セキュリティと業務効率がPOSレジの二大要件に
高セキュリティなPOSレジの形態が見え始めた
クレジットカード情報を元にした顧客の識別を行わざるを得ない大手チェーンストアでは、「カード情報非保持化」という原則の例外として規定されている、「PCI DSS対応」という道を選ぶことになる。
PCI DSSはクレジットカード情報保護のための国際的なセキュリティ基準で、ITシステムの安全性だけでなく、データへの物理的なアクセスや、セキュリティポリシーの運用体制なども規定しており、カード会社や決済代行業者はこの基準に準拠することが求められていた。
スーパーやコンビニエンスストアの店頭で、物理セキュリティも含めた金融機関並みのセキュリティを実現するのは現実的ではないが、カード決済端末と、カード情報の復号を行うセンターの2地点間を、エンドツーエンドで暗号化する「P2PE(Point-to-Point Encryption)」が規定されたことで、各店舗はこれに認定されたソリューションを利用すれば、セキュリティ基準を満たすことができるようになった。
昨年10月より全国のセブン-イレブン店舗で導入が始まった「第7次POSレジスター」は、カードリーダー部分がこのセキュリティ要件を満たすものとなっている。現在はまだ正式な認定を得ていない状態だが、それを見据えたPOSレジの配備は、国内のクレジットカード加盟店としては初の事例だという。レジ本体は東芝テック、決済端末部分はパナソニックが提供した。
また、カード情報にひもづく顧客の識別に関しては、カード番号を「トークン」と呼ばれる別の番号に置き換える手法の「トークナイゼーション」が主流になりそうだ。
セブン-イレブン「第7次POSレジスター」
決済端末で読み取られたカード番号は、トークナイゼーションサーバーでトークンに置き換えられたうえで、加盟店の顧客管理システムに格納される。トークンは元のカード番号と1対1で対応する番号なので、顧客の識別に利用できるが、トークンだけをみてカード番号を復元することは困難なため、万が一トークンが漏えいしてもカードが不正利用されることはない。
トークナイゼーションサーバーや、元のカード番号が出入りするシステムについてはPCI DSS認定をうける必要があるが、顧客管理システムにあるのは、それ自体は価値を持たないトークンであるため、特別なセキュリティ基準を満たす必要はない。「暗号化」とは異なり、トークン化においてデータの形式や桁数は変わらないので、現在運用している会員向けポイントシステムなどの改修を最小限に抑えられる。
今年6月、厳密には「違法な状態」の店舗が国内に多数発生してしまったわけだが、上記のような、改正法対応の「ベストプラクティス」が見え始めた。19年10月に導入される軽減税率への対応が完了し次第、大手小売りの間では横並びの形でカード情報のセキュリティ強化も進んでいくものと考えられる。
セルフ化・無人化がレジの基本要件に
全業種の中でも求人倍率がほぼ常にトップクラスで、人手不足が慢性化している小売業。顧客が店を訪れる限り、必ず誰かが立たなければいけないレジの業務をいかに省力化するかは至上命題となっている。POSレジベンダー各社が売り込みに力を入れているのが、一部または全部のレジ操作を顧客側で行う「セルフレジ」だが、すでに現在はベンダー側が提案に力を入れるというフェーズを過ぎ、店舗からの提案依頼書に「セルフ対応」が明記されるようになっているという。
セルフレジでの顧客の操作時間を短縮するため、
NECは画像認識による一括商品登録に取り組んでいる
また、今年1月に米アマゾンの無人店舗「Amazon Go」がオープンし話題となったことで、「レジなし・無人」の店舗形態を実現しようとする動きは小売業以外にも広がりつつある。
三菱UFJ銀行は4月、本部従業員が利用する社内のコンビニエンスストアで、無人オペレーションの実証実験を開始した。ブロックチェーン技術を活用した独自のデジタル通貨「MUFGコイン」のモバイルアプリと顔認証技術を連携させ、入店時に顔認証でユーザーを識別。棚から商品を取り出し、店から出ると、ユーザーのMUFGコインアプリに対して商品代金が自動的に請求されるというサービスを構築した。
同社では、実験の目的を「キャッシュレス、レジレスの次世代型店舗とはどのようなものかを確かめること」(三菱UFJフィナンシャル・グループ広報部)と説明。このシステムを他の拠点に横展開する、あるいは小売業者に向けて外販するといった計画はもっておらず、サービスの改善にITを活用する余地がないかを模索するために実施したのだという。
「将来は銀行でも無人店舗が導入される可能性があるが、単に無人化しただけだと、お客様から見れば従来の店舗に比べサービスレベルが低下することになる。画像認識でパーソナライズされたサービスを提供するなど、ITでどのようなことが可能になるのかを見極めたい」(同)。
無人POSレジの実現には、キャッシュレス決済、RFID、画像認識などの技術が用いられるが、それらを統合・運用するノウハウは、小売店はもちろん、それ以外の業種の業務改善にも応用の余地がありそうだ。
