Special Feature
EDI移行は時間との勝負 ピーク時は年率7~8%の伸びが見込める
2019/04/03 09:00
週刊BCN 2019年03月25日vol.1769掲載
JBCC
注力領域:EDIアウトソーシング/SI
秋には移行の取り組みが本格化と予測
JBCCはNTT東西地域会社の電話網がIP網へ移行することを見越して、15年の段階からインターネットEDIへの切り替えを推進してきた。だが、インターネットに対応したサービスを投入したのが早かったこともあり、顧客からの反応が鈍かった。既存のおよそ数百社の客先に向けてEDI移行の必要性を訴えても、まだ時間の余裕があることを理由に「投資の優先順位をなかなか高めてもらえない」(布川加奈子・ビジネス・ソリューション推進部部長)。潮目が変わったのはNTT東西の周知活動が本格化した昨年末から今年にかけて。これまでEDIビジネスでは取引のなかった新規顧客も含めて、問い合わせが急増。JBCCでは、サービス事業ブランド「俺のクラウド」の傘下に、EDIのアウトソーシングサービスを揃えているが、「俺のクラウドのサービス商材の中で最も問い合わせや引き合いの多い商材になっている」(ビジネス・ソリューション推進部ソリューションデザイングループの森かおり氏)と手応えを感じている。
NTT東西の周知活動の効果が大きいが、一方でEDIの大口顧客である「流通・小売業がEDI移行に向けて動き始めた影響もある」(布川部長)。今年10月から導入される予定の軽減税率(複数税率)制度。同制度の対象となる食品を多く扱う流通・小売業は、これまで流通・小売業のシステム部門は手一杯だった。これが一段落する今年夏から秋以降の課題としてEDI移行を位置付けているユーザーが多いようだ。
まずは予算化に向けた情報収集の一環としてJBCCをはじめとする「EDIを手掛けるSIerに問い合わせする段階」だとみている。
SCSK
注力領域:VAN/SI/EDIアウトソーシング
他システムへの影響も考慮して提案
EDIは、受発注件数が多い流通・小売業では欠かせない仕組みである。SCSKはその流通・小売業を主軸にEDIサービスを展開している。旧CSK時代に手掛けていたVAN事業の発展形で、当初は「スーパーマーケットクラウドEDI」の略で「スマクラ」としたが、今は他業種の顧客も徐々に増えてきたことから「スマートクラウドライフライン」の略称としての「スマクラ」に変更している。スマクラのユーザー数は直近でおよそ500社、約3万接続数にのぼる。軽減税率の対応に追われる流通・小売業は、インターネットEDIへの移行は遅れ気味。加えて、23年9月末までに「インボイス制度」にも対応しなければならない。インボイス制度とは、軽減税率の対象商品であることを明確にするための仕組みで、「請求書などの帳票の変更はもとより、基幹業務システムの手直しも発生する可能性が高い」(東真也・流通システム第二事業本部クラウドサービス部基盤サービス課マネージャ)と指摘する。
インボイス制度に対応するためにEDIの手直しが必要だが、サービス終了間近のアナログ回線やISDNベースのEDIを手直ししても意味がない。従って「インボイス制度への対応と、インターネットEDIへの移行はセットだと考えている」(堀田真杉・流通システム第二事業本部クラウドサービス部部長)とし、実質的な期限は、23年9月末だとみる。
逆算すると、19年度にユーザー企業に予算を組んでもらい、「1年の余裕をみて20~22年9月末までにインターネットEDIへ移行するのが理想」(篠原豊・流通システム第二事業本部営業部第二課課長)だと作業計画であるガントチャートを引く。EDIや基幹業務システムの改修は正味3年もないことになる。軽減税率への対応や、それに伴うインボイス制度への対応が、EDI移行の時期も被ってしまったことから、「時間とのギリギリの勝負になる」(同)と危機感をあらわにする。
インテック
注力領域:EDIアウトソーシング
新規に100ユーザーの獲得目指す
EDIのアウトソーシングサービスを手掛けるインテックは、食品メーカーや卸などおよそ400社のユーザーを抱えている。EDIの接続数でみると約9万接続。単純計算で1社当たり200社余りとEDIで受発注業務を行っていることになる。インテックでは、EDI接続先のうち半数がアナログ回線やISDNを使っているとみている。EDIは接続相手とセットで更新しなければならず、仮に20~22年までの3年間で半数の4万5000の接続先をインターネットEDIに切り替えるとしたら、1年当たり1万5000接続分を更新しなければならない計算になる。
インテックでは「22年末までの完全移行」(太田活雄・EDIサービス事業部長)を目指して、既存顧客を中心にEDI移行を促す働きかけを行っているが、ハードルは決して低くない。もし、基幹系システムのインターネットEDIへの対応が間に合わない場合は、「当社側でインターネットEDIに準拠したデータフォーマットに変換するなどの対応は可能」というが、社数が多いだけにインテック側で全て対応できるとは限らない。ユーザー側の基幹系システムの手直しも並行して進めていく必要がある。
また、新規顧客の獲得についても22年末までに新しく100社を獲得を目標に掲げる。ユーザー企業が自社でEDIの設備を持っていたが、EDI移行に伴う設備更新のタイミングで、EDIアウトソーシングサービス会社に外部委託する動きが加速するとみられている。インテックでは「アウトソーシング需要を積極的に取り込んでいく」(竹内正人・N&O事業推進部EDIアウトソーシング課長)ことで、EDIアウトソーシングビジネスを一段と拡大させていく。
EDIパッケージベンダー
2024年に向けて激しいシェア攻防戦
