Special Feature
GIGAスクール構想が 巨大市場を生む! PC需要の新たな本命になるか
2020/03/19 09:00
週刊BCN 2020年03月16日vol.1817掲載
新たな特需に沸き立つIT業界
GIGAスクール構想対応商材が続々市場に
いち早く動いたマイクロソフト
IT業界はGIGAスクール構想に呼応する形で、対応したハードウェアや製品パッケージを用意している。いち早く動き出したのが、日本マイクロソフトだ。20年2月4日に、「GIGAスクールパッケージ」の提供を開始すると発表。同日には全国の教育委員会関係者を対象にした「GIGAスクールパッケージ」の説明会を都内で開いた。
日本マイクロソフトのGIGAスクールパッケージは、「GIGAスクール対応PC」「GIGAスクール構想に対応した教育プラットフォーム」「MDMによる大規模な端末展開とアカウント管理手法の提供」「教育研修の無償提供」「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドラインに対応可能なクラウド環境」の五つで構成。端末からソフトウェア、デバイスとIDの管理、教員に対するICTスキル教育、クラウド活用の提案までを網羅したものになっている。
GIGAスクール対応PCは、「特別な低価格ライセンスを活用した製品」(日本マイクロソフト)であり、1台あたり4万5000円の補助を想定した価格設定が可能になるという。GIGAスクール構想の閣議決定後に、米本社、アジア、日本をまたぐバーチャルチームを作り、この構想に最適化したライセンスやプログラム開発を行ってきた成果だとしている。Dynabook、デル、日本エイサー、日本HP、NEC、富士通、マウスコンピューター、レノボ・ジャパンの8社から、標準仕様に準拠した17機種が用意されている。今後、ラインアップはさらに増加していくという。
GIGAスクール構想に対応した教育プラットフォームでは、教育機関を対象にした日本独自のライセンス「Microsoft 365 Education GIGA Promo」を新たに用意。OSのWindows 10 Pro Education Upgrade、学習用基本ツールとしてのOffice 365 ProPlus、端末管理ツールのIntune for Educationで構成し、2760円という戦略的な価格を設定した。Office 365が持つ共同編集機能やコラボレーションハブなどの機能を利用して、協働学習をサポートするほか、教育の働き方改革に利用することも想定している。
MDMによる大規模な端末展開とアカウント管理手法の提供では、Microsoft Intuneを活用した新たな導入と運用方法を提案しており、900万人の児童生徒を対象に端末のアカウント管理を展開できるようにした。Microsoft Intune Modern Desktop Deploymentを採用しているのが特徴で、クラウドによる環境設定とアカウント登録、初期設定の自動化などにより、導入プロセスを短縮。約3分の1のコスト削減を実現するとともに、運用の遠隔サポートも可能にする。
教育研修の無償提供では、都道府県および政令指定都市の教育センターを対象にした研修プログラムを用意。これにより、各市町村の研修トレーナーを育成することになる。「教員の研修予算はGIGAスクール構想の予算に組み込まれておらず、自治体負担になる。そこで教員研修の無償提供をパッケージの中に組み込んだ」(日本マイクロソフト)という。同社のコラボレーションツール「Teams」を利用したオンライン研修コースでGIGAスクール構想向けの研修メニューも用意する。
教育情報セキュリティポリシーに関するガイドラインに対応可能なクラウド環境では、文字通り、文部科学省が17年10月に発表した「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に対応したクラウドサービスとしてMicrosoft Azureが運用されていることなどを示し、教育分野で活用するクラウドサービスとしてAzureが最適であることをアピールしている。
日本マイクロソフトの中井陽子・業務執行役員パブリックセクター事業本部文教営業統括本部長は、「GIGAスクール構想の1日も早い実現に貢献するために用意したのが、今回のGIGAスクールパッケージ。GIGAスクール構想に対応した特別な低価格ライセンスなどを用意し、日本の初等、中等教育機関に提供する」と語る。
レノボはNTTコムなどと
パッケージを用意