導入コスト半額のタブレット式セルフレジ
小規模店舗向けのPOSレジ市場で存在感を増しているのが、タブレット端末で利用するクラウドサービスとしてレジの機能を提供するタブレットPOSだ。従来、小規模な飲食店・商店では、金額計算と売上高の記録だけを行うキャッシュレジスターが主流だったが、それと大差ない数万円のタブレット端末で、売上高を商品単位で管理することが可能になるため、タブレットPOSは急速に普及。最大手の「Airレジ」だけでも、17年末時点で導入店舗は30万店を超えている。
タブレット端末をベースとしたエスキュービズムのセルフレジ
専用ハードウェアを使用するPOSシステムに比較すると参入障壁が低いため、タブレットPOSでは無数のサービスが登場しているが、一部にはタブレット端末をベースとしながら、レジ業務の無人化を図るセルフレジとしても利用できるものも出始めている。
エスキュービズムは、同社の店舗業務支援アプリ「Orange Operation」と、自動釣銭機、バーコードスキャナなどを組み合わせたセルフレジソリューションの提供を今年開始した。顧客が自分で商品登録から支払いまでを行う「フルセルフ」型の運用のほか、商品登録は店員が行い、支払いのみ自動化する「セミセルフ」型にも対応し、店員操作用タブレットの付け外しだけで両形態に対応できるのが特徴だ。
セルフレジは、繁忙時に会計待ちの列ができやすい食品スーパーで導入が進んでいるが、同社のソリューションは最小構成の場合1台あたり100万円程度で導入が可能といい、大手POSレジメーカーの製品に比べるとコストは半分程度。同社は「客単価やサービス品質の向上のため、接客により多くの時間をかけたいと考えるのは店舗の大小を問わず共通。しかし、小規模店舗ではスタッフの増員も本格的なIT投資も難しいことが多い」と説明し、小規模の商店でも投資回収が可能な範囲で、店員が自由に動ける時間を創出しながら、顧客のレジ待ちのストレスを軽減できるシステムであると強調する。具体的には、雑貨店・文具店などでの需要を想定している。
また、クレジットカードや電子マネーだけでなく、現金の支払いも無人で対応しているのが特徴。現金を受け付けるための自動釣銭機では、現在も制御インターフェースとしてシリアル通信が用いられているため、タブレット端末と連携させる場合は個別のインテグレーションが必要だが、同社のシステムでは検証済みの構成となっているので確実な動作が可能だ。
タブレットPOSの台頭によって、POSレジ端末のビジネスも大きく変わりつつある。
先に挙げた「Airレジ」が多くの導入店舗を獲得できた理由として、基本的な機能は「0円」で提供し、周辺サービスを使用する場合に課金する収益モデルを採用したことが挙げられる。店舗オーナーが所有するiPadにアプリをインストールするだけで、初期投資なしで利用を開始できるという点で、物理的なキャッシュレジスターの販売を中心としていたPOSレジベンダーとは事業構造自体が大きく異なる。
POSレジとしての基本機能を無料で提供し多数のユーザーを
獲得した「Airレジ」
Airレジを提供するリクルートライフスタイルでは、Airレジと連携するサービスとして、クレジットカードや電子マネーの支払いが可能になる「Airペイ」や、インバウンド客向けのQRコード決済機能などを提供している。また、従業員のシフト管理機能など、店舗業務を支援するサービスを一部有償で提供しており、これらを収益源としている。
しかし、極論すれば、同社はそもそもタブレットPOS事業で収益をあげる必要すらない。なぜなら、同社は「ホットペッパーグルメ」(飲食)、「ホットペッパービューティー」(美容)などのメディアを活用した、店舗向けのマーケティング支援をかねて主な事業としており、店舗との関係性を長期にわたって維持する(=リクルートのサービスに囲い込む)ツールとしてタブレットPOSを活用できれば、それでも十分メリットがあるからだ。
このため、有料機能を無理に使わせるようなサービス設計にする必要がなく、ユーザーである店舗オーナーとっての利便性を高めることに最優先で取り組めるという利点も生まれる。POSレジメーカー各社もタブレットPOSアプリを出しているが、専業のITベンダーが採用するには難しい事業モデルで運営されるAirレジが、すでにこの分野で最大手を占めており、巻き返しは容易ではなさそうだ。
Airレジのデータを活用する店舗向けBIツール「Airメイト」
同社は今春、Airレジユーザーから得た大量のデータをもとに、店舗の経営分析を行うBIツール「Airメイト」を発表した。サービス基盤にはGoogle Cloud Platformを採用しており、数十万店のデータを瞬時に分析し、競合とのパフォーマンス比較や来店数予測などが可能という。正式サービスは来年提供開始するということだが、個人の店舗オーナーでも簡単な操作で経営分析ができるようになれば、これまで高機能なPOSレジが食い込むことのできなかった小規模店舗に、破壊的な変化をもたらす可能性もある。