「GIGAスクール構想」が新たな特需を生むか
補正予算に
2318億円を計上
さらに、JCSSA新春セミナーで2020年のPC需要を支える動きとして各社が言及したのが、「GIGAスクール構想」だ。教育の現場向けに、児童生徒1人1台の学習用端末と高速大容量の通信ネットワーク、クラウド環境などを一体的に整備する国の施策で、19年12月13日に閣議決定され、今年度の補正予算にそのための経費2318億円が計上されている。国は23年度(24年3月)までの5年間でこうした環境整備を完了させたい考えだ。
GIGAスクール構想では、学習用端末や校内LAN整備の標準仕様も提示されている。学習用端末については、Windows、Chrome OS、iPadOSの三つのOSについてそれぞれ標準仕様が示されているが、ブラウザーベースでクラウドサービスを活用できるという前提の下、デジタル教科書・教材のユーザビリティを確保するために、タッチパネル、ハードウェアキーボード、QRコード読み込みを想定したインカメラ/アウトカメラを搭載することが共通仕様になっている。また、価格は5万円程度の想定だという。
Windows、Chromebookとも
需要あり
アップル以外のPCメーカーは、Windows PCとChromebookでGIGAスクール構想向け商材を揃えることになる。OSメーカー側もGIGAスクール構想需要の刈り取りを重視する姿勢を見せており、日本マイクロソフトは2月4日、日本エイサー、日本 HP、NEC、Dynabook、デル、富士通、マウスコンピューター、レノボ・ジャパンの8社のデバイスパートナーと連携して、GIGA スクール構想の標準仕様に適合したWindows 10デバイスを「GIGA スクール対応 PC」として“特別な低価格”で提供すると発表した。
一方、例えばHPは米国の文教市場で導入が進むChromebookで大きなシェアを持っているという。日本HPの九嶋専務は、「そうしたノウハウを生かして日本市場でも文教市場の需要に応えたい」との意向も示しており、他のメーカーもChromebook製品を含む製品ラインアップを揃え、GIGAスクール需要に対する選択肢を拡充しようとしているケースが多数派だ。
また、DXや働き方改革のニーズと同様に、GIGAスクール構想は無線LAN環境の整備などと合わせて複合型の提案で商機を拡大できるフィールド。PCメーカーはここでもパートナーとの連携を重要施策に掲げ、Windows 7 EOS後の市場の新たな成長エンジンとしたい考えだ。
地方市場に新たな活路を見出す動きも
法人向けが柱の
VAIO
JCSSAの新春セミナーでPCメーカー各社が20年の戦略を発表する中、異彩を放ったのがVAIO。同社が強調したのは、メーカーとしての“ものづくり”へのこだわりと、地方市場での新規顧客開拓の方針だ。
松山敏夫・取締役執行役員常務営業統括本部長は、「独立して約5年半が経過した。販売パートナーのみなさんのおかげで法人向け販売が大変伸長しており、販売台数ベースで7割以上が法人向けとなっている」と説明。その上で、「VAIOが胸を張れるのはものづくりへのこだわり。所有欲を満たす高い質感を追求したり、ユーザー、パートナーの個別の要望などにも対応して差別化を図っていく」とした。
VAIO
松山敏夫 常務
東京一極集中是正へ
新拠点開設
20年の拡販戦略では、ビジネスエリアのカバレッジを広げることが最優先だという。「全体の売り上げの87%が東京に集中している」(松山常務)という課題を踏まえ、今年3月には大阪市と名古屋市に拠点を開設する。松山常務は、「現状、地方の販売パートナーのサポートも満足にできていないので、まずは拠点を構えてそこをしっかりやる」と話す。さらに、「拠点ができれば自然と売れるわけではない。地方ではVAIOはコンシューマー向け製品のメーカーというイメージも根強く、そもそも『VAIOはまだ生きていたのか』と言われてしまうこともある。地方における露出を高めていくことも重要な施策だと考えている」とした。地方の販社開拓とプロモーション、マーケティングを一体的に進めることで新たな市場を開拓し、特需の後の成長につなげる。
大塚商会
有力販社はPCビジネスにどう向き合う?
「単品販売」を超えた提案力が必須に
少なくない残存Windows 7機
歴史的なPC特需の後を販売パートナー側はどう乗り越えようとしているのか。
大塚商会は、19年12月期の連結決算で、売上高が前期比116.7%の8865億3600万円、営業利益は129.4%の621億9200万円、経常利益は129.3%の637億600万円といずれも過去最高を記録。19年7月29日に業績予想を上方修正していたが、その修正計画も上回る好業績となった。やはり最大の要因は、PC販売の好調だ。
一方で、20年12月期は通期で売上高8640億円、営業利益637億円、経常利益646億円と減収計画を打ち出した。増収増益を続けてきた大塚商会にとっても、今回の特需の影響は大きい。
DXや働き方改革のニーズ、GIGAスクール構想ニーズは、当然同社としても今後積極的に刈り取っていくが、Windows 7のサポートが終了したとはいえ、もちろん世の中のPCが全てWindows 10機になったわけではない。市場に残るWindows 7機の更新も重点施策の一つだ。
日本マイクロソフトは昨年末、「12月現在、Windows 7機が法人市場で813万台、コンシューマー市場で679万台残存していると推測され、20年1月時点でも法人市場で753万台、一般家庭で638万台が稼働しているものと推測される」と発表(図参照)。Windows 10への更新対象となるPCは、まだまだ多い。
複合ソリューションの提案に手応え
取りこぼしをしないという意味で、残っているWindows 7機の更新は重要だが、同社がより重視しているのは、単品のモノ売りではない、複合的なソリューション提案により、既存顧客へのアップセルや新規顧客の開拓を図ることだ。
大塚裕司社長は、「(14年の)『Windows XP』の特需と違って、今回は単なるPCの買い替えではなく、働き方改革のためのモバイル系のソリューションやネットワーク環境の整備に関する商材が追加で受注できているケースが多い」と話す。複数の商材を組み合わせたソリューション提案が営業の現場に根付いてきている手応えがあるという。
大塚裕司 社長
働き方改革関連法の段階的施行などが影響し、「今年春から夏にかけて、生産性向上のための真の意味での働き方改革に取り組もうとする中小企業が増えるはずで、それは何か一つのIT商材だけで対応できるニーズではない」と大塚社長は見ている。PCを含む生産性向上のための複合提案に注力することで特需の反動をカバーしたい意向だ。「社内予算としては増収を目指している」(大塚社長)ともしており、その可否を握る施策でもある。