クリエーションライン
ITインフラ刷新で売り上げ70%増
クリエーションラインは、ITインフラの開発生産性や運用効率を
クリエーションライン
安田忠弘
代表取締役
高めるオープンソースソフト(OSS)をテコに業績を伸ばしている。18年3月期の売り上げは前年度比70%増に達した。営業利益率は、研究開発費を捻出するため一昨年度の約12%から同約7.5%程度に減少したが、約35人の従業員数をほとんど増やすことなく大幅増収を達成した。同社の安田忠弘代表取締役は「従業員1人あたりが生み出す価値を大幅に伸ばせた」と胸を張る。今年度の売上高も昨年度と同様の高い伸び率を見込んでいる。
同社が得意とする領域をOSSの製品カットでみると、コンテナ型仮想化管理の「Docker」、分散型バージョン管理の「GitLab」、クラウド統合管理の「Kubernetes(クーベネティス)」、サーバー構築・運用自動化の「Chef(シェフ)」など。ソフトウェア開発手法としては開発と運用を一体化させる「DevOps(デブオプス)」方式を強みとする。主に米国で考案された最先端のソフトウェア生産/システム運用の手法を、いち早く国内にもってくることで、生産革新の新旋風を巻き起こすやり方だ。
中堅・中小のSIerが成長するための「コスト競争力」「セグメント戦略」「差別化」の三要素にあてはめると、まず、ソフト開発/運用の生産革新を実現する最新OSSを使うことでコスト競争力を飛躍的に高める。そして、セグメント戦略はITインフラにほぼ特化。差別化のための独自商材については、DevOps導入支援サービスの「DevOpsサクセスサポート」などいくつか開発を進めているとともに、今年2月にデンソーと資本業務提携を行い、自動車をはじめとする車載領域への進出、商材開発の準備も進めている。
稼働時間の3割を調査研究に充てる
次から次へと登場する新しい開発/運用のOSSに対応していくため、クリエーションラインでは、技術者の稼働時間の約3割を調査研究に充てている。同社の安田代表取締役は、「顧客向けの稼働時間を敢えて7割程度に抑え、3割を技術動向の調査や新技術の習得に充てるよう、エンジニアに要請している」とし、外国語のOSSコミュニティのブログを読み込んだり、オンラインで海外の技術者同士の交流に参加したりすることで、後れを取らないよう努めている。
また、同社の鈴木逸平・取締役兼CSO自らが米国西海岸に常駐。毎月のように帰国し、自分の目や耳で直接聞き込んできた西海岸の最新技術動向を同社エンジニアや顧客に伝えている気合いの入れようだ。
もう一つ、OSSを活用したソフトウェアの生産革新、ITインフラ領域といった注力分野以外での二次請けや、客先常駐の仕事は原則としてとっていない。下請けや客先常駐の仕事では、どうしても元請けや客先の開発手法に沿ったかたちで開発に取り組まなければならないケースが多いからだ。協力会社として参画する場合でも、例えばChefを活用する部分を全面的に請け負うのであれば、「積極的に協業を進めている」(クリエーションラインの荒井裕貴・DevOpsチームディレクター)と、こだわりをもってビジネスを推進している。
テクノスジャパン
SAPに一意専心 先行者利益を得る
テクノスジャパン
吉岡隆
代表取締役
執行役員社長
テクノスジャパンは、SAPのERP(統合基幹業務システム)に、ほぼ特化することで急成長してきたSIerである。SAPジャパンが日本法人を開設した92年から間もない94年に創業した同社は、当時の主力ERP製品だったSAP R/3の販売増の波に乗るかたちで受注を伸ばした。基幹業務システムのパラダイムシフトにビジネスチャンスを見いだし、08年のリーマンショックまでには、営業利益率約20%の優良企業へと成長した。
SAPを取り扱うSIerはほかにも多く存在するが、そのなかでもテクノスジャパンが一目置かれる存在になったのは、「SAP製品を取り扱う時期が早かったこと。SAPの領域に特化し、ニッチではあるものの大きな失敗プロジェクトを起こすこともなく、堅実に実績を積み上げてきたこと」だと、同社の吉岡隆代表取締役執行役員社長は話す。
同社は、一段の事業拡大を目指して、基幹業務システムと連動するフロントエンド分野に進出。今から7年ほど前に営業支援のSalesforceの取り扱いをスタート。しかし、結果的に「ビジネスは思うようには伸びなかった」(吉岡代表取締)と振り返る。
リーマンショックで一息ついたSAPビジネスも、再び成長軌道に戻り、同社は12年にJASDAQ市場に上場、15年に東証一部に昇格。SAPビジネスが好調に推移するなか、「片手間でSalesforceをやっていたのかもしれない」と、一意専心で手がけてきたSAPとの違いが仇になったのではないかと肩を落とす。
米SIerをグループ化しSalesforceをテコ入れ
