世界最大の人口を抱え、急激な経済成長を遂げた中国は、多くの企業にとって重要な市場と位置付けられている。中国に進出する日系企業は、世界の中で最も多く、日系企業を主な顧客とする日系ITベンダーにとっても多くのビジネスチャンスがある。しかし、最近では日系企業に照準を合わせる中国のITベンダーの存在感も増しつつあり、今後、日中のベンダーによる競争は激しくなる可能性がある。中国市場は日系ベンダーにとって成長の場になるか。日中のベンダーの声をもとに、日系ビジネスの現在地を探った。
世界最多の進出企業数
日系企業の事業展開は「拡大」
中国国家統計局によると、2018年末現在、中国大陸の総人口は前年比530万人増の約13億9500万人だった。日本の総人口約1億2000万人の約10倍で、依然として世界一の座を維持した。
少子高齢化が進む日本では、企業が海外に活路を見出そうとする動きがある。外務省の海外在留邦人数調査統計によると、18年10月1日現在、海外に進出する日系企業の総数は7万7651拠点となり、前年の同じ時期に比べて2120拠点増えた。
地域別で最も多かったのは、アジアの5万4341拠点で、北米9773拠点、西欧5928拠点と続いた。国別では、中国が3万3050拠点で最多となり、米国8929拠点、インド5102拠点の順になった。
これまで二ケタの経済成長を続けてきた中国の国内総生産(GDP)は、米国に次ぐ世界2位。長引く米中貿易摩擦を背景に成長率は鈍化しているとの声もあるが、それでも成長路線を維持している。そのため、日系企業には、投資のチャンスはまだあるとみる向きもあるようだ。
日本貿易振興機構(ジェトロ)がまとめた「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業活動実態調査―中国編―」によると、調査に答えた756社のうち、半数近い48.7%の企業が、今後1~2年の事業展開の方向性を「拡大」と回答した。
「中国の重要性は増している」
BtoB向けを中心に事業を拡大
経済成長に伴う人件費の上昇や米中貿易摩擦など、中国に進出する外資企業にとっては不安要素もある。しかし、日系ベンダーにとって、世界一の人口と、世界で最も多い日系企業の両方がある中国市場は、成長のために欠かせないとの見方が多い。
キヤノン中国の小澤秀樹社長は、グローバル市場の中で「われわれは20年前から中国市場を重視してきたが、中国ビジネスは年々、重要性が増している」と述べ、今後はBtoB向けビジネスを中心に事業を拡大すると強調する。
キヤノン中国
小澤秀樹 社長
小澤社長は「かつての中国は閉鎖的だったが、今は政府が市場の開放や知的財産の保護に積極的になっており、われわれのような外資企業にとっては、投資しやすい環境になっている」と説明。中国政府が進める一連の市場開放政策に対して歓迎の意を示す。
そのうえで「中国は、オフィス関連や医療関連の市場は拡大の途中で、これらの領域はチャンスが多い」とし、「ほかにも監視カメラや商業印刷、ファクトリーオートメーション(FA)、放送・映画関係などを含めて、BtoB領域の需要を徹底的に掘り起こしてビジネスを拡大していく」と語る。
特に注目しているのは、第5世代(5G)移動通信システムだ。小澤社長は「5Gによる高速、大容量、低遅延の通信は、ビジネスの領域をいろいろな面で進化させ、人工知能(AI)やIoTもスムーズに進化させるだろう」とし、「今後は、われわれが持っている製品と5Gをうまく連動させていくことに力を入れる。まだ具体的なことは話せないが、5Gは絶好のチャンスになると思っている」と話す。
これまでキヤノンの中国事業をけん引してきた中国のカメラ事業は、グローバルのカメラ事業の中で最も大きな割合を占める。しかし、世界の状況と同じように、最大市場の中国も「スマートフォンの台頭で停滞してきている」と小澤社長は認める。
一方で「中国は約14億人の人口を抱える巨大な市場で、3級以下の都市は開拓できていないところがまだある」と潜在的な需要を見込み、「全世界の撮影数はどんどん増えており、写真に対する関心は高まっている。カメラを使えば、難しい場所でもいい写真を撮ることができる点を訴求すれば、カメラ事業はまだ伸びていくだろう」との見通しを示す。
具体的には「非常に伸びているミラーレスカメラとミラーレス用のRFレンズを軸に市場の開拓を積極的に進める」とし、ほかにも「カラビナ型のウェアラブルカメラや、写真を撮ってすぐ印刷できるカメラを出すなど、できることを徹底的にやっていくつもりだ」と意気込みを語る。
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