かつては利益を生まないとして、“お荷物”だと軽視されることもあったコールセンター。いかに効率良く数をさばけるかにフォーカスされてきた。しかし、カスタマーエクスペリエンス(CX)の向上が重要課題として浮上し、主たる顧客接点の一つであるコールセンターへの風向きが大きく変わることになる。こうした市場ニーズの変化は、コールセンターシステムに対して、柔軟性や拡張性などの要求を強めていく。その解として主流になりつつあるのが、クラウド型コールセンターシステムである。(取材・文/銭 君毅)
ユーザーとの接点の多様化と
慢性的な人材不足という課題
長年、企業とエンドユーザーをつなぐ接点としてチャネルの役割を果たしていたコールセンター。時には営業活動の起点になる場合もあるものの、多くはエンドユーザーからの問い合わせに答えるカスタマーサービスセンターとして活用されていた。
ある意味、直接的に利益を生まないため、コストカットを考えたとき真っ先に俎上に載せられる部署だったといえる。
しかし、近年になって見直され始めている。ビジネスのトレンドが、単にハードウェアを売って終わる「物売りのビジネスモデル」から、クラウドサービスなどによる「サブスクリプション型のビジネスモデル」へと移り変わっているからだ。従量課金型のビジネスモデルでは、エンドユーザーにどれだけ長くサービスを使ってもらうかがそのまま収益に直結するため、エンドユーザーのCX向上が企業にとって重要な課題となる。エンドユーザーとの接点は多様化しているものの、生の声を交わせるコールセンターは、CX向上の中心的な役割を担う。そのため、自然とコールセンターへの投資が増えることになる。
また、コールセンター業界は慢性的に深刻な人材不足にあることから、システムによる効率化が求められている。常に顔の見えない相手との会話となるため、オペレーターは常に大きな精神的負担を抱えている。場合によっては激しいクレームに対応しなくてはならず、それが退職の原因になることもある。
そして、コールセンター業ではオペレーターとして勤務する従業員の雇用形態の多くが非正規雇用であるため、人材の流動性が高くなりがちとなる。声色で相手の感情を読み取り、適切な受け答えをする技術や、深い商品知識といったようなスキルは一朝一夕で身に付けられるものではない。そのため、いかに人材を定着させられるかは、多くの事業者にとって悩みの種になっている。コールセンターシステムは、こうした課題の解消も期待されている。
変化するユーザーニーズ
柔軟性や拡張性でクラウドへ
かつてのコールセンターは、できるかぎり応対時間を短縮し、効率良く問い合わせをこなすため、FAQなどの技術に注目が集まっていた。現在のニーズは、量の重要性は変わらないものの、CXの質を高めることが根本的な目的として存在する点で大きく異なる。単純な問い合わせに対しても、オペレーターにはエンドユーザーの属性を考慮したインテリジェンスが求められるため、それを支援する仕組みが必要となる。問い合わせに合った情報を提示するために、音声認識技術などのAI活用も進んでいる。
また、ビジネス環境の変化が激しい現在では、コールセンターシステムの柔軟性や拡張性が導入に当たっての重要な要件となる。従来のオンプレミスから、クラウドをベースとしたコールセンターシステムに需要が集まっているのは、そのためである。
近年では、クラウドサービスに対するセキュリティや信頼性への懸念が薄れ始めていることから、機密性の高いデータを保持する金融業界でも、オンプレミスからパブリッククラウドへと、コールセンターシステムをリプレースする事例が増えてきた。この流れは今後、着実に進んでいくと考えられる。
派遣法改正の影響
コールセンター業において非正規雇用労働者が占める割合は多い。日本コールセンター協会によると、2018年時点で、調査に回答した54社の内、総従業員数に占める正規社員の数が5割未満の企業が全体の75%を占めた。それはつまり、労働者派遣法(派遣法)の影響を受けやすいということでもある。
現代では一般的な働き方となった派遣労働だが、厚生労働省はこれを「臨時的・一時的なものであることを原則」にしている。派遣労働者のキャリアアップを支援するべく、15年に労働派遣法の改正が行われている。その内容とは、派遣労働者が同一の派遣先事業所で3年以上就業することを制限するというもの。条件付きでさらに3年延長することは可能だが、実質的には3年経過した派遣社員は新たな派遣先を探さなければならなくなる。
もちろん派遣元に対しては雇用安定措置を採ることが求められており、3年経過する派遣労働者に対して以下の四つの措置から選択し適用する義務が生じる。
1.派遣先への直接雇用の依頼
2.新たな派遣先の提供
3.派遣元での派遣労働者以外としての無期雇用
4.その他雇用の安定を図るための措置
大雑把に言えば「派遣先に対して派遣労働者を正社員雇用させるよう試みよ。それができなければ、新たな就業先を提供せよ」という内容になる。一見すると、派遣労働者にとって正社員になるチャンスや、キャリアアップの機会を得ることができる措置だと感じられるが、重要なのはこの義務には罰則がないということ。派遣元が派遣労働者に対してどれだけ支援するかは不透明で、むしろ雇止めが懸念される。
一方、派遣先からすれば、せっかく育てた人材を手放すか、正社員として雇用するかの難しい二択を迫られる形だ。前述のとおり、改正が行われたのは15年。18年にはすでに抵触日(3年の就業期間が終了する日)に入る派遣労働者が出ている。中期的な人材の動きはまだ見通しが立たないが、短期的に見れば人材を手放さなければならないため、一時的に人員が少なくなる。多くの非正規雇用者を抱えるコールセンター業界からすれば、もともと人員の入れ替わりが激しかったところに正社員を雇うコストを抱える必要が出てくるため、これを機にシステムへの投資を考える事業者が増加すると予想される。
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