4.M&Aや資本業務提携でパートナーのリソースを占有する
人的リソースの獲得に先手を打つ
SIerのプロジェクトは、協力会社なしには成り立たない。多くの協力会社社から人的リソースを供給してもらい、開発をこなしていく。だが、近年の人手不足は中小規模の協力会社でより深刻になっている。
そこで大手SIerが打つ策が、M&A(企業の合併と買収)や資本業務提携で協力会社であるビジネスパートナーの人的リソースの一部を独占的に確保する手法だ。協力会社からみれば、独立を保つためにA社、B社、C社と複数の元請けに人的リソースを供給している。元請けから支配されないために元請け1社に出せるリソースの割合は、協力会社の社員数の2割が上限と言われている。M&Aで完全に大手SIerの傘下に入れてしまえば10割のリソースが使えるようになり、一部資本参加による提携であれば出資割合に応じてリソースを独占できるメリットがある。
野村総合研究所(NRI)の此本臣吾社長は、「資本業務提携よって一定の人的リソースを確保することも選択肢に入る」と話す。人的リソースの確保では、これまで中国やベトナムの海外オフショア開発を活用するケースが多かった。今でも中国オフショアは有効な手段だが、人件費が日本並みに高まっていることや、中国国内の旺盛なIT需要に対応するため日本向けに人的リソースを割きにくくなっている。つまり、以前のように割安な価格で多くの人材を集められる時代は過ぎ去ったと考えるべきである。
野村総合研究所
此本臣吾
社長
NRIは中国オフショアの状況を早い段階から予測しており、15年に中国有力オフショア開発パートナーの智明創発グループをM&AするかたちでNRIグループに迎え入れた。智明創発は、証券業務システムなどNRIが強みとする専門性が極めて高い業務開発をともに行ってきたパートナーで、もともと開発単価は高かった。ここの高度人材が流出するのであれば、グループに迎え入れたほうがメリットが多いと判断。先手を打ったことで、NRIは中国で安定した開発リソースを手に入れることができた。
5.ユーザー企業側の人的リソースも活用する
アプリを自由につくれる環境を提供
IT人材をユーザー社内に求める動きが活発化している。AIやIoT、FinTechに代表される○○Techを駆使して、ユーザー企業の事業部門が率先してデジタライゼーションを推進し、新商材を開発。売り上げや利益を伸ばすには、ユーザー自身がITをある程度使いこなせなければならないからだ。
例えば、業務自動化ソフトのRPAを駆使し、それでつくりだした時間をAIによるデータ分析に使うことで、新しい発見や次のビジネス創出のヒントを得る。おおよそのツール選定や使い方はSIerが支援したとしても、日々の業務を回していくのはユーザー自身。これまでSIerが請け負っていた仕事の一部を、実質ユーザーに担ってもらうことで人的リソースを補完する構図である。
JBCCホールディングス
山田隆司
社長
近年ではサイボウズの業務改善プラットフォーム「kintone(キントーン)」や、NTTデータイントラマート「intra-mart(イントラマート)」など、ユーザー自身が業務アプリケーションを生成して、業務分析を行える優れたプラットフォームが多く製品化されており、ユーザーの事業部門が自分たちの必要とする業務アプリをその場で作ることも珍しくなくなっている。
JBCCホールディングスの山田隆司社長は、「ユーザー企業の事業部門によるデジタライゼーションの推進によって、ユーザー自身の業績を伸ばしてもらう」ことに力を注ぐ。SIerの人的リソースが限られるなか、ユーザー企業がデジタルを使いこなせる環境を意識的につくることで、人的リソースの補完が可能になるというわけだ。IT業界側ばかりに人材を求めるのではなく、ユーザー企業のIT人材の活用も積極的に進めていくことが人手不足の緩和に役立つ。
6.新卒採用枠の拡大、外国人の就労ビザ緩和で海外枠も増やす
先を見越して新卒採用枠を大幅増に
富士ソフトは、良好な受注環境が向こう数年は続くと踏んで、16年4月から新卒採用枠を大幅に増やしてきた。
富士ソフト単体の15年4月入社の新卒採用者が約400人なのに対して、16年は約500人、17年は約700人、18年は約800人、19年4月入社予定の新卒採用者も昨年度と同様約800人を見込む。グループ合わせると1000人規模になる予定だ。
新卒者を大量採用すると、研修費用がかさみ、その後のOJT(実務を通じた訓練)の負担も大きい。だが、「人的リソースは先手を打って確保しなければならない」との坂下智保社長の方針で、採用枠を倍増させた。坂下社長の読みは的中し、年を追うごとに人材の確保が難しくなるなか、富士ソフトではここ数年で採用してきた新卒者が2年生、3年生となり「着実に“戦力化”してきている」。
富士ソフト
坂下智保
社長
東京五輪の次は、大阪万博が控えており、景況感は当面は続くと期待されている。結果的に人材獲得については、富士ソフトの戦略勝ちの様相だ。
京セラ
コミュニケーションシステム
黒瀬善仁
社長
もう一つ、外国人の就労ビザの条件が緩和される見通しで、国内で勤務する外国人の採用枠を増やせる可能性が出てきている。京セラコミュニケーションシステムの黒瀬善仁社長は、「グローバルやダイバーシティへの対応から、日本の大学を卒業した外国人留学生を積極的に採用してきた。就労ビザの緩和が実現されれば、日本での就職を希望する海外大学の卒業者も、採用しやすくなるのではないか」と期待する。就労ビザの緩和は、少しでも多くの人材を確保したいSIerには追い風になる可能性がある。
7.今いる社員を辞めさせない。賃金を上げる
目指せ粗利5割超の新商材の創出
あの手この手でコストをかけて人手を確保しても、辞めてしまっては意味がない。共働きが増えている中で、男女ともに過去のような長時間労働もしにくくなっている。働き手が減るだけではなく、労働時間の総量が少なくなっていく中でも、仕事に見合った報酬を出さなければ人を引き留めることは難しい。
では、どうしたら報酬を増やせるのか--。価値の高い商品やサービスを作りだし、粗利を高めていくほかにはない。SEやプログラマーを人月で換算するビジネスモデルでは「粗利2割が限界」(SIer幹部)と言われており、このモデルで報酬を引き上げるのは厳しいと言わざるを得ない。
長時間労働を抑制する働き方改革、さらには報酬の引き上げを可能にする高粗利率の新商材、新サービスの創出こそが、人手不足の緩和に重要な役割を果たす。