一方、レノボ・ジャパンは、「GIGAスクールパック」を用意している。GIGAスクール構想に最適化したWindows 10搭載の「Lenovo IdeaPad D330」やChrome OS搭載の「Lenovo 300e Chromebook 2nd Gen」に、NTTコミュニケーションズが開発したクラウド型教育プラットフォーム「まなびポケット」、端末設定やセキュリティ管理を行う「Intune for Education Windows Autopilot」「Chrome Education Upgrade」、東京書籍とレノボ、NECパーソナルコンピュータが共同開発した学校用プログラミング教材「みんなでプログラミング」、アドビシステムズのクリエイティブツール「Adobe Spark」をパッケージ化したものだ。
1台あたり4万4990円で提供し、GIGAスクール構想で示された予算枠の中で、PC本体、管理ツール、学習コンテンツを調達できるようにする。販売対象はGIGAスクール構想の対象となる小学校、中学校となり、学習塾などや個人には販売しない。
レノボ・ジャパンの安田稔・執行役員副社長は、「レノボ・ジャパンは、1人1台時代に向けて必要十分な端末を低価格で提供すること、クラウドをフル活用し、教職員の負担を軽減する提案を行うこと、利活用効率を向上させるための教育コンテンツを含めた提案を行うことにコミットしている。GIGAスクールパックは、それを実現する製品になる」と位置付ける。
主要PCメーカー各社が参加
SIer、ディストリビューターの
動きも活発化
内田洋行とNTTグループ(NTT東日本、NTTコミュニケーションズ、NTTデータ、NTTドコモ、NTTラーニングシステムズ)は、教育分野における複雑な機器の仕様やネットワーク構築について、自治体や学校からの問い合わせなどに対応する「GIGAスクールホットライン」を開設する。
「校内ネットワークを整備する際の構成について相談したい、タブレット選定の際のポイントを知りたい、優良事例や導入効果などを知りたいといった教育現場からの問い合わせに対応するものになる」という。
このほかにも、SIerやディストリビューターが、GIGAスクール構想向けのソリューションを独自に用意し、提案活動を行うといった動きも始まっている。さらには、教育現場で日常的にICTを活用できる体制を敷くための教員向け教育体制の確立、校務の効率化による教育の働き方改革も今後の重要なテーマの一つであり、IT業界にとっては、ここにもビジネスチャンスが生まれることになる。
構想実現には課題も少なくない
メリットを享受できる環境を多角的に整備すべき
自治体への啓発も必要不可欠
GIGAスクール構想の推進においては、いくつか気になる課題もある。
1人1台環境の整備は、今年度補正予算だけで実現するものではなく、「教育のICT化に向けた環境整備5カ年計画」も活用しなくてはならない。ここでは、3クラスに1クラス分程度の情報端末を整備することが盛り込まれている。つまり、整備台数の3分の1は地方財政措置で実行されることになる。すでに地方財源を活用した整備が進んでいたり、首長をはじめとする各自治体トップおよび地域関係者の教育ICTに対する意識が高い場合はいいが、そうでない場合は、整備計画の実行にもブレーキがかかりかねない。これまでの2年間は、残念ながら成果が生まれているといえる段階にはなく、整備状況は地域間で格差が広がっている。全国一律での整備を進めるには、自治体の意識を高めたり、教育PC整備を本格化させるための働きかけが必要だといえる。
児童生徒が安心して利用できる教室内のネットワーク環境の整備についても課題は大きい。Wi-Fi 6をはじめとする最新技術を活用したネットワーク製品の提案がどこまで受け入れられるかが重要な要素になる。
日本HPの九嶋俊一・専務執行役員パーソナルシステムズ事業統括は「教室内で40台のデバイスが一斉にネットワークにつながると、授業が止まってしまうという問題が発生する可能性がある」と指摘する。日本HPはWi-Fi 6の提案によって、デバイスだけでなく、ネットワークを含めたソリューションの提案を進める。Wi-Fi 6ではMU-MIMO(位相をずらして複数の端末に向け電波を同時に送信することができる)が上り通信にも適用されるほか、実効速度の高速化も達成しており、同時接続数が多い教室においては有効だ。
またバッファローは、無線LANアクセスポイントに、2系統の5GHzと1系統の2.4GHzの三つの帯域で同時通信する「トライバンド」、端末を適切な帯域に分散させる「バンドステアリング」のほか、干渉しないチャンネルへと自動的にチャンネル切り替えを行い、授業中の無線LAN停止を防ぐ「DFS障害回避機能」、接続している全てのタブレットが均等に通信できるように速度を自動制御し、安定した無線LAN環境を実現する「公平通信制御」などを搭載。GIGAスクール需要の獲得を狙う。
