クラウド時代のデータ活用への提言 1
アシスト
さまざまな環境に対応する
BIツール提案が重要に
「Oracle Cloudの東京リージョンが開設され、国内でOracle Autonomous Data Warehouse Cloudが利用できるようになり、既存のオンプレミスのDWH環境をクラウド化する引き合いが増えている」と、オラクル製品やBIツールについて豊富なノウハウを持つアシストの関俊洋・データベース技術本部技術統括部技術1部クラウド推進課課長は話す。<
加速するクラウド市場への投資 オラクルがついに自前DC グーグルは大阪リージョン開設 >
アシストの関俊洋課長(右)と松山晋ノ助氏
「Teradata」や「Neteeza」などの更新時期を迎えたDWH環境を、全てクラウドに載せ替える場合にAutonomous Data Warehouse Cloudを検討する企業が出始めたという。
一方で、既存のオンプレミスのDWH環境には手を付けず、クラウド上で生まれるデータ用のDWHを新たに構築するハイブリッド型のクラウド活用がある。
「大規模なデータウェアハウスの移行では、データベース・エンジンが変われば1年単位の時間と大きなコストがかかるプロジェクトになる。それに対してハイブリッド型では、Autonomous Data Warehouse Cloudなどを使うことですぐに始められ効果も出しやすいものになる」と関課長。前者は初期段階から億単位のプロジェクトになるものもあり「クラウドらしくない」。後者は試しにクラウドで始めて、すぐに効果を確かめることができる。引き合いは、既存のデータウェアハウスの移行以上に動きが良いという。
クラウドにデータ活用環境が移っても、データベースに求められる要件はオンプレミス時代と大きく変わらない。「たくさんのデータを容易に格納できること、その上で検索結果が素早く返されることが重要。われわれが今Oracle Autonomous Data Warehouse Cloudを提案しているのは、パフォーマンスが良く安く使えるからだ」と関課長は話す。オラクル自身は自動チューニングなどをアピールするが、実際にデータを活用する人にはそのメッセージはあまり響かない。自動チューニングが重要なのではなく、自分たちが行いたい処理が速いことのほうが重要なのだ。
アシストでは現状、Autonomous Data Warehouse Cloudを評価しているが「データベースの観点からして、単一のクラウドに染める必要はないと思っている」(関課長)とみている。
これはOracle CloudとMicrosoft Azureの接続連携の動きなどもあり、マルチクラウドのネットワークサービスも充実してきているからだ。今後は、さまざまなSaaS、PaaS、IaaSが容易につながるようになる。単一のクラウドの中だけでデータ活用環境を考えないことも重要になると指摘する。
そしてデータベースエンジニアのインフラ管理の仕事は、自動化が進みどんどん少なくなる分、よりデータ活用寄りの目線が必要となる。「データベースにどんなデータが入っていて、それをどう活用すれば良いのか。データベース環境の構築から、そのあとの活用をどれだけ考えられるかが、今後はさらに重要になる」と関課長は話す。
クラウド時代に求められるBIツールの要件
一方で、BI側にはクラウド環境で新たな課題が顕在化していると、アシスト情報基盤事業部製品統括部技術2部の松山晋ノ助氏は指摘する。
一般にパブリッククラウドのインフラ環境は、自前のデータセンターで独自に構築されるものより、外部からの攻撃などに対処する安全性は高い。しかしクラウド化して多くの人がどこからでもDWHにアクセスできるようになると、権限管理やアクセスコントロールは「BIレイヤーでしっかりと管理する必要がある」と松山氏は話す。
またオンプレミスの時代には、BIツールから外部の機能へと連携させることはあまりなかったが、クラウドに移行すると、マーケットプレイスなどから簡単に外部機能を導入でき、それらとの接続性が求められる。また第三者の提供するオープンデータなどをいかに容易に取り込んで分析できるかも、オンプレミス時代にはあまりなかった要件だ。「DWHだけでなく、Hadoopのような環境、外部のオープンデータとつなげられることがクラウドのBIツールには求められる」と松山氏は言う。
そしてBIツールの要件のもう一つが、ガバナンスにかかわる機能だ。さまざまなデータソースと容易につながればつながるほど、きめ細かなアクセスコントロールが必要となる。また証跡がしっかりと残り、誰がどこで何をしたかの把握がBIツールに求められるのだ。複数データソースのハイブリッド、マルチクラウドのデータ活用環境となれば、ガバナンス管理をクラウドベンダーに任せられない。クラウド時代のBIツールは、どのようなクラウド環境にも対応でき、その上でガバナンス管理のビジョンをしっかり持っているものを選ぶことが重要だと松山氏は指摘する。
