多様な働き方の実現を目指し、2019年4月から順次施行された「働き方改革関連法」。そこで定められた項目のうち、大企業ですでに始まっている「時間外労働の上限規制」が20年4月以降、中小企業にも適用される。その対応に向けて、中小企業においても現在の働き方を見直す動きが本格化しそうだ。働き方改革を支援するITツールを提供するIT企業は、どのような製品を提供し、中小企業の働き方改革を支援していくのか。
(取材・文/前田幸慧)
働く人それぞれに合った
柔軟な働き方の実現へ
働き方改革関連法は、労働基準法など8本の労働法を改正するための法律の通称。正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」という。「一億総活躍社会」を掲げる安倍晋三首相肝入りの改革として議論が進められ、18年6月に法案が成立。労働基準法の制定以来「70年ぶりの大改革」として、19年4月から順次施行された。
政府が働き方改革を強力に推し進めようとする背景には、少子高齢化に伴う労働力人口の減少がある。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、現在約1億2600万人の総人口は、29年に1億2000万人を下回り、その後も減少を続け、65年には9000万人を割ると予測されている。
中でも労働力となる15歳から64歳までの生産年齢人口は、29年に7000万人を割り、65年には4500万人まで減少。一方で、65歳以上の人口は増加し、65年には高齢化率38.4%、国民の2.6人に一人が65歳以上になる見込みだという。
こうした状況下でも日本が持続的に成長していくために、労働力の確保や生産性の向上を重視。特に近年は、育児や介護と仕事の両立など、働く人のニーズが多様化している。一人一人にとって働きやすい職場環境を整えることで、就業機会の拡大や生産性の向上につなげ、企業の成長を促す。それに向けた法整備として施行されたのが働き方改革関連法というわけだ。
時間外労働規制が適用
対応が迫られる中小企業
働き方改革関連法で定められた主な項目は、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得義務、終業から次の始業までに一定時間を確保する「勤務間インターバル制度」導入の努力義務など(表参照)。19年4月から段階的に施行されてきた。
その第2フェーズが今年4月に訪れる。最たるものは、19年4月の施行時点では大企業だけを対象としていた時間外労働の上限規制が、中小企業にも適用されることだ。
具体的には、これまで労使が「36(サブロク)協定」を結ぶことで実質的に青天井となっていた残業時間に上限を設定。原則「月45時間、年360時間」とし、労使で合意した場合でも「月100時間未満、年720時間、2~6カ月平均80時間」を超えてはならない。違反した場合、30万円以下の罰金または6カ月以下の懲役が科せられる。
また、今年4月には、大企業に対して正社員と非正規社員間の不合理な待遇差を禁じる「同一労働同一賃金」が義務化される。これも21年4月には中小企業も適用対象となる。
東京商工会議所が中小企業に行った「人手不足への対応に関する調査」(19年6月6日発表)では66.4%の企業が、人員が「不足している」と回答。前年度調査から1.4ポイントの増加で、中小企業の人手不足は依然として深刻な状況が続いている。中小企業は大企業と比較して人員や資金力に限度がありながらも、長時間労働の是正や生産性の向上へ取り組むことが求められている。
同じく商工会議所が19年6月6日に発表した「働き方改革関連法の認知度・準備状況に関する調査」では、時間外労働への上限規制について「対応済・対応の目途が付いている」と回答した企業は63.1%で、前回調査(18年10月~12月)と比べて17.2ポイント増加。中小企業において対応準備に動いている状況がうかがえる。
業務プロセスを見直し
生産性を向上させる好機
働き方改革では、従来の業務プロセスを見直しながら、ITなどを活用して業務の効率化や生産性の向上に取り組むことが求められてくる。大企業だけでなく中小企業においてもそうした動きが本格的に拡大すれば、IT企業にとってはビジネスチャンスがさらに広がることになりそうだ。特に、さまざまなIT製品・サービスを擁するSIerやディストリビューターにとっては、顧客のニーズに合わせて複数の商材を組み合わせながら働き方改革を提案できる可能性が増えてくるだろう。
次のページからは、特にITディストリビューターにフォーカスをあてて、各社の働き方改革提案を見ていく。
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