インテルの動向も
影響は大に
標準仕様のスペックが低い点も懸念点だ。特にWindows 10搭載PCではCPUがCeleron、メモリが4GBとなっており、今後数年にわたって、教育アプリなどをスムーズに稼働させることができるのかは疑問だ。日本マイクロソフトの梅田成二・執行役員コンシューマー&デバイス事業本部デバイスパートナー営業統括本部長は「Celeronベースだが新たなアーテキクチャーとなっており、学校でアプリケーションを利用する上では問題がないと判断している」と話すが、教室での快適な利用環境が維持できるのかについては継続的な検証が必要だろう。
また、18年後半から続いているインテル製CPUの供給不足も課題の一つだ。インテルでは、20年中にも供給不足の解消を見込んでいるが、GIGAスクール構想の対象となるのは、これまでインテルが供給量を減らしてきたCeleronなどのローエンドモデル。PCメーカーはAMDやメディアテックからもCPUを調達して、安定調達につなげたい意向だ。インテルもGIGAスクール構想への協力を表明しているが、新たなPC需要の創出に水を差さないことを期待したい。
「現状、日本は教育現場におけるPCの使用率が国際的に最低の水準にある」(NTTコミュニケーションズの稲田友・スマートエデュケーション推進室担当課長)点も懸念される。電子機器が使われず“文鎮化”してしまうのを防ぐために、教員のスキル向上や導入したITソリューションの運用などの支援についてもより詳細な検討が必要だろう。
1台あたり4万5000円を上限としたビジネスを余儀なくされることから、IT業界が利益を得ることができるビジネスになるのかどうかも気になるところだ。GIGAスクール構想は、これまでにない規模の教育市場向けプロジェクトだ。児童生徒や教員にとってのメリットは当然のことながら、IT業界にとってもメリットをもたらすプロジェクトにしなければならない。
OSのシェア争いにも注目
Chrome OS躍進のきっかけになるか
GIGAスクール構想による端末の導入では、Windows、Chrome OS、iOSのシェア争いも気になるところだ。特に注目されるのがChrome OSだ。日本マイクロソフトは「国内教育PC市場において85%のシェアを獲得している」と胸を張るが、PCメーカーなどからは「GIGAスクール構想によって、Chrome OSを搭載したChromebookのシェアが拡大する可能性がある」との声もあがる。先ごろChromebookの投入を発表したNECでは、「教育分野におけるChromebookの導入率は、米国では約6割強、全世界でも5割に達しているが、日本ではまだまだ少ない」としながらも、「将来的には、日本でもChromebookの構成比が5割程度に達するのではないか」と予測する。
Chrome OSの特徴は、電源ONからログイン画面までの時間が約10秒という高速性や、常に最新の状態で利用できる自動アップデート、初期設定の簡単さや複数のデバイスの管理性の高さ、隔離されたサンドボックス内で作業が行われるため、ウイルス対策が不要である点などだ。「Chromebookの導入によって、運用管理コストが3分の1から、4分の1に削減できた事例もある」(グーグル)という。
レノボ・ジャパンの安田副社長も、「これまでWindows環境でPCを導入し、教材アプリなどを利用していた学校ではWindows 10搭載モデルを選択し、簡単に運用をしたいというニーズが高い学校では、Chromebookを選択することになるだろう」とする。ICTスキルが低いと言われる学校現場では、運用、管理面でメリットがあるChrome OSを選択するケースが増えそうだ。
教育現場にChromebookが広がれば、一般市場にも広がる足掛かりが生まれる。その点でも、教育分野におけるWindowsと、Chrome OSの攻防が注目される。

GIGAスクール構想がいよいよスタートする。「子供たち1人1人に個別最適化され、 創造性を育む教育ICT環境の整備」を目的に、2023年度までに小学校・中学校の全学年の児童生徒1人1人が端末を持つ環境を実現するとともに、校内における高速大容量のネットワーク環境を構築すべく国が進める施策だ。3月上旬には、補助金交付申請書の提出がはじまり、3月中旬には交付が決定する。950万台規模の需要が見込まれ、新たなPC市場の創出に、IT業界は沸いている。
(取材・文/大河原克行)
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