今年6月、米国SIerのリリックをグループに迎え入れた。リリックは、米オラクルのERP製品NetSuite(ネットスイート)とSalesforceをメインに取り扱っている。ERPと営業支援系の商材を両輪としたビジネスモデルは、テクノスジャパンと類似性があり、相性がいいと判断した。また、リリックの強みとするSalesforceのノウハウを国内に持ち込むことで、国内におけるSalesforceビジネスに弾みをつける狙いもある。
SAPビジネスに話を戻すと、SAPの現主力ERP製品であるS/4HANAの商談が活発化している。25年とされる現行製品のサポート期限を控えて、S/4HANAへの移行案件の引き合いが増えており、このままでは自社の技術者だけでは対応しきれなくなる危険性も出ている。そこで、中国・長春のオフショア開発の活用を始めている。
近年の中国の人件費高騰によって、コストメリットはあまり見込めず、しかも経済発展が目覚ましい中国では優秀なIT人材は奪い合いの状況だ。それでも、SAP製品という“共通言語”があるため、「日本固有の特別な技術を習得しなくても、中国のSAPエンジニアをそのまま活用できるメリットを享受できる」(テクノスジャパンの田中琢馬・執行役員経営企画室長兼アライアンス室長)とみている。
さらに、SAPビジネスを手がけている同業の中堅SIerと共同発注することも検討しており、これが実現すれば、まとまった規模のSAP案件を安定的に発注でき、中国のSAP人材も確保しやすくなる。結果的に受注能力が高まり、SAPビジネスを一段と拡大できる可能性が出てくる。SAPビジネスという「セグメント」に重点を置くことで規模のメリットが出しやすくなり、収益力を高めることにつながっている。
情報サービス産業協会(JISA)
収益改革マトリックスを制作中
JISA
島田俊夫
副会長
中堅・中小から大手まで多くのSIerが加入する情報サービス産業協会(JISA)は、中堅・中小SIerが成長する要素をどのように分析しているのか――。JISA生産性・収益力向上委員会では、昨年度から今年度の研究活動の一環で、「収益改革」に必要な要素を大きく四つの領域に分けて分析している。まだ同委員会での試案の段階であり、JISAとしてはこれを叩き台にして今年度中に成果物としてまとめる予定である。
試案では、SIer内部の「内的視点」、外部に向けた「外的視点」、短期的な「現在収益への貢献」、中長期的な「未来収益への貢献」の四つのマトリックスで構成されている(図参照)。
まず、SIerの足腰を強くする基礎体力の部分が「ソフトウェアエンジニアリングの近代化」だ。ソフト開発の自動化や効率化といった生産性向上の努力は、SIer内部の「内的視点」の中心に来るものであり、「現在収益」にも大きく貢献する。外部に向けて自社の強みや商材、サービスをしっかりアピールする「外的視点」も大切だ。
そして、「未来収益への貢献」の部分では、「受託開発の対価を“量から価値”へ変えていく」ことが大切だと説く。顧客のビジネスにITのプロとして参画し、技術力でリードできれば、収益力は高まると分析している。
試案をまとめた生産性・収益力向上委員会委員長の島田俊夫・JISA副会長(=CAC Holdings取締役会長)は、「収益改革には、経営者の経営戦略も重要になってくる」と指摘している。具体的には、「コスト競争力、セグメント戦略、差別化」の三要素であり、「経営者がどれだけ戦略的な施策を打ち出せるかどうかが問われている」と、島田副会長は指摘している。
将来の収益を見越し“量から価値”へ
例えば、本稿でレポートした、テラスカイはSalesforceやクラウドによってコスト競争力を高めて、SFA/CRM(営業支援/顧客管理)のセグメントにほぼ特化することで成長への切符を手にし、テクノスジャパンはSAPに一意専心することで成長の基礎を築いた。また、クリエーションラインは、最新のOSSによってITインフラ領域で頭角を現した。いずれもの経営者が“ここだ”と決めた領域に経営資源を大胆に投入し、クラウド/SaaS、OSSなりの手法をもってコスト削減策を顧客に提示し、受注を獲得している。
課題は、受託開発を中心とする既存ビジネスで、すでに安定収益を確保しているSIerが、将来の収益を見越した経営戦略をどう打ち出すかである。
中堅・中小SIerの既存事業は、SE一人あたりいくらで見積もる“人月”ベースのビジネスの割合が多いのも事実。島田副会長は、「人月ベースのビジネスは粗利20%が限界。万が一、東京五輪以降、経済がダウントレンドに入ったら一気に経営が厳しくなりかねない」と危惧する。だからこそ、将来の収益を確保するための「受託開発の対価を“量から価値”へ変えていく」取り組みを会員各社に促している。
クラウドの潮流がそうであったように、ITのパラダイムシフトが10年単位で訪れている。今、次のパラダイムシフトの萌芽を見つけ、10年先を見据えた経営戦略を打ち出すことが、量から価値への転換につながる契機になるといえそうだ。