製品の隙間を埋めて攻防戦に備えるEDIパッケージソフト開発ベンダーにとっても、今回のインターネットEDIへの移行は大きなビジネスチャンスになる。EDI移行はパッケージソフトの入れ替えや、これまでユーザーが社内で運用していたEDIシステムを外部のアウトソーシング会社に委託するなどの動きが予想されるからだ。EDIパッケージソフト販売のビジネスパートナーであるSIerや、VAN事業者やEDIアウトソーシング会社も、より売りやすい、より使いやすい製品に磨きをかけることでシェア拡大を推し進めようとしている。
花澤健二
課長
キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は、EDIパッケージソフトの「EDI-Master(EDIマスター)」シリーズのLinux OS対応を18年から今年にかけて着々と進めている。キヤノンITSは、EDIパッケージソフト開発に強い旧蝶理情報システムと旧アルゴ21をグループに迎え入れてEDI事業を強化。前者はメインフレーム環境向けのEDI、後者はWindows環境向けのEDIに強いため、その中間に位置する「Linux向けのEDIパッケージが手薄な状態」(花澤健二・プロダクトソリューション営業本部企画部企画課課長)が続いていた。今回のLinux対応の強化によってライバル会社に対する防御を一段と固めていく考えだ。
RPAでウェブEDIの手作業なくす
インターコムは、主力の「Biware EDI Station 2(バイウェアEDIステーション2)」シリーズのオプション機能として、18年末から今年にかけて「ウェブEDI」領域を大幅に強化している。
「インターネットEDI」と「ウェブEDI」は語感が似ているため混同しやすいが、前者はEDIの通信回線にインターネットを使うもので、後者はEDIの入力にウェブブラウザーを使う。EDIの本来の目的は受発注業務の“自動化”。人の手を介在させず受発注を行うものだが、ウェブEDIはブラウザーに向かって人が入力する。EDIの本来的な役割からすれば「EDIとは呼べない」との指摘もある。
多勢浩之
グループ長
インターコムも老舗のEDIパッケージベンダーとして、これまでウェブEDIには消極的だった。ところが今回、方針を大きく転換したのは、「現実問題として24年1月までに移行しきれないユーザーが出てくる」(多勢浩之・営業本部EDIグループグループ長)ことが予想されるからだ。
ウェブEDIであれば、どこの事業所にもある普通のブラウザーを使えるため、受発注業務が止まる最悪の事態は避けられる。しかし、本来EDIで発生することがない“手作業”が発生してしまうため、インターコムではEDIに特化した業務自動化ソフト「RPA」をオプション機能として開発。作業負担の軽減に努めている。
「ポストEDI」を見越した施策打つ
データ・アプリケーション(DAL)は、本稿でレポートしたSCSKやJBCCといったVAN事業やEDIアウトソーシングを手掛ける会社や、比較的規模の大きいエンドユーザーの領域に強いEDIパッケージソフトベンダーである。そのDALが掲げているのは「ポストEDI」だ。
大澤健夫執行役員マーケティング本部長
ポストEDIとは、分かりやすくいえば「ファイル共有プラットフォーム」への移行。汎用的なファイル共有は「Box」やマイクロソフト「OneDrive」などが有名だが、DAL主力製品の「ACMS Apex(エーシーエムエスエイペックス)」では、「EDIに最適化されたファイル共有プラットフォームの実現を目指す」(藤野裕司・EDI/SCM企画推進エグゼクティブ・コンサルタント)コンセプトを打ち出している。
例えば、中小企業ユーザーを中心に業務アプリケーションをSaaS方式で利用するケースが増えている。もし、SaaS事業者がEDI機能を吸収するかたちで、他社ERPとAPI連携するようになったら既存EDIはどうなるのか――。現に、FinTechを展開する企業の多くは金融機関が開放したAPIを利用して、さまざまなサービスを生み出している。こうしたAPI連携が発展していけば、いずれ「企業間の受発注もAPIベースのものになる可能性がある」との危機感がポストEDIの背景にある。
現状では、長年培ってきた既存EDIの信頼性や堅牢性の高さは揺るがず、「ACMS Apex」でも既存EDIの機能は網羅している。ただ、24年に向けた一連のEDI移行の過程で、API連携によるファイル共有が注目されることは十分に考えられる。そこで、ACMS Apexに次世代のEDIデータ共有プラットフォームの機能をに実装。業務アプリやSaaSベンダーとの一層の協業を視野に入れつつ将来の変化に備える。
将来の「ポストEDI」を見越した発展性のあるアーキテクチャーが評価されるかたちで、この上期(18年4~9月)のACMS Apex関連の売り上げは前年同期比およそ3倍に拡大。「EDIのその先を見据えたビジネスを展開していく」(大澤健夫・執行役員マーケティング本部長)ことで競争優位性を高める。
EDI(電子データ交換)移行ビジネスが本格化している。NTTの固定電話が「IP網」へ移行することに伴い、従来型の電話回線を使っているEDIは、インターネットEDIへと移行。EDI事業を手掛けるベンダーはここぞとばかりに、自社商材に磨きをかけ、シェア拡大に力を入れる。しかし、EDI移行対象の事業所は十万単位の規模とみられており、中には業務システムの手直しが必要なケースもでてくる。EDIの大口ユーザーである流通・小売業では、軽減税率やインボイス制度の対応時期と重なることから、人手が不足する中で前倒しのスケジュールになる見込み。EDI移行は時間との勝負の中で進んでいくことになる。(取材・文/安藤章司)
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