クラウド時代のデータ活用への提言 2
マイクロストラテジー
“データを見る人”にフォーカスした戦略で
現状、データ活用に関する市場動向には「オンプレミスのデータ活用環境のクラウド化と、新しいことを行うためのクラウド利用の二つの側面があります」と話すのは、独立系で長くBIソリューションを提供し続けるマイクロストラテジー日本法人の印藤公洋プレジデント。例えば、後者にあたるBigQueryを使うようなデータ活用は限定的で、個人情報保護法の規制を受けないデータを蓄積し手軽に始めるものが多いと言う。
マイクロストラテジー・ジャパン 印藤公洋プレジデント
一方で既存の全社DWHのクラウド化は、まだまだ進んでいない。「オンプレミスのデータセンターで動いていたTeradata環境をAWSにそのまま持って行く、つまりはデータセンターを移行する程度の話だ」という。この場合は、主にインフラコストの削減が目的となる。またもう一つのクラウドの利用として、データベースはオンプレミスのままでBIサーバーだけをクラウドで運用する例もある。こちらは、インフラ管理の手間の削減が目的だ。
クラウド化の動きはあるものの、マイクロストラテジーのユーザーには大きな動きは起きていない。デジタルトランスフォーメーションの部署を新設し、IT部門ではない人たちがこぞってセルフサービスでBIを活用する時代ともいわれるが、それはベンダー側が主張していることに過ぎない。「データ活用が企業にとって真剣な構造化された議論になっていない。このためセルフサービスBIを実現しましょう程度の話で、世間で言われるほどデジタル戦略に企業が興味を持っているとは言えない」と語る。
企業にデータサイエンティストが足りないとも指摘される。確かに統計の活用が重要な業務はあるが、そういった業務には昔から統計の専門家が携わっている。「統計の専門家がいるかいないかではなく、データをビジネスにどう生かすか、そのアイデア出しが重要」と印藤プレジデント。データサイエンティストではなくビジネスを知る業務サイドからでなければ、良いアイデアは出てこない。
重要性増すガバナンス、パフォーマンスへの要求も
全社規模でデータ活用に真剣に取り組む企業が少ないとはいえ、データ活用環境のクラウド化は徐々に進む。この際、一番大きな課題となるのはガバナンスだ。「オンプレミスでシングルデータソースだった時にはあまり問題にならなかったが、クラウド化し複数データソースになるとガバナンスの確保が課題」だと印藤プレジデントは指摘する。複数データソースがあってもマイクロストラテジーを通すことでシングルソースのように管理できるという。「予算編成時期にだけ、関係者が詳細データにアクセスできるようにするなど、これまでにはなかったセキュリティ要件も出てきている。それをポリシーに沿い自動化して適用でき、その上で証跡をしっかり残す。誰が何を行ったかのプロセスが残せないとダメ」と、今後はデータ活用環境のセキュリティ、ガバナンスの確保が重要だと指摘する。
もう一つ重要なのは、やはりパフォーマンスへの要求だ。細かい機能の良し悪しより、パフォーマンスが悪ければ使われない。そうなるとクラウドにデータを置くのが良いとは一概に言えない。個人情報に対する規制よりも、性能が出ないことでクラウドに持って行けないことのほうが現実的には多いのだ。
そのような課題がある中、今後のマイクロストラテジーの戦略としては実際に“データを見る人”に焦点を当てる。セキュリティやガバナンスの確保、さらにはパフォーマンスにしてもデータを見る人にどう対処するかの話なのだ。これはマイクロストラテジーが創業以来、ずっと取り組んできたことでもある。
データを見る人に焦点を当てる具体策としては、例えば、膨大な中から自分に関連するレポートだけをすぐに参照できるようにする機能を提供する。またデータを見ながら関係者とリアルタイムに議論できるコラボレーション機能もある。
さらに評価が高いのが「ゼロクリック・インテリジェンス」と呼ぶ「HyperIntelligence」機能だ。これはウェブブラウザー上で情報を見たい単語にカーソルを合わせるだけで、関連情報がポップアップ表示されるもの。ブラウザーのプラグインを利用しており、Salesforceの画面でもSAPの入力画面でも表示可能だ。
「HyperIntelligence」機能で、Salesforce上にポップアップを表示
例えば、取引先の企業名にカーソルを持って行けば、取引先マスターと最近のトランザクションからその企業の最新の基本情報がポップアップ表示される。「もはやBIと呼んで良いのかも分からない。そしてこれは、後ろの仕組みがクラウドかどうかも関係ない」と印藤プレジデント。
データを見る人たちは、BIレポートを見たいわけではない。必要な情報を必要なタイミングで見たいだけだ。それを実現するために、クラウドも含めどのような環境を構築できるか、それがクラウド時代のデータ活用では重要なカギとなる。