けのオフショア開発が売上高の半分程度を占めている野村総研(北京)系統集成(NRI)。郡山幸治総経理は、「確かに環境は変わった」と市況の厳しさを認めつつも、「お客様との長いおつき合いの歴史があり、相当なノウハウを蓄積している」と自信をみせ、今後も継続していく方針を示す。
最近では、本社や日本の開発パートナーが日本国内で行っていたものを、NRI北京がトータルで請け負うケースが増えているという。オフショア会社では、プログラミングやコーディングといった下流工程だけでなく、単価の高い要件定義や概要設計といった上流工程を扱うことで、利益を確保しようとする動きが顕著だが、NRI北京はこれをさらに発展させたかたちだ。「お客様の対応だけを日本側で担当して、まとまったシステムの開発や保守は中国側がまるごと担う」と郡山総経理。「狙いは、品質を維持したまま、コストダウンを図ること。このニーズは今後も見込める」と期待している。
また、新たなオフショア開発のビジネスモデルも模索している。従来のウォーターフォール型の開発だけでなく、顧客の要望に応じて1~2か月程度で開発し、まずは試してみて、それから改善していくというアジャイル型式の取り組みを推進。郡山総経理は、「中国の地
場企業では、こうしたシステム開発のやり方があたりまえで、これは日本向けオフショア開発をやってきた企業にはない特徴。そこで地場のパートナーを発掘して手を組み、一緒に進めている」と話している。
記者の眼
今回のアンケート調査では質問に盛り込まなかったが、この1年間の取材を通して、はっきりと感じたことがある。それは、中国ビジネスの位置づけそのものを見直そうとするITベンダーが増えていることだ。ある総経理は、「将来的に中国で存在感のある企業になることだけが本当にゴールなのか」と話す。日系ITベンダーの多くは、将来はローカル企業の開拓で大きな成果を収めることを目標に掲げている。しかし、実際に成功している例はほとんどない。この状況は、記者が中国に赴任した2014年3月から変わっていない。
一方で、市場環境は大きく変わった。地場のITベンダーが急速な成長を遂げ、競争力のある製品やサービスが増加。日系がローカル市場に入り込むことは、以前に増して難しくなった。環境や立ち位置が変わっているのに、目指すところは一辺倒。このままでは先がみえない。そこで、位置づけを見直す動きが出ているわけだ。
例えば、自社の製品やサービスを中国市場で拡販するのではなく、モバイル決済や自転車シェアリング、無人小売店など、中国の先進的な技術やサービス、ビジネスモデルを日本に持ち込もうとするITベンダーがこの1年間で増えた。中国のいまを肌で感じ、自社のビジネスに取り込もうと、視察を強化する企業や団体も少なくない。18年は、ITベンダーにとって、中国ビジネスが新たな役割をもつ年となるかもしれない。(道)