変化の本質は
インフラを忘れられること
ただ、従量課金制サービスでは製品の出荷から利益回収までの期間が長く、メーカー側が一定のビジネスリスクを負う格好となる。そのリスクは月々のサービス料金に上乗せされていると考えるのが自然であり、ユーザー企業がITインフラに費やすトータルの金額が、従来の“買い切り”に比べ安くなるとは限らない。
そこで、従量課金制サービスにおいて、料金形態以外にもう一つ注目すべきポイントが、運用・保守の体制だ。各社のサービスでは、インフラの構築、運用、障害時対応は、メーカーのサービス部隊が担う形態が基本となっている。これによって、顧客企業のIT部門はインフラの運用のために担当者を張り付けておく必要がなくなり、企業に付加価値をもたらすアプリケへーションやサービスの開発に専念できるようになる。メーカー自らがサポートを提供するので、障害発生時の原因切り分けでベンダー間のたらい回しになる恐れがないし、使用状況はリモートでモニタリングされているため、実際にキャパシティが不足してから機器の増備を検討するのではなく、予測的にインフラ拡張の提案を受けることができる。
このように、顧客が「インフラのことで手をわずらう局面を削減できる」ことが、サービスとして提供されるITインフラの本質と言えるだろう。
デルテクノロジーズが今年4月に発表し、今後ヴイエムウェアによって販売される「VMware Cloud on Dell EMC」は、付加価値部分への専念という考え方がより鮮明に表れた従量課金制サービスとなっている。このサービスでは、ハードウェアとしてDell EMCが提供するHCIの「VxRail」を用いる。ユーザー企業は、クラウド上のポータル画面からVxRailを注文し、配備先のデータセンターや事業拠点を指定する。ヴイエムウェアおよびDell EMCは、指定された場所にVxRailを届けてセットアップを行う。配備されたVxRailは、SD-WANを介してクラウド上の管理コンソールと結ばれており、全拠点を一元的に管理できるほか、パッチやアップデートの適用も自動的に行われる。
今後はヴイエムウェアが技術を提供している他のハードウェアベンターからも、同等のサービスが展開される可能性はあるが、EMCジャパンでクラウド戦略を担当する吉田尚壮クラウドプラットフォームスペシャリストは「ヴイエムウェアが描くクラウド戦略を最も深く理解し、早期に製品・サービスを提供できるのがDell EMC」と述べ、同じデルテクノロジーズ傘下企業であることを生かし、「データセンター・アズ・ア・サービス」をいち早く具現化していくと強調した。
パートナー経由の提供には
課題も
各社とも、従来の製品販売と同様、従量課金制サービスについてもパートナー経由の提供を行っていく方針を示している。ただ、これまでサーバーやストレージを再販していたパートナーが、サービス型の事業モデルに取り組むのは決して容易なことではない。
大きな理由の一つは、顧客がリソースを消費して初めて料金が確定するので、収益の見通しが立ちにくいことだ。そしてもう一つは、従来インフラの構築や運用・保守サービスを収益源としていたパートナーにとっては、それらの大部分が“メーカー純正”のサービスに置き換わってしまうことで、自社の独自性を発揮しにくくなることだ。従量課金制サービスは、製品自体はオンプレミスに設置されるものの、ビジネスモデルとしてはクラウドに極めて近い性質をもっている。
しかし、DX機運の高まりで、顧客のITへの期待は従来の「安定稼働」「コスト削減」から、「事業の変革」「新規ビジネス創出」へと明らかにシフトしている。ITインフラのサービス化の潮流は、顧客の事業価値向上に真に資する動きができるかをITベンダー各社に問いかけている。